著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Plants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:効かなくなる抵抗性遺伝子に代わる資源を探す
コムギのうどんこ病は、カビの一種が葉に感染して起こる病気で、世界的に被害の大きい葉の病気の一つとされています。対策として最も経済的なのは、病気に抵抗する遺伝子(抵抗性遺伝子)をコムギの品種に組み込むことです。うどんこ病の抵抗性遺伝子は「Pm遺伝子」と呼ばれ、これまでに正式に命名されたものだけで72種類あります。
しかし病原菌も変化するため、育種で広く使われてきたPm遺伝子の中には、一部の地域で効果を失ったものがあります。そのため、新しい抵抗性の供給源を見つけ、品種の抵抗性の種類を多様にしておくことが求められています。
中央アジアには多様なコムギの遺伝資源がありますが、うどんこ病への抵抗性についての体系的な研究はこれまで限られていました。研究チームは、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの3か国から集めた192系統のコムギを対象に、抵抗性をもつ系統を探し、その抵抗性を支える遺伝子を明らかにし、育種に使える可能性を評価することを目指しました。
どのように調べたか
研究チームは、各系統の幼苗の葉を切り取って培地に置き、うどんこ病菌を接種して発病の程度を調べました。まず1種類の菌株で試し、抵抗性を示した系統には、中国各地で集めた別の12菌株も接種しました。
抵抗性を示した系統については、病気にかかりやすい品種と交配して得た子孫の世代で、抵抗性がどのように受け継がれるかを調べました。あわせて、すでに遺伝子が特定されているPm遺伝子を見分けるためのDNA目印(分子マーカー)を使い、どの遺伝子を持っているかを検出しました。マーカーで見つかった遺伝子は実際に配列を読み取り、既知の遺伝子と比べています。さらに、染色体を観察する手法で一部の系統のゲノム構成を確かめ、草丈や種子の重さなどの栽培上の特徴も測定しました。
主な結果:5系統が高い抵抗性を示す
論文によると、192系統のうち5系統が高い抵抗性を示し、ほかに48系統が中程度の抵抗性を示しました。
高い抵抗性を示した系統のうち、デュラムコムギ(パスタなどに使われる種類)の2系統、ZY110とZY117は、抵抗性遺伝子Pm68を持っていました。その配列は既知のPm68と完全に一致していました。交配で得た子孫の世代では、Pm68のマーカーを持つ個体はすべて抵抗性、持たない個体はすべて病気にかかりやすく、マーカーと抵抗性がそろって受け継がれることが確認されました。著者らは、もともとギリシャの資源で知られていたPm68が中央アジアのデュラムコムギにも存在することから、この遺伝子が元の供給源を大きく越えて広がっていると述べています。
パンに使われる普通系コムギの系統ZY1からは、Pm26の新たな変異型の候補が見つかりました。Pm26は対になって働く2つの遺伝子からなり、ZY1の配列は一方では既知の配列と99.63%、もう一方では92.30%一致していました。これまでの大規模な調査でPm26が見つかったのは野生のエンマーコムギだけでした。そのため著者らは、この遺伝子座が普通系コムギにも存在する可能性を示す結果だとしています。ただし、この変異型が実際に抵抗性を担うかどうかは、今後の機能確認が必要だと論文は明記しています。
論文が最も注目すべき成果として挙げているのは、残る2系統ZY47とZY95です。染色体の観察から、この2系統はコムギとライムギの染色体を併せ持つ雑種系統であることが確かめられました。どちらも複数の菌株に抵抗性を示した一方、ライムギ由来のものを含め、試した既知のPm遺伝子のマーカーはいずれも検出されませんでした。研究チームはこの結果から、2系統がこれまで知られていないライムギ由来の抵抗性の候補源である可能性を指摘しています。ただし、本当に未知の遺伝子によるものかを確かめるには、遺伝子の位置の特定や機能の解析がさらに必要だとしています。
栽培上の特徴の予備的な評価では、系統ごとに長所が異なりました。ZY1は分げつ(株元から出る茎)が多く、ZY47とZY117は千粒重(種子の重さの指標)が高い結果でした。著者らは、これらの系統が抵抗性を優良品種に導入する際の交配親として有望だとしています。一方、ZY95は穂の形質は良好でしたが千粒重が低く、さらに改良が必要だとしています。
この研究が示すこと
この研究は、これまで体系的な調査が乏しかった中央アジアのコムギ遺伝資源の中に、うどんこ病への抵抗性をもつ系統が含まれていることを示しました。既知の遺伝子であるPm68やPm26の候補変異型の所在を明らかにするとともに、未知の可能性があるライムギ由来の抵抗性の候補も見いだしています。既存の抵抗性遺伝子が効かなくなりつつあるなかで、著者らはこれらの系統が中央アジアのコムギ育種に利用できる遺伝資源となり、抵抗性遺伝子の選択肢を広げるものだと位置づけています。
原著論文の著者・所属:Muhammad Nosherwan(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Muhammad Hammad Latif(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Junyu Ma(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Tao Chen(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Muhammad Saqlain(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Qianyi Guo(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Ke Zhang(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Chunxiao Wang(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Wei Zhu(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Lili Xu(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Dandan Wu(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Yonghong Zhou(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Houyang Kang(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)、Yinghui Li(State Key Laboratory of Crop Gene Exploration and Utilization in Southwest China, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China; Triticeae Research Institute, Sichuan Agricultural University, Chengdu 611130, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Nosherwan, Muhammad Hammad Latif, Junyu Ma, et al. Screening Central Asian Wheat Germplasm for Powdery Mildew Resistance and Molecular Characterization of Disease Resistance Genes. Plants 2026-10-10. DOI: 10.3390/plants15203106. 原著ライセンス:CC BY.