著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:カテキン量を左右する遺伝子を探る

お茶の渋みや苦みの一部を生み出し、お茶の品質を決める主要な成分の一つがカテキン類です。中でもEGCG(エピガロカテキンガレート)は、茶に最も多く含まれるカテキンです。カテキンがどのような酵素の働きで作られるかは、すでにかなり詳しく分かっています。一方、遺伝的な要因がその流れをどう調節しているかは、十分には解明されていません。

遺伝子の働きは、DNAの配列そのものだけでなく、DNAに目印のような化学的な変化を加える「DNAメチル化」によっても調節されます。植物には、このメチル化に関わる「クロモメチラーゼ(CMT)」という植物特有の酵素群があります。これまでの研究では、茶の葉のメチル化の変化とカテキン量の変化に関連が見られていました。ただし、その証拠は主に相関にとどまり、CMT遺伝子がカテキンの蓄積を実際に調節しているかは分かっていませんでした。研究チームは、チャノキのCMT遺伝子を網羅的に調べ、その一つがカテキンの量に関わるかを確かめようとしました。

何を調べたか

研究チームはまず、チャノキ品種「舒茶早」のゲノム情報を調べました。その結果、CMT遺伝子としてCsCMT1、CsCMT2、CsCMT3a、CsCMT3bの4つを見つけました。中でもCsCMT2はCMT2というグループに属する茶で唯一の遺伝子で、タンパク質の長さや遺伝子の構造などが他の3つと異なっていました。

次に、これらの遺伝子がどの組織でよく働くかを調べました。すると、茶葉として摘み取られる芽や若い葉で多く働いていることが分かりました。さらに、茶の重要な病気である炭疽病の病原菌に感染させた8品種で調べたところ、品種による働きの違いが最も大きかったのがCsCMT2でした。

そこで著者らは、CsCMT2がカテキンの合成に関わっているという仮説を立てました。これを確かめるため、2年生の苗の葉で一時的にCsCMT2を多く働かせる実験(過剰発現)と、ウイルスを利用してその働きを弱める実験(遺伝子サイレンシング)を行いました。そのうえで、カテキンとカフェインの含有量、カテキン合成に関わる遺伝子の働きを測定しました。

主な結果:働かせると減り、弱めると増えた

CsCMT2を過剰発現させた葉では、測定した6種類のカテキンがすべて減少しました。カテキンの合計量は、比較用の対照の乾燥重量1グラムあたり102.18ミリグラムから、38.30〜44.93ミリグラム(約0.37〜0.44倍)に下がりました。減少した量の大部分を占めたのはEGCGでした。

反対にCsCMT2の働きを弱めた葉では、カテキンの合計量が102.02ミリグラムから112.40〜112.98ミリグラム(約1.10〜1.11倍)に増えました。一方、カフェインの量はどちらの操作でも有意な変化を示しませんでした。

カテキン合成の経路で働く7つの遺伝子も、カテキン量と同じ方向に反応しました。過剰発現ではすべての遺伝子の働きが低下し、働きを弱めると逆に高まりました。特に、経路の後半を担う遺伝子の反応が強く、中でもカテキンにガロイル基を付けてEGCGなどを作る酵素の遺伝子CsSCPL1Aの変化が目立ちました。

この研究が示すこと

著者らは、正反対の操作で正反対の結果が得られたことを重視しています。そのうえで、CsCMT2をカテキンの蓄積を抑える方向に働く調節因子の「候補」と位置づけました。カフェインには影響が見られなかったことから、カフェインとは比較的独立にカテキンの量を変えられる可能性も論じています。

ただし著者らは、いくつかの点がまだ確かめられていないとしています。CsCMT2がDNAメチル化を通じて作用しているかどうかは、今回メチル化の量を測っていないため未検証です。実験は「舒茶早」1品種で行われており、品種によって効果の大きさが異なる可能性もあります。また、味そのものは直接評価されていません。今回の成果は、DNAメチル化に関わる遺伝子がお茶の品質成分の量と関係しうることを、遺伝子の働きを実際に操作する実験から示した一歩といえます。

原著論文の著者・所属:Vita Tjandra(College of Horticulture, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Zhan Yang(College of Horticulture, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Yilin Yao(College of Horticulture, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Xinxin Jia(College of Horticulture, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Yang Zhang(College of Horticulture, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Shifu Ma(College of Horticulture, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China; Wenxian Tea Industry Development Service Center, Longnan 746400, China)、Shujing Liu(College of Horticulture, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)、Xinghui Li(College of Horticulture, Nanjing Agricultural University, Nanjing 210095, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vita Tjandra, Zhan Yang, Yilin Yao, et al. The Chromomethylase CsCMT2 Negatively Affects Catechin Accumulation in Tea Plants. Foods 2026-10-11. DOI: 10.3390/foods15203618. 原著ライセンス:CC BY.