著者の所属・活動拠点の国は、エクアドル、スペインです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

南米エクアドルの先住民コミュニティでは、Piper carpunya(ピペル・カルプンヤ)という植物の葉が古くから利用されてきました。生の葉を使ったり、「グアビドゥカ」と呼ばれる伝統的な飲み物に加工したりして、風邪や胃腸の不調、皮膚のトラブルへの民間療法として親しまれてきたといいます。近年は「クリーンラベル」志向、つまり合成添加物を使わずシンプルな原材料で作られた食品への関心が食品業界で高まっており、植物由来の抽出物が保存料の代替候補として注目されています。今回紹介する研究は、このP. carpunyaの葉から作った抽出物に、食品を傷める微生物を抑える力があるかどうかを、まず試験管内で調べ、次に実際の食品(リゾット)で検証したものです。

葉から3種類の抽出物を作り、20種類の菌への効果を調べた

研究チームは2021年11月にエクアドル・ロハ県グアレルで採取したP. carpunyaの葉を乾燥・粉砕し、溶かす液体(溶媒)を変えて3種類の抽出物を作りました。エタノールで抽出したもの(ETOH)、エタノールと水を半々で使ったもの(ETOH-H₂O)、そして水だけで抽出して凍結乾燥させたもの(L)です。抽出できた量(収率)はそれぞれ1.71%、4.04%、10.85%で、水だけで抽出したものが最も多く回収できたとされています。

まず、これら3種類の抽出物を、食中毒の原因になったり食品を傷めたりする20種類の細菌に対して、寒天培地に穴を開けて抽出物を染み込ませる方法(アガーウェル拡散法)で試しました。その結果、8種類の菌で発育を抑える効果が確認され、抑制の輪(阻止円)の大きさは7〜16ミリ、菌の増殖を抑えられる最小の濃度(最小発育阻止濃度、MIC)は10〜80mg/mLの範囲だったと報告されています。最も効果が高かったのはエタノール抽出物(ETOH)で、Bacillus cereus(セレウス菌)、Campylobacter jejuni(カンピロバクター)、Clostridium perfringens(ウェルシュ菌)、Listeria innocua、Shewanella putrefaciens、Shewanella属菌、Yersinia enterocolitica(エルシニア)の増殖を抑えたとされています。特にウェルシュ菌に対してはMICが10mg/mLと、試した中で最も低い濃度で効果が見られました。論文では、P. carpunyaに含まれると報告されているフラボノイド(ビテキシンなど)やテルペノイド類、1,8-シネオールやサフロールといった揮発性成分がこうした作用に関わっている可能性が指摘されていますが、この研究自体では抽出物の化学成分を測定していないため、これはあくまで先行研究をもとにした推測だと著者らは断っています。

実際のリゾットに加えてウェルシュ菌の増殖を試験

試験管内での結果を踏まえ、研究チームは効果が高かったETOH-H₂O抽出物と、収率の高いL抽出物を選び、実際の食品での効果を調べる「チャレンジテスト」を行いました。使われたのは、米・生クリーム・牛乳・水を配合し脂肪分3.5%に調整した、市販品に近い加熱済みリゾットのモデル食品です。このリゾットにウェルシュ菌(CECT 376とCECT 563の2株)をあえて接種し、抽出物を8%(重量比)加えた場合と加えない場合とで、5℃保存下での菌の増殖を最大30日間追跡しました。8%という添加量は、試験管内で求めたMICの4倍(ETOH-H₂O抽出物の場合)に相当する量として選ばれています。

結果として、ETOH-H₂O抽出物を加えたリゾットでは、接種のみの対照群と比べてウェルシュ菌の菌数がおよそ2桁(log換算で約2)少なく抑えられ、保存15日目以降は検出限界を下回ったとされています。あわせて、好気性中温菌や低温性細菌(食品の腐敗指標となる一般生菌)の数も減らす効果が見られました。一方、凍結乾燥抽出物(L)の効果はより弱く、対照群との有意な差は保存4日目までしか続かなかったと報告されています。なお、L抽出物を加えた試料は保存開始時点(0日目)から菌数がやや高く、研究チームはこれを抽出物自体の製造工程での汚染による可能性があるとし、実用化には抽出物の除菌・衛生管理の工程が必要だと述べています。また抽出物を加えた試料はpHや水分活性(食品中の水の使いやすさを示す指標)もわずかに低下したとされています。

興味深いのは脂質の酸化に関する結果です。ポリフェノール類は一般に抗酸化物質として知られますが、この研究では抽出物を加えたリゾットの方が、対照群よりも脂質酸化の指標であるマロンジアルデヒド(MDA)の値がむしろ高くなる傾向が見られ、抗酸化ではなく「酸化を促す(プロオキシダント)」ように働いた可能性が示唆されています。著者らは、高濃度のポリフェノールが金属イオンの存在下などでこうした逆転現象を起こすことは知られていると説明しつつ、抽出物のフェノール含量や食品中の金属含量を実際には測定していないため、この解釈は暫定的なものだとしています。ただし実測されたMDA値は30日間を通じて最大でも0.32mg/kg程度にとどまり、一般に食品で不快な酸化臭(酸敗)が感じられるとされる2.0mg/kgという目安を大きく下回っていたことも強調されています。

この研究の位置づけと今後の課題

この研究は、エクアドルの伝統的な植物であるP. carpunyaについて、実際の食品の中でウェルシュ菌などの増殖抑制に使える可能性を示した一つの成果ですが、著者ら自身がいくつかの限界を挙げています。まず、抽出物に含まれる成分の詳しい化学分析は今回の研究の範囲外で、別の関連研究で扱われているとされています。また、8%という添加量は保存料として使うにはかなり高い量であり、P. carpunya自体が香りの強い植物であることから、味や香りへの影響(官能面への影響)を今後確かめる必要があると述べられています。凍結乾燥抽出物で見られた初期の菌数の高さも、製造工程の見直しが必要な点として指摘されています。全体として、この研究はP. carpunya抽出物が食品の微生物学的な安全性を高める天然素材となりうることを示唆する一方、実用化の前には化学的な成分の特定や官能評価といった追加の検証が必要だと結論づけています。

今回の要旨・本文には日本の研究機関や日本の食品・食習慣についての言及は見当たりませんでした。

原著論文の著者・所属:Jorge F. Reyes(Departamento de Química, Universidad Técnica Particular de Loja, San Cayetano Alto s/n, Loja 1101608, Ecuador)、Iván Burneo(Carrera de Ingeniería Ambiental, Facultad Agropecuaria y de Recursos Naturales Renovables (FARNR), Universidad Nacional de Loja, Loja 110150, Ecuador)、Ana M. Diez(Department of Biotechnology and Food Science, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain)、Beatriz Melero(Department of Biotechnology and Food Science, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain)、Jordi Rovira(Department of Biotechnology and Food Science, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain)、Isabel Jaime(Department of Biotechnology and Food Science, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Jorge F. Reyes, Iván Burneo, Ana M. Diez, et al. Evaluating the Potential of Piper carpunya Extracts: Antimicrobial and Antioxidant Effects in a Risotto Food Model. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15152762. 原著ライセンス: cc-by.