この研究は、イギリス、イタリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Trace Elements in Medicine and Biology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜセレン摂取量の「測り方」が問題になるのか
セレンは体に必要な微量元素ですが、不足しても摂りすぎても問題が生じるとされ、安全とされる摂取量の幅が狭いという特徴があります。近年、英国の人々の食事からのセレン摂取が十分かどうかについて懸念が示されてきました。著者らは、安全域が狭いからこそ、摂取量をできるだけ正確に測れることが重要だと述べています。
そこでこの研究では、食事調査から計算されたセレン摂取量と、血液中のセレン濃度をもとに推定した摂取量とを突き合わせ、両者がどの程度一致するのかを確かめることを目的としました。
二つの推定方法を突き合わせる
研究チームは、英国の全国的な食事・栄養調査(National Diet and Nutrition Survey、以下NDNS)に参加した成人のデータを用いました。一つ目の推定値は、参加者が報告した食事内容から計算したセレン摂取量(論文ではSe-NDNSと呼ばれています)です。もう一つは、参加者の血漿(けっしょう、血液から血球を除いた液体成分)中のセレン濃度をもとに、欧州食品安全機関(EFSA)のモデルを使って逆算した摂取量(Se-EFSA)です。
分析にあたっては、NDNSのデータを調査時期によって二つの期間に分けました。1〜11年目にあたる2008〜2019年の調査と、12〜15年目にあたる2019〜2023年の調査です。そのうえで、それぞれの期間について食事由来の推定値と血漿由来の推定値を比較しています。
報告された主な結果
血漿中のセレン濃度の平均は、1〜11年目が81.33 µg/L、12〜15年目が95.54 µg/Lで、新しい期間のほうが高い値でした。
摂取量の推定については、期間によって様子が異なりました。最初の期間では、食事由来の推定値が1日あたり46.79 µg、血漿由来の推定値が47.28 µgとほぼ同じ水準でした。ところが直近の期間では、血漿由来の推定値が69.19 µgとなり、食事由来の推定値43.47 µgを大きく上回りました。
また著者らは、二つの推定値の関係が直線的ではなく、調査期間によっても異なっていたと報告しています。血漿から推定した値のほうがばらつきが大きく精度が低い傾向があり、その傾向は摂取量が高い範囲や、より新しい調査年で顕著でした。一方で、性別や年齢層による違いはおおむね見られなかったとしています。
この結果が示すこと
著者らは、これらの結果から、食事調査にもとづく推定はセレンの摂取実態を低く見積もっている可能性があると述べています。ただし同時に、血漿中の濃度から摂取量をモデルで推定する方法にも限界と不確かさがあることが示されたとしています。つまり、どちらか一方を正解として扱える状況ではない、というのが報告の内容です。
そのうえで著者らは、生体指標(バイオマーカー)を十分に活用してセレンの摂取状況を評価できるよう、推定方法をさらに精緻にしていく必要があると結論づけています。英国で現在用いられているものを含め、セレンの食事摂取基準が適切かどうかを判断するには、まず測り方そのものの精度を高めることが前提になる、という指摘です。
著者:Susan Fairweather-Tait(Norwich Medical School, University of East Anglia, Norwich, UK. Electronic address: [email protected])、Marco Vinceti(CREAGEN, Environmental, Genetic and Nutritional Epidemiology Research Center, Department of Biomedical, Metabolic and Neural Sciences, University of Modena and Reggio Emilia, Modena, Italy; Department of Epidemiology, Boston University School of Public Health, Boston, MA, USA. Electronic address: [email protected])、Tommaso Filippini(CREAGEN, Environmental, Genetic and Nutritional Epidemiology Research Center, Department of Biomedical, Metabolic and Neural Sciences, University of Modena and Reggio Emilia, Modena, Italy; School of Public Health, University of California Berkeley, Berkeley, CA, USA. Electronic address: [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Susan Fairweather-Tait, Marco Vinceti, Tommaso Filippini. Assessment of selenium intake using data from the UK National Diet and Nutrition Survey: Methodological challenges. Journal of Trace Elements in Medicine and Biology 2026-09-21. DOI: 10.1016/j.jtemb.2026.127962. 原著ライセンス:CC BY.