この研究は、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

牛乳は栄養豊富な食品ですが、水分が多く栄養もそろっているため、微生物が増えやすく傷みやすい食品でもあります。特に低温での流通・保管(コールドチェーン)が安定しない地域では、牛乳の腐敗は乳業にとって大きな課題だと論文は指摘しています。

牛乳が傷むと、乳酸菌などの微生物が乳糖を分解して乳酸をつくり、牛乳は徐々に酸性に傾きます。新鮮な生乳のpH(酸性・アルカリ性の度合いを示す値)はおよそ6.6〜6.8で、保存中に下がっていきます。そのため、pHは牛乳の鮮度を判断する代表的な目安とされています。ただし、pH計や滴定、微生物の培養検査には専門の人や設備、時間が必要です。

赤キャベツに含まれる色素アントシアニンは、酸性では赤、中性付近では紫、アルカリ性では青や緑へと、pHに応じて色が変わる性質を持っています。著者らは、この天然色素を紙にしみ込ませた簡単な試験紙をつくり、機器を使わずに牛乳の鮮度を目で判断できるかを検証しました。論文は、赤キャベツのアントシアニンを牛乳の腐敗を直接見分ける指標として使えることを示した初めての研究だと位置づけています。

何を調べたか

研究チームは、インド・グジャラート州の酪農家から生乳を集め、常温で保管して、0時間から24時間までの決まった時点で牛乳の状態を調べました。測定したのは、pH、滴定酸度(牛乳に含まれる酸の総量の目安で、乳酸の割合として表す)、一般生菌数(培養して数えた微生物の数)です。さらに、乳酸の量に応じて色が濃くなる酵素反応を使った検査も行い、微生物の活動が進んでいることを別の方法でも確かめました。

試験紙は、刻んだ赤キャベツを水と一緒に砕いてこした抽出液に、クロマトグラフィー用の紙をひたし、冷蔵下で乾かしてつくりました。抽出液に含まれるアントシアニンの量は、生のキャベツ1キログラムあたり236ミリグラムと報告されています。使い方は、試験紙を牛乳に10〜15秒ひたし、2分以内に色の変化を観察するというものです。色はスマートフォンで撮影して数値化し、基準からの色の差も評価しました。

このほか、色素が紙に付いていることを赤外線分析で確かめたほか、同じ人が繰り返し使った場合や、別の人・別の製造ロットで使った場合に結果がそろうか、冷蔵で6か月保管した試験紙でも性能が保たれるかも調べました。

主な結果

保管時間が長くなるにつれて、牛乳のpHは新鮮な状態の6.67から、24時間後には4.81まで下がりました。滴定酸度は0.125%から0.456%へ上がり、生菌数も1ミリリットルあたり5×10⁴個から785×10⁴個へと大きく増えました。乳酸を調べる検査でも、保管時間とともに色が濃くなり、微生物による乳酸づくりが進んでいる様子が確認されました。

試験紙は、牛乳のpHの低下に合わせて段階的に色を変えました。論文によると、新鮮な牛乳(pH6.7〜6.5)では青、傷み始め(pH6.2〜6.0)では青みがかった紫、さらに進んだ段階(pH5.8〜5.2)ではピンクがかった紫、腐敗が進んだ牛乳(pH5.0〜4.8)ではピンクになり、4つの段階を目で見分けられたと報告されています。

繰り返し試験や、分析者・製造ロットを変えた試験でも色の反応に目立ったばらつきは見られず、冷蔵・暗所で6か月保管した試験紙でも性能は保たれていたとされています。一方で著者らは、保管温度を1種類しか試していないこと、赤外線分析だけでは色素が紙にどれだけしっかり固定されているかまでは断定できないことも、限界として挙げています。

この研究が示すこと

この研究は、身近な野菜である赤キャベツの色素と紙という簡単な材料で、牛乳が酸性に傾いていく様子を色の変化として目で読み取れることを示しました。専門の機器や訓練を必要とする従来の検査とは異なり、合成色素を使わない手軽な鮮度確認の手段として、天然色素を用いたインジケーターの可能性を示す報告といえます。

著者:Parita A. Mangroliya(College of Dairy Science, Kamdhenu University, Amreli, Gujarat, India)、Tanmay Hazra(College of Dairy Science, Kamdhenu University, Amreli, Gujarat, India)、Ankit Bihola(College of Dairy Science, Kamdhenu University, Amreli, Gujarat, India)、Rohit G Sindhav(College of Dairy Science, Kamdhenu University, Amreli, Gujarat, India)、Subhash Prasad(College of Dairy Science, Kamdhenu University, Amreli, Gujarat, India)、Kunal Kumar Ahuja(College of Dairy Science, Kamdhenu University, Amreli, Gujarat, India)、Ankit Thesiya(College of Dairy Science, Kamdhenu University, Amreli, Gujarat, India)、Akashkumar K. Solanki(College of Dairy Science, Kamdhenu University, Amreli, Gujarat, India)、Anamika Das(Sanjay Gandhi Institute of Dairy Technology, Bihar Animal Science University, Patna, Bihar, India)、Shaikh Adil(Parul Institute of Technology, Parul University, Vadodara, Gujarat, India)、Vimal M. Ramani(College of Dairy Science, Kamdhenu University, Amreli, Gujarat, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Parita A. Mangroliya, Tanmay Hazra, Ankit Bihola, et al. Development and validation of a red cabbage anthocyanin-based colorimetric indicator for milk spoilage detection. Scientific Reports 2026-10-05. DOI: 10.1038/s41598-026-61811-0. 原著ライセンス:CC BY.