著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:American Journal of Food and Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:学生の声をプログラムに変える過程を記録する

大学に通う若者にとって、健康的な食事や運動は「何が体に良いかを知っている」だけでは実現しにくいものです。いつ何を食べるか、食材をどう手に入れて調理するか、食費をどうやりくりするか、忙しく予定の読めない毎日にどう運動を組み込むか。実家を離れ、それまで家族に任せていた選択を自分で担うようになる時期だからこそ、こうした生活の技術が問われます。

研究チームは以前、米国の歴史的黒人大学(HBCU)を対象とした取り組み「BeFAB-HBCU」の一環として、学生の食生活や運動の実態を調べる予備的な調査(介入を設計する前に対象者のニーズや障壁を探る「形成的研究」)を行いました。その結果、食事の時間や回数が不規則であること、果物や野菜の摂取が少ないこと、食費への不安、調理環境の乏しさ、多忙な予定の中で運動の時間を確保しにくいことなどが報告されています。

本論文は、こうした調査結果をもとに、大学生向けの体験型プログラム「Fuel & Fit」をどのように開発したかを説明するものです。著者らによれば、大学で栄養や運動の支援プログラムは増えている一方、学生のニーズを具体的な内容へどう落とし込んだのかという開発の過程は十分に記述されてきませんでした。本論文は計画中の連続論文の2本目にあたり、プログラムの効果そのものではなく、その作り方に焦点を当てています。

どのように開発したか:分野横断のチームと大学の実情

開発は2025年10月に始まり、2026年春の実施期間まで続きました。チームには看護学、栄養科学、運動学(キネシオロジー)、公衆衛生学の教員や大学院生に加え、学内や研究のパートナーも参加しました。資格を持つ管理栄養士2人と栄養学の大学院生2人が食材の選定や調理法、栄養価、費用、学生にとっての実行しやすさを担当し、運動学の専門家は道具をほとんど使わず日常に取り入れやすい運動を検討しました。看護学の立場からは、運動をより広い健康づくりに結びつける視点が加えられました。

考え方の土台には、人は他者を見て学び、「自分にもできる」という感覚(自己効力感)を高めることで行動を変えていくとする社会的認知理論、実際にやってみることで学ぶ体験学習、そして食べることに前向きに向き合う力を重視する「食の能力(イーティング・コンピテンス)」の考え方が据えられました。知識を伝えるだけの講義よりも、手を動かして技術を身につけることが優先されました。

チームは学内の環境も点検しました。学生のグループが一緒に調理できる場所は限られており、学生寮のキッチンを使う提案もありましたが、想定人数には狭すぎました。最終的には、看護学部にある基本的な調理器具を備えた小さな軽食調理スペースが料理の場として選ばれました。学内のフードパントリー(食料支援の窓口)や屋外スペースの活用も検討されています。

主な成果:段階的に自立を促す8回のワークショップ

開発の結果として、料理の実習、栄養教育、食品衛生、取り組みやすい運動を組み合わせた全8回のワークショップシリーズが作られました。各回は、栄養の学習、調理実習、食品衛生の指導、運動という共通の流れで構成されています。

内容は、バランスのよい食事や安全な食品の扱い方といった基礎から始まり、缶詰や冷凍食品を活用した手頃な食事、全粒穀物や野菜を取り入れた献立、食事の計画へと進みます。後半の回では、学生が自分で食材を選び、献立を組み立てるなど、それまでに学んだことを指導者の手助けを減らしながら応用するよう設計されました。最初は手厚く支え、回を重ねるごとに学生の判断に任せる部分を増やしていく構成です。

レシピは、各回の栄養のテーマを実践でき、基本的な調理技術を練習できるものが選ばれました。食費、使える器具、調理時間、なじみのある食べ物であるか、ワークショップの外でも再現できるかといった点が考慮され、学生がふだん好んで食べている料理を少しの工夫でより健康的にする方法も重視されています。運動は別枠のプログラムとしてではなく、ウォーキングやストレッチ、有酸素運動、グループでの活動として全回に組み込まれました。

開発から見えた教訓

著者らは、学生のニーズを明らかにするだけでは、実際に実施できるプログラムにはならないと述べています。内容や順序、実施方法、場所、設備、実行可能性について、さらに多くの判断が必要でした。複数の分野の専門家が加わったことで、栄養教育、調理技術、運動、食品衛生、健康づくりを一つのシリーズにまとめる際の多面的な検討が可能になったと報告されています。

一方で、教育や研究などの通常業務と並行して進めたため、準備には当初の想定より時間がかかりました。学内に適した調理施設があっても使える機会は限られ、代わりの場所を探して内容を調整する必要がありました。食材や設備をまかなう資金の確保も、構想を実施に移すうえで欠かせなかったとされています。なお、調査結果は1つの大学の学生から得られたものであり、他の大学への当てはめには限りがある点も著者らは挙げています。

この論文が示しているのは、学生の声を生かした健康プログラムづくりには、ニーズの把握に加えて、分野を越えた協力、十分な準備期間、使える施設や資源への目配りが必要だということです。著者らは、こうした経験が、大学で同様の取り組みを考える人々の参考になりうるとしています。

原著論文の著者・所属:Karen L Webb(Department of Nursing , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)、Crystal McLean(Department of Nutrition Sciences , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)、Aaron Moore(Department of Biotechnology Research Institute , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)、Kimberly Powell(Department of Nutrition Sciences , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)、Amy Linder(Department of Kinesiology and Recreation , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)、Cherise B. Harrington(Department of Kinesiology and Recreation , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)、Bertha Nikki Wilson(Department of Biotechnology Research Institute , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)、Carmen Linate(Department of Biotechnology Research Institute , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)、Doris Campbell(Department of Biotechnology Research Institute , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)、Kyla Hill(Department of Biotechnology Research Institute , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)、Tamara Henry(Department of Prevention and Community Health , The George Washington University , Washington , DC 20052 , USA)、Irene A. Doherty(Department of Biotechnology Research Institute , North Carolina Central University , Durham , NC 27707 , USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Karen L Webb, Crystal McLean, Aaron Moore, et al. From Formative Research to Fuel & Fit: An Interdisciplinary Approach to Developing Cooking, Nutrition, and Physical Activity Workshop Series for University Students. American Journal of Food and Nutrition 2026-09-18. DOI: 10.12691/ajfn-14-3-3. 原著ライセンス:CC BY.