著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:育ちやすく、うま味の強い品種を求めて
海苔の原料となる紅藻スサビノリ(学名 Neopyropia yezoensis)は、中国・日本・韓国で広く養殖されています。中国では、収穫した藻体を洗って刻み、乾燥させて紙状の板海苔にします。板海苔は色・つや・形・風味で等級が決まり、その等級が価格を左右します。中国ではこれまで、成長が速く収量の多いST-1やST-2といった品種が普及してきました。著者らによれば、市場では収量に加えて、色や風味などの品質に優れた新しい系統が求められています。
藻の色は、光合成に使われる色素の組成で決まります。色の変わった変異体は育種の素材として注目されてきましたが、緑色の変異体は成長が遅くなりがちだと報告されていました。また、海苔のうま味成分の量は、加熱乾燥の間に起こる酸化や熱による分解、酵素による分解、メイラード反応(糖とアミノ酸が反応して色や香りを生む反応)によって大きく変わることが、これまでの研究で知られています。一方、色素の変異体について、うま味成分が工業的な加熱加工の中でどう変わるかは、まだ調べられていませんでした。
研究チームは以前、化学物質で突然変異を誘発し、緑色が安定して受け継がれる変異株Y-G001を得ていました。今回はこの株について、生育や繁殖の能力を生の藻体で調べました。また、色素の構成とうま味に関わる成分は、生の藻体と乾燥させた板海苔の両方で調べました。
何をどう調べたか
比較の基準には、多収品種ST-2(野生型)を用いました。両者を中国江蘇省如東の海上養殖場で同じ条件のもとで育てました。成長の速さと繁殖力は、長さ約1センチの若い藻体を研究室に持ち帰り、温度や光を管理した条件で測りました。繁殖力の指標は、単胞子と呼ばれる胞子を放出する量です。単胞子が多いと養殖網の上の芽の数が増え、収穫期間も延びるため、最終的な収量に関わります。
色素とうま味成分の分析には、10〜15センチに育った藻体を使いました。生の藻体に加えて、それを海苔加工会社の標準的な工程で加熱乾燥した板海苔も調べています。うま味成分としては、グルタミン酸やアスパラギン酸などの遊離アミノ酸と、イノシン酸・グアニル酸・アデニル酸といった核酸系のうま味物質(ヌクレオチド)を測りました。さらに、アミノ酸と核酸系物質を組み合わせると、うま味が強まる相乗効果が知られています。研究チームはこの効果を、うま味調味料のグルタミン酸ナトリウムに換算した計算上の指標「等価うま味濃度」で評価しました。
主な結果:育ちは同等、色は安定、うま味成分は多め
Y-G001の成長速度は、重さ・長さ・幅のいずれも野生型と大きな差がありませんでした。単胞子の放出量にも有意な差はなく、論文は、緑色の変異が生育や繁殖の力を損なっていないと報告しています。
色の違いを生んでいたのは、藻の色を左右する色素タンパク質の構成でした。Y-G001は、フィコエリトリンという色素タンパク質がごくわずかで、フィコシアニンが多くを占めていました。両者の比(フィコエリトリン÷フィコシアニン)は、生の藻体で野生型が1.71だったのに対し、Y-G001は0.04でした。乾燥後の板海苔では0.48に上がりましたが、野生型の1.72より低いままでした。その結果、板海苔の色は野生型の濃い紫に対して、Y-G001は濃い緑を保っていました。
うま味成分については、生の藻体で、Y-G001のうま味系アミノ酸が野生型より12.13%、うま味系ヌクレオチドが16.44%多いという結果でした。加熱乾燥では両方の株でこれらの成分が増え、乾燥が風味を引き出す工程として働いていることも示されました。等価うま味濃度は、Y-G001が野生型より生の藻体で68.27%、板海苔で59.77%高い値でした。また、成分どうしの相関を調べると、生のY-G001では一部のアミノ酸(アスパラギン酸やアルギニン)と核酸系物質の量がそろって変動する傾向がみられました。生の野生型ではこうしたアミノ酸と核酸系物質の正の相関はみられませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、Y-G001が三つの特長をあわせ持つ育種系統だとまとめています。乾燥後も保たれる独特の緑色、多収品種と同等の生育・繁殖能力、そして計算上より強いうま味です。色の変異は成長を犠牲にしがちだとされてきましたが、今回の比較では、その不利が見られない系統が得られたことになります。伝統的に黒みの強さが品質の目安とされてきた海苔について、色とうま味という別の価値を持つ候補の可能性を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Yinyin Deng(National Germplasm Bank of Porphyra, Jiangsu Marine Fisheries Research Institute, Nantong 226007, China)、Cuicui Tian(National Germplasm Bank of Porphyra, Jiangsu Marine Fisheries Research Institute, Nantong 226007, China)、Li-En Yang(National Germplasm Bank of Porphyra, Jiangsu Marine Fisheries Research Institute, Nantong 226007, China)、Tao Zhang(Department of Biology, Suzhou University of Technology, Changshu 215500, China)、Wei Zhou(National Germplasm Bank of Porphyra, Jiangsu Marine Fisheries Research Institute, Nantong 226007, China)、Chuanming Hu(National Germplasm Bank of Porphyra, Jiangsu Marine Fisheries Research Institute, Nantong 226007, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yinyin Deng, Cuicui Tian, Li-En Yang, et al. Evaluation of Key Economic Traits in a Green Mutant of Neopyropia yezoensis: A Promising Candidate for Commercial Cultivation with Superior Umami Taste. Foods 2026-09-22. DOI: 10.3390/foods15193372. 原著ライセンス:CC BY.