この研究は、チリの研究機関の研究論文です。
掲載誌:International Journal of Agriculture and Natural Resources
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ズッキーニなどを含む夏カボチャ(Cucurbita pepo L.)は、種子が大きく硬くなる前の未熟な状態で収穫される果実です。皮が薄くやわらかいため傷みやすく、著者によれば適切に扱っても収穫後の日持ちは通常1〜2週間程度にとどまります。さらにこの作物は低温に弱く、5℃を下回る温度で貯蔵すると、表面のくぼみや水浸状の斑点、褐色の病斑といった「低温障害」が数日のうちに現れ、腐敗も起こりやすくなると報告されています。
この研究が取り上げたのは、パッシブMAP(受動的なガス置換包装)と呼ばれる技術です。果実は収穫後も呼吸を続けており、酸素を吸って二酸化炭素を出します。ガスを通しにくい性質を持つ樹脂フィルムの袋に詰めると、袋の中は自然に酸素が少なく二酸化炭素が多い状態に落ち着きます。外からガスを注入するのではなく果実自身の呼吸で組成が決まるため「受動的」と呼ばれます。夏カボチャでは二酸化炭素や酸素の濃度を調整する効果がこれまでも調べられてきましたが、著者は、商業規模の条件下での有効性は十分に記録されていないと指摘し、実際の流通に近い形での検証を目的としました。
何をどのように調べたか
試験材料には、チリ・バルパライソ州リマチェの生産者が栽培し、スーパーマーケット向けの商業流通センターから入手した果実が使われました。形や大きさがそろい、傷や変色、病徴のないものを選び、次亜塩素酸ナトリウム溶液で洗浄したうえで、1袋あたり約12kgずつ詰めています。果実の形が異なる2つのタイプ、コココーゼル(細長い形)とズッキーニが対象となりました。
比較の方法はシンプルで、同じ袋をプラスチックのジッパーで密閉したものをMAP区、袋の口を折り返すだけで密閉しないものを対照区としました。貯蔵は7.5〜8.0℃前後、相対湿度95%以上の条件で21日間行い、その後さらに数日間、袋から出した状態で小売店の陳列を想定した期間を設けています。試験は独立に3回実施され、第1・第2試験がコココーゼル、第3試験がズッキーニで、2つの生産シーズンにまたがっています。
評価した項目は、袋内の酸素と二酸化炭素の濃度、果皮と果肉の色、果皮と果肉の硬さ、可溶性固形分(糖度の目安となる値)、重量の減少率、そして目視による低温障害と病害の程度、病害の発生率、総合的な外観品質でした。目視の項目は段階的な点数として記録されています。
主な報告結果
袋の中のガス組成は貯蔵開始後すみやかに変化し、試験全体を通じて酸素がおよそ8〜15%、二酸化炭素がおよそ7〜13%の範囲で安定したと報告されています。試験ごとに程度の差があり、第1試験では8日目までに二酸化炭素12.9%・酸素7.7%と比較的強い変化が生じた一方、第2試験ではより穏やかな組成となりました。
果実タイプによる違いは明確でした。コココーゼルは通常の空気中で貯蔵すると低温障害の症状がはっきり現れ、対照区の目視スコアは「高い」に近い値に達しましたが、MAPではその程度が抑えられました。2回の試験を通じて、MAPは病害の発生率と重症度を対照区に比べて有意に減らし、総合的な外観品質のスコアも高く保たれています。ただし果皮の硬さはMAP区のほうが低く、第2試験では貯蔵期間全体で初期値に対し約15%の低下がみられました。一方で果肉の硬さと可溶性固形分には処理による差がほとんどなく、著者は全体としての果実品質は維持されたとしています。
ズッキーニでは、そもそも低温障害の症状が両区ともわずかでした。それでもMAP区は病害の重症度と発生率が対照区より有意に低く、外観品質のスコアも上回りました。この試験の対照区は21日間の冷蔵後に著しく劣化していたため、その後の陳列期間の評価は行われていません。ズッキーニではMAP区のほうが果皮・果肉ともに硬さが高く保たれた点も報告されており、果皮が柔らかくなったコココーゼルとは対照的な結果でした。
この研究が示すこと
著者は、最適なガス組成は品種やロット、収穫前後の条件、貯蔵中のさまざまな要因によって左右されるため、MAPの設計は容易ではないと述べています。そのうえで今回の結果は、形も低温への強さも異なる2つの果実タイプで、2シーズンにわたる3回の独立した試験を通じて、受動的なMAPが一貫して貯蔵後の品質を改善したことを示しました。
低温障害への強さがもともと異なる果実タイプの間で、効き方に違いはあっても一定の利点が確認された点は、この手法の頑健さを示す材料といえます。ガスを注入する装置を必要とせず、果実自身の呼吸と袋の性質だけで成り立つ仕組みであることも含め、著者はこれを長期の冷蔵貯蔵中に品質を保つための実行可能な方法として位置づけています。
著者:Cristián Jacob(Pontificia Universidad Católica de Chile)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Cristián Jacob. Modified atmosphere packaging improves postharvest quality of summer squash (Cucurbita pepo L.) under simulated commercial storage conditions. International Journal of Agriculture and Natural Resources 2026-08-31. DOI: 10.7764/ijanr.v53i2.103392. 原著ライセンス:CC BY.