じゃがいもを高温で加熱すると、表面が色づき香ばしくなる一方で「アクリルアミド」という物質が生成されることが知られています。アクリルアミドは糖とアミノ酸が高温で反応するメイラード反応を主な経路として生じる加熱由来の物質で、遺伝毒性や発がん性の可能性が指摘されており、国際がん研究機関(IARC)はグループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類しています。トルコのヒティット大学などの研究グループが、市販の冷凍フライドポテトを対象に、加熱方法や油の種類、揚げ油の繰り返し使用、塩処理がアクリルアミド濃度にどう影響するかを調べた研究をモレキュールズ誌に発表しました。
まず分析方法そのものを作り直した
アクリルアミドは極性が高く分子量も小さいため、食品中から正確に測定するのが難しい物質です。この研究ではまず、QuEChERS法と呼ばれる簡便な抽出手法をベースに、n-ヘキサンによる脱脂、カレー試薬(フェロシアン化カリウムと硫酸亜鉛)によるタンパク質・でんぷん成分の除去、そして精製段階(クリーンアップ)の組み合わせを比較検討しました。精製剤としてPSA(一級・二級アミン)単独、PSAとC18の併用、塩を用いた抽出(硫酸マグネシウム+塩化ナトリウム)の3通りを比較した結果、PSA単独が最も選択性とベースラインの安定性に優れていたと報告されています。C18や塩添加による性能向上は見られず、著者らはこれをアクリルアミドの高い極性・水溶性のためと考察しています。
この最適化した方法をHPLC-PDA(高速液体クロマトグラフィー・フォトダイオードアレイ検出)で分析したところ、定量下限(LOQ)は32.3µg/kg、添加回収率は79.4〜86.6%、相対標準偏差(RSD)は8%未満という結果が得られ、EUの分析法基準(回収率75〜110%)を満たす性能だったとしています。LC-MS/MSのような質量分析法に比べると感度は劣るものの、誘導体化や煩雑な精製操作を必要とせず、より安価で汎用性の高い装置で実施できる点が実務上の利点として挙げられています。
揚げる・焼く・エアフライヤーで濃度はどう違ったか
この方法を使い、冷凍フライドポテトをひまわり油・リビエラオリーブ油・パーム油の3種類で、ディープファット揚げ(190℃、2分)、オーブン焼き(190℃、30分)、エアフライヤー(200℃、20分)の3通りの加熱方法で調理し、生成したアクリルアミド濃度を比較しました。その結果、ディープファット揚げが最も高い濃度(526.7〜829.6µg/kg)を示し、オーブン焼き(285.5〜480.6µg/kg)やエアフライヤー(272.1〜673.6µg/kg)はそれより低い傾向でした。著者らは、油への直接浸漬により熱伝達と表面の乾燥が進み、低水分状態でアミノ酸と糖の反応(メイラード反応)が起こりやすい環境ができることを一因として挙げています。なお油の種類でも差があり、パーム油はいずれの調理法でも比較的低い値を示す傾向が見られました。
さらに、同じ油を繰り返し使って5回連続で揚げる実験も行われました。未処理の冷凍ポテトでは、1回目から5回目にかけてひまわり油で595.7→1087.2µg/kg、リビエラオリーブ油で653.9→1067.9µg/kg、パーム油で405.3→704.4µg/kgへと濃度が上昇し、4〜5回目にはEUがフライドポテトに設定するベンチマーク値(500µg/kg)を超える結果となりました。著者らは、繰り返しの加熱で油中の不飽和脂肪酸が酸化分解し、生じたアルデヒド類などがメイラード型反応をさらに促進する可能性を挙げています。ひまわり油(多価不飽和脂肪酸が多い)が最も上昇幅が大きく、パーム油(飽和脂肪酸が多く酸化安定性が高いとされる)は初期は低めでしたが、後半のサイクルでは同様に上昇が見られたとしています。
調理前に1%の塩化ナトリウム(食塩)で下処理した場合、ディープファット揚げの初期サイクルではアクリルアミド濃度が未処理より有意に低く、約30〜40%の低減が見られました(例:ひまわり油では1回目351.2µg/kgから5回目893.7µg/kgへ上昇)。ただしこの抑制効果は繰り返し揚げるうちに弱まり、特に酸化しやすいひまわり油で顕著だったとされています。一方、エアフライヤー条件下では塩処理による低減幅は2.6〜10.1%にとどまり、統計的に有意な差ではなかった(p>0.05)としています。著者らは、対流加熱による急速な水分除去やイオンの拡散しにくさが背景にある可能性を指摘しています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、単一の市販冷凍フライドポテト製品と3種類の代表的な食用油を用いた実験であり、著者ら自身も、じゃがいもの品種や製品配合、油の種類による違いを網羅できていない点を限界として挙げています。また、油の劣化を示す物理化学的指標(酸価など)は測定されておらず、アクリルアミドの同定は保持時間とUVスペクトルによるもので、LC-MS/MSによる確認分析は行われていない点も著者らが今後の課題としています。この研究はあくまで特定の条件下での実験結果であり、家庭での調理全般に単純に当てはめられるものではない点に留意が必要です。
この研究は分析手法の開発と、加熱条件がアクリルアミド生成に与える影響の両方を扱ったものであり、フライドポテトを食べることの是非を断定するものではありません。今回の結果は、揚げ油を繰り返し使うことや高温・長時間の加熱がアクリルアミド濃度を高める方向に働きうることを示すデータの一つとして位置づけられます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Nimo Hussein Yussuf, Eylem Odabas, Fatma Oznur Afacan, et al. Processing-Dependent Acrylamide Formation in French Fries: Optimisation of QuEChERS-Based Extraction and HPLC-PDA Determination. モレキュールズ (2026). DOI: 10.3390/molecules31162777. 原著ライセンス: cc-by.