がんの発症や進行には、体内の慢性的な炎症が関わっていると考えられています。生活習慣や食事の内容によって、この炎症の起きやすさが変わることも知られており、近年では食事や生活習慣が体にどれくらい『炎症を招きやすいか』を点数化する研究が行われています。今回紹介する論文は、膀胱の表層にとどまるタイプのがんである非筋層浸潤性膀胱癌(NMIBC)と診断された患者を対象に、診断後の生活習慣・食事と、がんの再発や進行との関連を調べたものです。
研究でわかったこと
この研究は、2014年から2021年の間に新たにNMIBCと診断された患者を対象とした、多施設共同の前向きコホート研究「UroLife」の枠組みで行われました。診断からおよそ3か月後の時点で、生活習慣についてのアンケート(1334人)や食物摂取頻度についてのアンケート(1306人)を用いて、参加者自身が回答する形でデータが集められました。
研究チームは、これらの回答をもとに、生活習慣の炎症を招きやすさを表す「ライフスタイル炎症スコア(LIS)」と、食事の炎症を招きやすさを表す「食事性炎症スコア(DIS)」を算出しました。どちらもスコアが高いほど、炎症を招きやすい生活・食事であることを意味します。あわせて、体内の炎症の程度を示す血液中の指標である高感度CRP(hsCRP)も、診断後3か月の時点で測定されました。
その後、追跡期間(中央値4.7年)の間に、466人が少なくとも1回の再発を経験し、155人でがんの進行(病期やグレードの悪化)が確認されました。統計解析の結果、LISが1点上がるごとにhsCRPは43%(95%信頼区間29〜58%)、DISが1点上がるごとにhsCRPは6%(95%信頼区間3〜10%)、それぞれ上昇する関連が見られました。つまり、炎症を招きやすいとされる生活習慣や食事をしている人ほど、実際に血液中の炎症マーカーも高い傾向があったということです。
一方で、LIS・DIS・hsCRPのいずれについても、値が高いことと、初回もしくは複数回の再発リスク、および病期・グレードの進行リスクとの間には、統計的に意味のある関連は見られませんでした。つまり、炎症を招きやすい生活・食事をしていたり、血液中の炎症マーカーが高かったりしても、この研究の中では再発や進行のリスクが高くなるという結果にはならなかった、ということです。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究では、炎症を招きやすい生活習慣や食事のスコアが高いほど、実際に血中の炎症マーカー(hsCRP)が高くなるという関連は確認されました。しかし、その先にあるはずの「がんの再発や進行のリスクの高さ」までは、今回の解析では関連が認められませんでした。論文の著者らも、特定の炎症のメカニズムや、今回測定していない別のバイオマーカーが関与している可能性は否定できない、としています。
この研究は一つのコホート研究であり、これだけで生活習慣や食事とNMIBCの再発・進行との関係について結論が確定したわけではありません。今後さらに研究が積み重ねられることで、より詳しい実態が明らかになっていくことが期待されます。
まとめ
今回紹介した研究では、非筋層浸潤性膀胱癌の患者において、炎症を招きやすい生活習慣や食事のスコアが高いほど血液中の炎症マーカー(hsCRP)が上昇する関連が見られたものの、これらのスコアやhsCRPの値そのものは、がんの再発や進行のリスクとは関連しないとされました。生活習慣や食事とがんの経過との関係は、今後も研究が続けられていくテーマといえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:非筋層浸潤性膀胱癌患者における再発および進行リスクとライフスタイル・食事性炎症スコア(ニュートリション・2026年08月)