サンザシ(Crataegus属)の実は、ポリフェノールを豊富に含む果実として知られ、抗酸化作用や糖質分解酵素を抑える働きがこれまでの研究で報告されてきました。しかし、果実そのものに含まれる成分量が多くても、実際に口から取り込んで消化される過程でその成分がどれだけ体内で利用できる状態を保つかは、また別の問題です。今回紹介する研究は、この『食べた後にどうなるか』という視点から、サンザシ3種の果実を対象に、国際的に標準化された消化シミュレーションモデル(INFOGEST)を用いて評価を行いました。
何を、どう調べたのか
研究チームは、Crataegus属に含まれる3種の果実を対象に、INFOGESTモデルに基づく口腔・胃・小腸の各消化段階を模した実験を行いました。消化前の果実と、消化過程を経た後に体内で吸収されうる状態(生体利用可能画分)とを比較し、総フェノール量や総フラボノイド量、個々のフェノール化合物の量、ABTS・FRAP・CUPRACという3種類の方法で測定した抗酸化能、α-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼという糖質分解酵素への阻害活性、遊離アミノ酸の組成、さらにミネラル組成までを幅広く分析しています。
消化によって何が変わったのか
模擬消化を経ると、生体利用可能な画分としての総フェノール量と総フラボノイド量は有意に減少し、それに伴ってABTS法・FRAP法・CUPRAC法いずれで測定した抗酸化能も大きく低下したことが報告されています。個々の成分では、カテキンが消化前のすべてのサンザシ種において最も多いフェノール化合物であり、消化によって量は大きく減少したものの、消化後の生体利用可能画分においてもなお最も多いフェノール成分であり続けたとされています。
酵素阻害活性についても、消化の影響でα-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼに対する阻害活性は弱まりましたが、小腸段階を経た後もすべてのサンザシ種で一定の阻害能力が保たれていたと報告されています。一方、遊離アミノ酸に目を向けると、消化後の生体利用可能画分ではL-アルギニン、L-グルタミン酸、L-アスパラギンが主要なアミノ酸として残っていたことが示されました。また、ミネラル組成については、調べた3種のサンザシの間で種による違いが見られたとされています。
この研究をどう読むか
この研究は、サンザシに含まれるポリフェノールやアミノ酸、ミネラルが、消化管を通過する過程でどのように変化するかを、実験室内の模擬消化モデルを用いて明らかにしたものです。ここで使われたINFOGESTモデルはあくまで体外(in vitro)でのシミュレーションであり、実際にヒトが摂取した際の体内での挙動をそのまま示すものではない点には留意が必要です。また、この研究結果をもって特定の健康効果が証明されたわけではなく、あくまで消化安定性と生体利用可能性に関する基礎的な知見を提供するものと位置づけられています。
まとめ
今回の研究では、サンザシ果実に含まれるフェノール化合物や抗酸化能、酵素阻害活性が、模擬消化過程を経ることで大きく減少する一方、カテキンや特定のアミノ酸、一定の酵素阻害能力は消化後も残ることが示されました。また、調べた3種のCrataegus属の間で栄養組成に違いがあることも報告されています。研究チームは、この知見が今後の機能性食品開発においてサンザシ種を選定する際の科学的な根拠になりうるとしています。一つの研究であり、ここから直ちに健康効果を結論づけるものではない点に留意しつつ、今後の研究の広がりが注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Kübra Feyza Erol, Gözde Kutlu, Hatice Beki̇roğlu, et al. Bioaccessibility of Phytochemicals, Amino Acids, Antioxidant Capacity, and Enzyme Inhibitory Activities of Hawthorn ( Crataegus spp.) Fruits Following INFOGEST Simulated Gastrointestinal Digestion. フード・サイエンス・アンド・ニュートリション (2026). DOI: 10.1002/fsn3.72188. 原著ライセンス: cc-by.