著者の所属・活動拠点の国は、カナダです。

掲載誌:Antioxidants

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:食事と生活習慣の「酸化のバランス」を高齢者で調べる

体の中で物質を酸化させる働きが、それを抑える抗酸化の働きを上回った状態は「酸化ストレス」と呼ばれます。酸化ストレスは炎症と互いに強め合い、動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中などの病気の成り立ちに深く関わると考えられています。食事は、酸化ストレスや炎症に影響しうる、変えることのできる要因の一つです。

一方で、ビタミンCやビタミンEなどの抗酸化物質を単独のサプリメントとして与えた試験では、結果が一貫していません。著者らは、食品には多くの成分が含まれ互いに作用し合っていることを挙げ、個々の成分よりも全体をまとめて評価する指標が役立つ可能性があると考えました。そうした指標の一つが「酸化バランススコア(OBS)」です。食事に含まれる抗酸化的な要素と、酸化を促す要素、さらに生活習慣をまとめて点数化し、点数が高いほど抗酸化側に傾いた好ましいバランスを表します。

OBSについては、これまで酸化ストレスや炎症、血圧、血中脂質などとの関連が報告されてきましたが、高齢者を対象とした証拠は限られていました。そこで研究チームは探索的な予備研究として、心血管リスクの異なる高齢者の間でOBSを比べること、そしてOBSと血液中の酸化ストレス、炎症、脂質代謝、肝臓に関する指標との関連を調べることを目的としました。

何を調べたか:5種類のスコアと6つの血液指標

研究チームは、65〜84歳の高齢者44人を募り、3つのグループに分けました。動脈硬化の兆候がない健康な人16人、新たに診断され治療を受けていない高コレステロール血症の人14人、心筋梗塞を経験し発症から3か月以上たった人14人です。糖尿病や前糖尿病の人、喫煙者、抗酸化物質やオメガ3脂肪酸のサプリメントを使っている人などは対象から除きました。この研究はある一時点の状態を調べる横断研究です。

参加者は平日2日と週末1日の計3日間、食べたものを記録しました。研究チームはこの食事記録と健康状態の聞き取りから、5種類のOBSを計算しました。ビタミンやミネラル、食物繊維、脂肪酸など15項目の栄養素から作る「栄養素ベース」、果物、野菜、魚、赤身肉、加工肉、甘い物など9項目の食品群から作る「食品ベース」、身体活動を含む2項目からなる「生活習慣ベース」、そして栄養素と生活習慣を組み合わせたもの、食品と生活習慣を組み合わせたものです。各項目は参加者全体の中で3段階に分け、抗酸化的な項目は多いほど、酸化を促す項目は少ないほど高い点を与えました。

血液検査では、血液全体の抗酸化力を測る2つの指標(TEACとFRAP)、炎症の指標であるCRP、いわゆる善玉コレステロールのHDLコレステロール、そして肝臓の酵素であるALTとASTを測りました。ALTとASTは主に肝細胞の中にある酵素で、肝細胞が傷つくと血液中に出てくるため、肝細胞の傷害を示す目安として広く使われています。

主な結果:栄養素ベースのスコアが高いほど肝酵素が低い傾向

5種類のうち、グループ間で差がみられたのは栄養素ベースのOBSと、栄養素と生活習慣を組み合わせたOBSだけでした。点数は高コレステロール血症のグループが最も高く、健康なグループが続き、心筋梗塞後のグループが最も低い結果でした。栄養素ベースのOBSの平均は、心筋梗塞後のグループで12.50点、高コレステロール血症のグループで18.00点で、この2グループの差は統計的に意味のあるものでした。食事の内容では、赤身肉の摂取は健康なグループが他の2グループより多かったと報告されています。また推奨量に対する摂取割合でみると、心筋梗塞後のグループはビタミンAが高コレステロール血症のグループより低く(80.13%対119.13%)、亜鉛が健康なグループより低かった(81.82%対115.47%)とされています。

スコアと血液指標の関係を調べると、栄養素ベースのOBSと、栄養素と生活習慣を組み合わせたOBSが高い人ほど、ALTとASTが低い傾向がみられました。年齢、性別、所属グループの影響を統計的に考慮したうえでも、栄養素ベースのOBSが1点高いごとにASTが平均で約0.64低く、栄養素と生活習慣を組み合わせたOBSでは1点高いごとにALTが約1.06、ASTが約0.54低いという関連が残りました。食品ベースや生活習慣ベースなど他のスコアでは、こうした関連はみられませんでした。

一方、どのスコアも、血液の抗酸化力を示すTEACやFRAP、炎症の指標であるCRPとは関連していませんでした。HDLコレステロールとは単純な相関はみられたものの、年齢などを考慮した分析では関連は確認されませんでした。また、スコアを構成する個々の栄養素を探索的に調べたところ、ビタミンCとビタミンAがASTと、ビタミンCと食物繊維がALTと関連していました。ただし著者らは、この個別成分の分析は多数の比較に対する補正をしていない仮説づくりの段階のものだとしています。

この研究が示すこと

著者らは、栄養素、食品、生活習慣という異なる切り口で作ったスコアのうち、栄養素に基づくスコアのほうが食品に基づくスコアよりも肝臓に関する指標と強く関連していたとまとめています。血液の抗酸化力や炎症の指標とは関連がなかったことから、OBSは血液中の酸化状態そのものよりも、肝臓の指標とつながる幅広い食事や生活習慣のあり方を反映している可能性があると考察しています。

ただし、この研究は参加者44人の小規模な予備研究で、一時点の状態を調べたものです。そのため、スコアが高いことが肝酵素を下げる原因だとは言えず、逆の因果関係や測りきれなかった要因の影響も否定できません。心筋梗塞後の参加者は全員がスタチンによる治療を受けていましたが、薬の種類ごとの影響は調整できていません。3日間の食事記録が普段の食事を十分に表していない可能性もあります。

こうした制約を踏まえたうえで、著者らは、栄養素に基づく酸化バランススコアが、高齢者の酸化バランスを総合的にとらえる道具として役立つ可能性を示す結果だと位置づけています。

原著論文の著者・所属:Hawa Sidibé(Université de Sherbrooke)、Mojgan Morvaridzadeh(Université de Sherbrooke)、Tamàs Fülöp(Université de Sherbrooke)、Hicham Berrougui(Université de Sherbrooke)、Slimane Belbraouet(Université de Moncton)、Michel Nguyen(Université de Sherbrooke)、Abdelouahed Khalil(Université de Sherbrooke)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hawa Sidibé, Mojgan Morvaridzadeh, Tamàs Fülöp, et al. Association of Nutrient-, Food-, and Lifestyle-Based Oxidative Balance Scores with Liver Enzymes in Older Adults Across Cardiovascular-Risk Groups. Antioxidants 2026-08-28. DOI: 10.3390/antiox15091077. 原著ライセンス:CC BY.