年齢を重ねると誰にでも起こる筋肉量や筋力の低下は「サルコペニア」と呼ばれ、生活の質や寿命に大きく関わることが知られています。この現象に食品由来の成分がどう働きかけられるのかを調べた研究が、エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フードに発表される予定です。今回注目されたのは、南極海に生息するオキアミから得られる「オキアミ油」です。魚油と並んでオメガ3系脂肪酸を含む油として知られていますが、老化にともなう筋肉の萎縮に対する効果や、その仕組みについてはこれまで十分に解明されていませんでした。

研究グループは、マウスにD-ガラクトースという物質を12週間にわたり毎日腹腔内投与し、老化を人為的に早めたモデルを作りました。このモデルのマウスに対し、オキアミ油または比較対象として魚油を1日1回、400mg/kgの量で経口投与し、骨格筋への影響を調べています。その結果、オキアミ油を与えられたマウスでは、D-ガラクトースによって引き起こされる筋肉量の減少、筋機能の低下、筋線維の断面積の縮小が和らぐ傾向が確認されました。また、細胞の老化を示す指標の上昇も抑えられたとされ、同じ量で比較した際にはオキアミ油の方が魚油よりも効果が高かったと報告されています。さらに、マウスの筋肉細胞に由来するC2C12筋管細胞を用いた実験でも、オキアミ油がD-ガラクトースによる老化指標の上昇や筋管の直径の減少を抑えることが確認されました。

細胞の中で何が起きているのか

研究チームは、この効果の背景にある仕組みを探るため、遺伝子発現を網羅的に調べるトランスクリプトーム解析と機能解析を組み合わせて検討しました。その結果、細胞内のエネルギー状態やミトコンドリアの健全性を調整する中心的な酵素である「AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)」が、オキアミ油の作用において重要な標的である可能性が浮かび上がりました。加えて、コンピューター上で分子同士の結合のしやすさを予測する分子ドッキングシミュレーションにより、オキアミ油に含まれる主要な成分がAMPKのサブユニットと直接相互作用しうることも示唆されています。

この仮説を確かめるため、研究チームは遺伝子操作によってAMPKの働きを人為的に抑える実験も行いました。すると、オキアミ油がD-ガラクトースによる筋管の萎縮を防ぐ効果は失われ、ミトコンドリアの品質管理機能やタンパク質の恒常性を改善する働きも見られなくなったといいます。この結果から、研究チームはAMPKがオキアミ油による抗老化・抗萎縮作用を仲介する中心的な調整役であると位置づけています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、D-ガラクトースを用いて人為的に老化を早めたマウスモデルや、培養した筋肉細胞を対象に行われたものであり、ヒトを対象とした臨床試験ではありません。動物や細胞で観察された効果が、そのまま人間の健康効果として当てはまるとは限らない点に注意が必要です。また、本研究は山東大学や中国海洋大学など中国の研究機関に所属する研究者らによって行われており、今回提供された情報の範囲では日本の研究機関や日本の食習慣との直接的な関連には言及されていません。あくまで一つの研究であり、オキアミ油の抗老化作用について結論が確定したわけではない点を踏まえて読む必要があります。

まとめ

今回の研究では、老化を人為的に早めたマウスモデルと培養筋肉細胞を用いて、オキアミ油がAMPKという酵素を介して骨格筋の萎縮を和らげる可能性があることが示唆されました。同じ量で比較した場合、一般的な魚油よりも効果が高かったとされていますが、これは動物・細胞レベルでの知見であり、ヒトでの効果を直接保証するものではありません。今後、こうした知見がヒトを対象とした研究へとつながっていくのか、注目されるところです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Zi-Jian Wu, Xin-Yue Zhao, Yuhong Yang, et al. Krill oil attenuates skeletal muscle atrophy during D-galactose-induced accelerated aging via an AMPK-dependent mechanism. エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フード (2026). DOI: 10.1038/s41538-026-01081-2. 原著ライセンス: cc-by.