ケフィアは、乳酸菌と酵母が複雑に共生する「ケフィアグレイン」を使って作られる発酵乳製品です。独特の風味を持つことで知られていますが、その風味がどのような微生物の働きによって生み出されているのかは、まだ十分に解明されていません。今回紹介する研究では、ケフィア発酵に関わる乳酸菌と酵母のゲノム情報を解析し、それぞれの菌がどのように風味成分を作り出しているのか、そして両者が協調することでどんな変化が起こるのかが調べられました。

研究でわかったこと

研究チームはまず、ケフィアグレインと発酵後のミルクケフィアを対象にメタゲノム解析を行い、乳酸菌の一種であるLactobacillus属と、酵母の一種であるKluyveromyces属が主要な微生物として存在していることを確認しました。その上で、ケフィア由来のLentilactobacillus kefiri SLAM023B株とKluyveromyces marxianus SLAM005Y株を分離し、Illumina社とNanopore社の技術を組み合わせたハイブリッドゲノムシーケンシングを実施しました。

KEGG(京都遺伝子ゲノム百科事典)のパスウェイ解析による機能アノテーションでは、アミノ酸代謝や脂肪酸代謝、さらにアルコール・アルデヒド・酸の相互変換に関わる経路が特徴的に見られ、これらが風味成分の生成に関与していることが示されました。具体的には、K. marxianus SLAM005Y株はフルーティな香りを持つフーゼルアルコール類を生成する一方、L. kefiri SLAM023B株は脂肪酸由来の風味前駆体を供給することが分かりました。

さらに興味深いのは、この2株を共培養した場合の変化です。酢酸エチルや酢酸イソアミルといったエステル類の合成が顕著に増加し、フルーティでクリーミーな香りの特徴をもたらすことが報告されています。また、エチルオクタン酸やC6・C8脂肪酸の増加によってフルーティさやチーズのような風味特性が加わる一方、青臭さに関わるアルデヒド類は減少したとされています。相関解析からは、両菌株が互いに代謝産物をやり取りする「クロスフィーディング」と呼ばれる補完的な関係にある可能性が示唆されており、これがケフィアの風味形成を説明する一因になり得ると考察されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、特定の乳酸菌株と酵母株の組み合わせを対象にゲノム解析と代謝物の検証を統合した基礎研究であり、ケフィアの風味形成メカニズムを分子レベルで理解するための枠組みを示したものです。ケフィアを食べることの健康効果や栄養価について直接検証したものではなく、あくまで風味を生み出す微生物同士の代謝的な相互作用に焦点を当てた研究である点に留意が必要です。また、今回対象となったのは特定の菌株の組み合わせであり、ケフィア製品全般や他の菌株の組み合わせにそのまま当てはまるとは限りません。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点にも注意してお読みください。

まとめ

今回の研究では、ケフィア発酵に関わる乳酸菌L. kefiriと酵母K. marxianusが、それぞれ異なる代謝経路を通じて風味成分の材料を生み出し、両者が共存することでエステル類などの香り成分の生成が高まる可能性が示されました。今後、こうしたゲノムベースの知見が、発酵乳製品の風味を科学的にコントロールするための手がかりになることが期待されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ミルクケフィア発酵中のLentilactobacillus kefiriとKluyveromyces marxianusの代謝相互作用によるフレーバー形成のゲノムベース解析(ジャーナル・オブ・デイリー・サイエンス・2026年08月)