この研究は、バングラデシュの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Public Health Challenges

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜコリスチン耐性が問題になるのか

抗菌薬が効かなくなる「薬剤耐性(AMR)」は、細菌感染症の治療を難しくする世界的な健康問題として広がっています。論文の著者らは、大腸菌(Escherichia coli)がヒト・動物・食品・環境のあいだを行き来する細菌であることから、薬剤耐性の状況を監視するための指標となる生物として広く使われている点に着目しています。

多くの一般的な抗菌薬に対する耐性が増えたことで、多剤耐性のグラム陰性菌による重い感染症に対する「最後の手段」として、コリスチンという古い抗菌薬が再び使われるようになりました。ところが、プラスミドという細菌間で移動しやすい遺伝因子に乗ったコリスチン耐性遺伝子(mcr)が見つかり、耐性が細菌から細菌へ容易に広がりうることが強い懸念を呼んでいます。著者らは、この mcr がどの領域でどの程度報告されているのかを、分野を横断して整理することを目的としました。

何をどのように調べたか

本研究は、個別の実験を行ったものではなく、既存の報告をまとめて論じる「ナラティブレビュー(叙述的総説)」として実施されています。著者らは2025年までに発表された研究のうち28件を選び、そこに含まれる知見を統合しました。

対象となったのは、世界のさまざまな地域で、ヒト・動物・食品・環境という異なる由来から集められた36,000株を超える大腸菌の分離株に関する報告です。著者らは、これらの報告における mcr 陽性大腸菌の検出状況を分野ごとに見比べています。

報告された主な結果

著者らによると、mcr 陽性の大腸菌は、家畜と食肉製品でもっとも多く報告されていました。環境試料では中程度の検出、ヒトの臨床由来の分離株では全体として低い頻度という傾向が示されています。ただし著者らは、研究ごとの条件や手法のばらつき(研究間の不均一性)が大きいため、分野どうしを直接比べることには限界があると断っています。

この結果から著者らは、食用動物と汚染された環境がコリスチン耐性の重要な「リザーバー(保有源)」にあたり、ヒトへの曝露は間接的な経路を通じて起こりうると考察しています。もっとも、検出頻度のデータだけでは、どちらからどちらへ伝播したのかという方向性までは決められないことも明記されています。

また著者らは、多くの国で家畜生産におけるコリスチン使用の制限や抗菌薬の適正使用(スチュワードシップ)の改善が進んでも、mcr 遺伝子が残り続けていると述べています。その背景として、環境の汚染、同じプラスミド上に他の耐性遺伝子が一緒に存在することで別の薬剤の使用によっても選択されてしまう「共選択」、そして食品の国際的な流通が挙げられています。

この総説が示すこと

著者らは、現在得られている証拠は、コリスチン耐性が単一の分野だけでは有効に対処できない問題であることを示していると結論づけています。ヒトの健康、動物生産、環境管理を結びつけて考える「ワンヘルス」の協調的な取り組みが、mcr によるコリスチン耐性のさらなる拡散を抑え、この重要な抗菌薬の臨床的価値を守るために欠かせない、というのが本総説の主張です。

著者:Ferdous-Ul-Haque Joy(Department of Pharmacy United International University Dhaka Bangladesh)、Tashfiya Zaman Mouree(Department of Pharmacy Atish Dipankar University of Science and Technology Dhaka Bangladesh)、Munny Das(Department of Pharmacy Atish Dipankar University of Science and Technology Dhaka Bangladesh)、Asma Kabir(Department of Pharmacy Atish Dipankar University of Science and Technology Dhaka Bangladesh)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ferdous-Ul-Haque Joy, Tashfiya Zaman Mouree, Munny Das, et al. mcr ‐Mediated Colistin Resistance in Escherichia coli : A One Health Review of Reported Prevalence Across Human, Animal, Food, and Environmental Sectors. Public Health Challenges 2026-09-01. DOI: 10.1002/puh2.70376. 原著ライセンス:CC BY.