この研究は、ブラジル、スペインの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Microorganisms

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

二枚貝は海水を大量に取り込んで餌をこしとる「ろ過食」の生活をしているため、周囲の水に含まれる汚染物質や微生物を体内、とくに消化器官にためこみやすい性質があります。ムール貝のような二枚貝は生や軽い加熱で食べられることも多く、体内に病原体が残っていれば健康上のリスクになりえます。

著者らは、欧州連合の制度では二枚貝の衛生管理が大腸菌などの細菌指標やサルモネラ、海洋生物毒素の監視を軸に組み立てられている一方で、ウイルス量についての日常的な規制基準や法的な定量的上限はまだ定められていないと述べています。そのため、将来のリスク評価や規制判断を支える監視データが追加的に必要だという問題意識から、本研究は小売段階で流通するムール貝について、食品を介した伝播で特に懸念される4種の腸管系ウイルス――A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、ノロウイルスの遺伝子群IおよびII――の検出状況を調べることを目的としました。

何をどのように調べたか

調査対象は、スペイン・ブルゴスの小売店で販売されていたムール貝(ムラサキイガイの一種であるMytilus galloprovincialis)です。いずれもスペイン・ガリシア地方産で、商品ラベルの情報によれば販売前に「浄化(デピュレーション)」――清浄な海水を使った管理された設備で貝を一定期間飼い、体内にたまった微生物を排出させる処理――を受けたものでした。

購入は月ごとに行われ、毎回、包装形態の異なる6つの商品単位(網袋入り、ガス置換包装、ばら売り)をそれぞれ別のブランドから入手しました。2025年2月から2026年2月まで(2026年は1月と2月のみ)集められた商品単位は合計78で、それぞれから4〜5個体の貝を無作為に選び、消化器組織をまとめて2グラムの分析試料を1つ作りました。つまり分析されたのは78のプール試料で、個体数にすると約312〜390個体分にあたります。

検出には、試料からウイルスを濃縮したうえでウイルスの遺伝物質(RNA)を増幅して測る手法(逆転写定量PCR、RT-qPCR)が用いられました。分析の信頼性を確かめるため、著者らは各処理バッチに対照試料を組み込み、指標となるウイルス(メンゴウイルス)を加えてどれだけ回収できたかを試料ごとに評価しています。回収率の平均は42.9%で、5%を下回って無効と判定された試料はなく、再処理を要した試料もありませんでした。ノロウイルス遺伝子群IIが陽性となった試料は、同じRNA抽出液を使って別の独立した測定でも再確認されています。

主な報告結果

著者らの報告によると、78のプール試料のうちE型肝炎ウイルス、A型肝炎ウイルス、ノロウイルス遺伝子群Iはいずれも1件も検出されませんでした。検出されたのはノロウイルス遺伝子群IIのみで、5試料が陽性、プール単位での陽性率は6.4%でした。

陽性となった5試料はすべて2025年に採取されたもので、4月に1件、5月に2件、11月に2件という内訳です。季節別に見ると春に3件、秋に2件で、冬と夏には検出されませんでした。ただし著者らは、陽性試料の数が少ないためこうした季節や包装形態ごとの比較はあくまで探索的な分析であるとし、季節との関連は統計的に有意ではなかった(フィッシャーの正確確率検定、p = 0.0648)と明記しています。包装形態では網袋入りで4件、ガス置換包装で1件が陽性でしたが、こちらも統計的に有意な関連は認められませんでした。

検出されたウイルスRNAの量は少なく、陽性試料での推定濃度は1グラムあたり48.7〜372.2ゲノムコピー、中央値は120.0コピーでした。なお著者らは、今回用いたRT-qPCRはウイルスのRNAを検出する方法であって、そのウイルスに感染力があるかどうかを判別するものではない、という点を限界として挙げています。また、プール単位で計算した陽性率は個々の貝の陽性率を表すものではなく、個体単位で分析した研究や異なる大きさのプールを用いた研究の数値と直接比べることはできないとも述べています。

この研究が示すこと

著者らは、今回得られた6.4%という陽性率が、小売段階を対象とした過去の各国の報告と比べて非常に幅のある結果群のなかに収まるものだとしつつ、産地や貝の種類、分析単位やプールの作り方、調査時期、分析手法が研究ごとに異なるため、これらを直接比較できる推定値として読むべきではないと注意を促しています。

注目されるのは、対象となったムール貝がいずれも販売前に浄化処理を受けたと表示されていた点です。著者らは、浄化は重要な食品安全対策であるものの微生物を完全に除去できるわけではなく、とくに腸管系ウイルスについてはその傾向が知られていると整理しています。ノロウイルスが浄化中も残りやすい理由の一つとして、二枚貝の消化器組織にある特定の糖鎖にウイルス粒子が結合する性質が報告されており、今回の検出結果はこうした既知の残存しやすさと矛盾しないと述べられています。ただし本研究では浄化の時間や条件の情報が得られず、処理の前後を比べた分析も行っていないため、浄化の有効性そのものは評価できなかったとしています。

著者らは、RNAが少量検出されたという事実を、リスクが無視できる証拠とも、感染が起こる量のウイルスが存在する証拠とも解釈すべきではないと述べています。そのうえで今回の検出は、生産から流通のどこかの段階でこれらのムール貝がウイルス汚染にさらされたことを示すものであり、既存の細菌を対象とした管理を補うかたちで、ウイルスに的を絞った監視を続けていく意義を裏づけるものだと結論づけています。欧州の法令にウイルスの義務的基準がない現状において、こうした調査は基礎となる検出状況のデータを提供しうる、というのが本研究の位置づけです。

著者:Elois MA(Laboratory of Applied Virology, Department of Microbiology, Immunology, and Parasitology, Federal University of Santa Catarina, Florianópolis 88035-972, Brazil.; Laboratory of Microbiology, Department of Biotechnology and Food Science, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.; Centre for Emerging Pathogens and Global Health, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.)、Yeramian N(Laboratory of Microbiology, Department of Biotechnology and Food Science, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.; Centre for Emerging Pathogens and Global Health, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.)、Perez-Alonso D(Laboratory of Microbiology, Department of Biotechnology and Food Science, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.; Centre for Emerging Pathogens and Global Health, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.)、Cadamuro RD(Laboratory of Applied Virology, Department of Microbiology, Immunology, and Parasitology, Federal University of Santa Catarina, Florianópolis 88035-972, Brazil.; Laboratory of Microbiology, Department of Biotechnology and Food Science, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.; Centre for Emerging Pathogens and Global Health, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.)、Valero-Díaz A(Department of Food Science and Technology, UIC Zoonosis y Enfermedades Emergentes (ENZOEM), University of Cordoba, 14014 Cordoba, Spain.)、Cañete-Reyes Á(Laboratory of Microbiology, Department of Biotechnology and Food Science, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.; Centre for Emerging Pathogens and Global Health, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.)、da Silva HB(Laboratory of Applied Virology, Department of Microbiology, Immunology, and Parasitology, Federal University of Santa Catarina, Florianópolis 88035-972, Brazil.)、Fongaro G(Laboratory of Applied Virology, Department of Microbiology, Immunology, and Parasitology, Federal University of Santa Catarina, Florianópolis 88035-972, Brazil.)、Rodríguez-Lázaro D(Laboratory of Microbiology, Department of Biotechnology and Food Science, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.; Centre for Emerging Pathogens and Global Health, University of Burgos, 09001 Burgos, Spain.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Elois MA, Yeramian N, Perez-Alonso D, et al. Occurrence of Human Enteric Viruses in Retail Mussels Marketed in Burgos, Spain. Microorganisms 2026-09-19. DOI: 10.3390/microorganisms14092099. 原著ライセンス:CC BY.