この研究は、メキシコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Acta Scientiarum Polonorum Hortorum Cultus
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的にした研究か
ハツカダイコン(ラディッシュ)は生育期間が短く、施設栽培にも適応しやすい園芸作物です。一方で、集約的な生産では食用部位に硝酸塩がたまりやすく、品質や市場での受け入れに影響しうることが課題として挙げられています。
研究チームが注目したのは「フルボ酸」です。フルボ酸は腐植物質の一部で、分子量が小さく水に溶けやすいため、養分の吸収や代謝といった植物の生理的な働きに関わるとされ、肥料を増やさずに作物の出来を高める「バイオスティミュラント(生物刺激剤)」として使われています。ただし、これまでの研究の多くは葉物野菜や地上部の生育を対象としており、水耕栽培の根菜類で、養分の配分(作った養分をどの器官へ送るか)や硝酸塩の蓄積がどう変わるかはあまり分かっていないと著者らは述べています。
そこで著者らは、フルボ酸を葉に散布することで、収量・硝酸塩含量・バイオマスの配分がどう変化するかを調べました。仮説は、フルボ酸の散布によって窒素の同化が進んで硝酸塩の蓄積が減り、光合成産物が貯蔵器官(食べる根の部分)へより多く配分され、その結果として収量と商品性が高まる、というものです。
どのように調べたか
実験はメキシコ・チワワ州の温室で、2024年の栽培期に行われました。品種はクリムゾン・ジャイアント。パーライトを詰めた小さな容器で育て、「えびす(湛水)方式」とも呼ばれるebb-and-flow型の水耕システムを用いています。これは栽培槽に養液を一定時間ためて、その後排水する仕組みで、根の周りに空気が行き渡りつつ養分も安定して供給されます。日中は2時間ごと、夜間は4時間ごとに10分間の湛水を行いました。養液には園芸で広く使われるシュタイナー処方を用い、pHと電気伝導度を一定範囲に保っています。
処理は2つだけで、対照区には蒸留水を、処理区にはフルボ酸を主成分とする資材(腐植炭抽出物のうち90%がフルボ酸)を1リットルあたり4ミリリットルの濃度で散布しました。この濃度はメーカーの推奨量にあたります。散布は本葉が2枚目に出た時期から始めて収穫の1週間前まで週1回、いずれも朝7時30分に行いました。各処理は36個体、容器ごとに1株が独立した試験単位となる完全無作為化法で、破壊的な測定には各処理から無作為に20株を選んでいます。
収穫は播種から45日後。葉の枚数や葉面積、根の長さ、根の直径といった生育の指標に加え、部位ごとの生重・乾重、pH、糖度(可溶性固形物)、色、水分含量、光合成色素、硝酸塩濃度を測定しました。さらに、色・形・表面の状態・大きさを5段階で評価する見た目の品質指標も設けています。比較にはスチューデントのt検定(p≤0.05)が使われました。
報告された主な結果
葉の枚数や葉面積、根の長さといった栄養成長の指標、そしてクロロフィルやカロテノイドなどの光合成色素には、両区で有意な差は見られませんでした。つまり、地上部の育ち方そのものは変わらなかったということです。
変化が現れたのは、食用となる貯蔵根でした。フルボ酸を散布した区では横方向の直径(赤道径)が8.50%増え、貯蔵根の生重は28%増加したと報告されています。総収量は41.66%の増加でした。品質面では、pH・糖度・色指数に有意な差はなく、水分含量はわずかに0.57%低下しました。著者らは、これは乾物の割合が相対的に高まったことを示すと述べています。見た目の品質指標は98%向上し、処理区のハツカダイコンは均一な赤色と滑らかな表面、商品として適したサイズを示したと記されています。
可食部の硝酸塩濃度は、対照区に比べて4.96%低下しました。著者らはこれを、無機の窒素が有機化合物へと振り向けられた結果である可能性として説明しています。また論文では、フルボ酸がオーキシン(植物ホルモンの一種)に似た働きを持つとされる先行研究をふまえ、養分や糖の取り込みが促されて貯蔵器官への配分が進んだという仮説が示されていますが、酵素活性やホルモンの直接測定は行っておらず、さらなる検討が必要だと断っています。加えて、資材に含まれる窒素とカリウムの寄与を完全には除外できないため、精製したフルボ酸を使った研究が望ましいとも述べられています。
この研究が示すこと
この研究が伝えているのは、フルボ酸の葉面散布が「植物を大きく育てる」形ではなく、すでに作られた養分を食用部位へ振り向ける形で働いたらしい、という点です。葉や光合成色素は変わらないまま、根が太り重くなり、収量が増えたという結果は、植物内部での資源の配分(ソース・シンク関係)が変わった可能性を示しています。
同時に、食用部位の硝酸塩がわずかに下がり、見た目の品質が改善したことは、収量と品質を同時に扱う手がかりになります。著者らは、これらの結果が土を使わない栽培システムにおける農学的な選択肢を支持するとしつつ、生理的な仕組みの解明や、異なる環境・異なる散布量での検証が今後の課題だと位置づけています。
著者:Ramona Pérez‐Leal(Autonomous University of Chihuahua, Faculty of Agricultural Technology Sciences. Pascual Orozco Avenue, Campus 1, Santo Niño, 31160 Chihuahua, Chih., México)、María Janeth Rodríguez‐Roque(Autonomous University of Chihuahua, Faculty of Agricultural Technology Sciences. Pascual Orozco Avenue, Campus 1, Santo Niño, 31160 Chihuahua, Chih., México)、Jared Hernández-Huerta(Autonomous University of Chihuahua, Faculty of Agricultural Technology Sciences. Pascual Orozco Avenue, Campus 1, Santo Niño, 31160 Chihuahua, Chih., México)、Aldo Gutiérrez-Chávez(Autonomous University of Chihuahua, Faculty of Agricultural Technology Sciences. Pascual Orozco Avenue, Campus 1, Santo Niño, 31160 Chihuahua, Chih., México)、Kassandra Quiñonez-López(Autonomous University of Chihuahua, Faculty of Agricultural Technology Sciences. Pascual Orozco Avenue, Campus 1, Santo Niño, 31160 Chihuahua, Chih., México)、Angélica Anahí Acevedo-Barrera(Autonomous University of Chihuahua, Faculty of Agricultural Technology Sciences. Pascual Orozco Avenue, Campus 1, Santo Niño, 31160 Chihuahua, Chih., México)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ramona Pérez‐Leal, María Janeth Rodríguez‐Roque, Jared Hernández-Huerta, et al. Effects of foliar-applied fulvic acids on yield, biomass distribution, and nitrate accumulation in hydroponically grown radish (Raphanus sativus L.). Acta Scientiarum Polonorum Hortorum Cultus 2026-08-28. DOI: 10.24326/asphc.2026.5693. 原著ライセンス:CC BY.