有機農業は化学肥料を使わない栽培方法として知られていますが、だからといって環境への影響が常にゼロというわけではありません。特に土壌中の窒素は、作物に使われなければ雨水とともに地下へ流れ出し、水源を汚染する「硝酸塩溶脱」という問題を引き起こすことがあります。今回紹介する研究は、有機農業で広く使われる牧草・クローバーを組み込んだ輪作において、どのような管理をすれば作物の収量を保ちながら硝酸塩の流出を抑えられるのかを、実際の畑で検証したものです。

研究でわかったこと

この研究はドイツ北西部で2020年から2024年にかけて行われた圃場試験です。牧草・クローバー、被覆作物、サイレージ用トウモロコシ、冬大麦という有機作物の輪作を対象に、牧草・クローバーの管理方法を変えて、その後の収量と硝酸塩の溶脱量を比較しました。

試験では、牧草・クローバーを刈り取らずにそのまま土にすき込んで緑肥として使う方法と、いったん収穫してから、その分の窒素をバイオガス消化液(家畜ふん尿などをバイオガス化した後に残る液体肥料)として後作に施す方法が比較されました。さらに、牧草・クローバーを「秋にすき込んで冬用の被覆作物を植える」場合と、「冬を越させてから春にすき込む」場合という、2つの異なるタイミングも検討されています。硝酸塩の濃度は、冬の間、地中にしみ出す水(浸透水)を2週間ごとに分析して調べられました。

その結果、秋にすき込んだ場合は、冬を越させてから春にすき込んだ場合に比べて、硝酸塩の溶脱量が65%多いことが示されました。一方で、春にすき込んだ場合はバイオガス消化液の有無にかかわらずトウモロコシの収量を高める効果が見られました。ただし、春にすき込んだうえでバイオガス消化液をトウモロコシに施すと、「消化液を使わない春すき込み」や「バイオガス消化液を使った秋すき込み」に比べて、硝酸塩の溶脱量がむしろ増加することも報告されています。次作の冬大麦については、牧草・クローバーのすき込み時期やバイオガス消化液の有無による硝酸塩溶脱への影響は見られませんでしたが、バイオガス消化液を施すことで穀物の収量は有意に増加したとされています。

これらの結果から、研究チームは、牧草・クローバーをすき込むタイミングと、バイオガス消化液をどの作物に配分するかが、窒素管理を最適化するうえでの重要なポイントであると位置づけています。そのうえで、春にすき込んだ場合は最初の作物(トウモロコシ)へのバイオガス消化液の施用量を減らし、その分を次の作物(冬大麦)に振り向けることで、収量を確保しつつ硝酸塩溶脱のリスクを抑えられる可能性が示唆されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、ドイツ北西部という特定の地域・気候条件のもとで、2020年から2024年という期間に実施された一つの圃場試験に基づくものです。土壌条件や気候、輪作の組み合わせが異なる地域でも同様の結果が得られるかどうかは、この要旨だけからは判断できません。また、ここで示された数値や傾向は、あくまでこの試験で観察されたものであり、有機農業全般における硝酸塩溶脱対策の効果を保証するものではない点にも留意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したわけではないという前提で読むとよいでしょう。

まとめ

今回の研究では、有機農業の輪作において、牧草・クローバーをすき込むタイミング(秋か春か)と、バイオガス消化液をどの作物に配分するかという2つの管理手法が、収量と硝酸塩溶脱の両方に影響を与えることが報告されました。特に、春にすき込んだうえで肥料の配分を工夫することが、収量を保ちながら水質保全にも配慮した窒素管理につながる可能性が示唆されています。有機農業における環境負荷と生産性のバランスを考えるうえで、参考になる知見といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:牧草・クローバーを基盤とした有機作物輪作における収量性能と硝酸塩溶脱を制御する主要な管理手法(ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・アグロノミー・2026年08月)