加齢とともに血管の健康にかかわる「一酸化窒素」の生体利用率が低下し、心代謝リスク(血圧や血糖、脂質など生活習慣病に関わる指標)が高まりやすくなることが知られています。一酸化窒素は血管を広げる働きなどに関わる分子で、体内では食事から摂取した硝酸塩などから作られる経路もあります。ビートルートは硝酸塩を比較的多く含む野菜として知られており、今回紹介する研究では、ビートルートから作られた抽出物を高齢者に補給した際に、血液中の硝酸塩や抗酸化物質、そして心代謝に関わる指標がどう変化するのかが調べられました。
この研究は、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験という、思い込みや偏りの影響をできるだけ排除する方法で行われました。60〜85歳の20名の参加者が、ビートルート抽出物(1日20g、硝酸塩540mgと没食子酸相当で61mgの抗酸化物質を含む)を摂取するグループと、色や味、質感、パッケージを揃えつつ硝酸塩と抗酸化物質を取り除いた対照用のビートルート抽出物を摂取するグループに分けられ、12週間にわたって補給が行われました。参加者は絶食した状態で、開始前(ベースライン)、4週後、8週後、12週後に血液検査と心代謝に関わる測定を受けました。
研究でわかったこと
その結果、ビートルート抽出物を摂取したグループでは、対照グループと比較して血液中の硝酸塩、亜硝酸塩、抗酸化物質の濃度が有意に増加したと報告されています。一方で、血圧、血糖、インスリン抵抗性(インスリンの効きにくさを示す指標)、脂質(コレステロールなど)のプロファイルについては、グループ間で統計的に有意な差は見られなかったとされています。
さらに、参加者全体のデータを見ると、血中の硝酸塩の濃度が高いほど収縮期血圧(いわゆる上の血圧)、総コレステロール、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が低い傾向にある、という負の関連が示されました。また、抗酸化物質の濃度が高いほど血糖値が低く、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)が高いという関連も示されたと報告されています。つまり、グループ間での明確な差は確認されなかったものの、体内の硝酸塩や抗酸化物質の量そのものと、心代謝に関わる指標との間には関連が見られた、という結果です。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は参加者20名という比較的小規模な試験であり、一つの研究として示された結果です。血圧や血糖などの主要な指標については、補給グループと対照グループの間で明確な差が確認されなかった点は留意が必要です。また、示された関連はあくまで血中濃度と指標との相関であり、ビートルート抽出物の摂取が直接それらの指標を改善するとまでは述べられていません。今後さらに研究が積み重ねられることで、より確かな理解が得られていくものと考えられます。
まとめ
今回紹介した研究では、高齢者が12週間ビートルート抽出物を補給することで、血中の硝酸塩・亜硝酸塩・抗酸化物質の濃度が増加したことが示されました。血圧や血糖、脂質などの心代謝マーカーそのものにグループ間の有意な差は見られなかったものの、血中の硝酸塩や抗酸化物質の濃度は、血圧やコレステロール、血糖といった指標と関連していることが示唆されています。加齢に伴う血管の健康と食事成分との関係を考えるうえで、興味深い知見を提供する研究といえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ビートルート抽出物補給後の高齢者における循環硝酸塩・抗酸化物質と心代謝リスクマーカーとの関連(エーシーエス・ニュートリション・サイエンス・2026年07月)