この研究は、スリランカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Ceylon Journal of Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

ココナッツミルクは、削ったココナッツの果肉に水を加えて搾り取る、白くクリーミーな液体です。スリランカをはじめ熱帯地域の食文化に欠かせない食材で、脂質やたんぱく質、ミネラルを含むほか、ポリフェノールやフラボノイドといった成分も含まれています。

家庭では昔から手で揉み絞る方法が使われてきましたが、近年は忙しい生活のなかでミキサーを使う人も増えています。また、搾るときに常温の水を使うか、ぬるま湯を使うかという違いもあります。研究チームは、こうした日常的な搾り方の違いが、できあがるココナッツミルクの性質にどう影響するのかを体系的に調べた研究はこれまで乏しかったと指摘しています。

そこで著者らは、手絞りとミキサー、常温水とぬるま湯、さらに一番搾りと二番搾りという条件を組み合わせて比較し、家庭でも産業でも役立つ搾り方の目安を示すことを目的としました。論文では、スリランカにおけるココナッツミルク抽出法の初めての包括的な比較分析だと位置づけられています。

どのように比べたか

研究チームは、スリランカの地元市場で購入した成熟したココナッツの果肉を削り、水と1対2の割合で混ぜて搾りました。手絞りでは同じ訓練を受けた作業者が2分間、一定の力で揉み絞り、ミキサーでは家庭用ミキサーで中速2分間かくはんしています。いずれも布でこしたあと、残った果肉に新しい水を加えて同じ条件で二番搾りを行いました。水は常温(30±2℃)とぬるま湯(40±2℃)の2種類を使い、合わせて8通りの条件を比較しています。

評価したのは大きく三つの側面です。物理化学的な性質として、色、比重、pH、酸度、そして水に溶けた成分の量を示す「可溶性固形分(Brix値)」を測りました。栄養面では、たんぱく質、脂質、灰分(ミネラル分の総量)、水分、ナトリウムやカルシウム、そして脂肪を構成する脂肪酸の種類と割合を分析しました。さらに機能性として、総ポリフェノール量、総フラボノイド量、そして活性酸素のはたらきを抑える力を示す抗酸化活性(DPPHラジカル消去活性)を調べています。各条件は3回ずつ独立に繰り返し、統計的に差があるかどうかを検定しました。

報告された主な結果

著者らの報告によれば、最も良好な栄養成分を示したのは、ぬるま湯を使ったミキサーによる一番搾り(論文中の記号でBL1)でした。この条件では、たんぱく質が100グラムあたり0.53グラム、脂質が18.17グラム、可溶性固形分が8.53°Bx、pHが6.23と、いずれも各条件のなかで最も高い値が記録されています。ナトリウムやカルシウムといったミネラルも高い水準でした。論文では、ミキサーの機械的な力が果肉の細胞を効率よく壊し、ぬるま湯が果肉をやわらげることで、溶け出す成分が増えたのではないかと説明されています。

脂肪酸の内訳を見ると、どの搾り方でも最も多いのはラウリン酸という中鎖脂肪酸でした。なかでもBL1が46.20%と最も高く、カプリン酸も5.98%で最高値でした。一方で、必須脂肪酸であるリノール酸は、常温水でミキサーを使った一番搾り(BN1)が11.72%と最も高くなっており、搾り方によって取り出されやすい脂肪酸の種類が異なることが示されています。

機能性の面では、ミキサーによる一番搾りが優れていました。総ポリフェノール量はBL1が100ミリリットルあたり153.26ミリグラム没食子酸相当、BN1が148.19ミリグラム相当で、両者のあいだに統計的な差はありませんでした。抗酸化活性やフラボノイド量についても同様に、この二つが高い値を示しつつ互いの差は有意ではありませんでした。著者らはこの結果から、機能性成分の抽出を左右していたのは主に「ミキサーを使ったかどうか」であり、水温の影響は今回の条件では限定的だったと述べています。

また、どの搾り方でも二番搾りでは栄養成分も機能性成分も明らかに減少しました。著者らは、有効な成分の大部分が一番搾りで取り出されてしまうためだと説明しています。なお二番搾りでは炭水化物の計算値が高く出ていますが、これは炭水化物を他の成分の差し引きで求めているため、脂質などが減った分だけ見かけ上大きくなったものだと論文内で注記されています。

この研究が示すこと

同じココナッツから搾っても、使う道具と水の温度、そして何回目の搾りかによって、できあがるミルクの中身はかなり違ってくる――この研究が示しているのはそうした事実です。著者らは、今回調べた条件のもとでは、ぬるま湯を使ったミキサーでの一番搾りが、栄養面でも機能性の面でも最も充実したココナッツミルクを与えたと結論づけています。

台所での何気ない手順の選択が、食材から引き出せる成分の量を左右している。日々の調理にも、食品としての製造工程にも通じる、ささやかだが具体的な手がかりを与える報告だといえます。

著者:S. A. M. Mahsoom(Department of Food Science and Technology , Faculty of Agriculture , University of Ruhuna , Matara 81000 , Sri Lanka)、Harshaka Maduwantha Jans(Department of Food Science and Technology , Faculty of Agriculture , University of Ruhuna , Matara 81000 , Sri Lanka)、P. A. B. N. Perumpuli(Department of Food Science and Technology , Faculty of Agriculture , University of Ruhuna , Matara 81000 , Sri Lanka)、Ganwarige Sumali Nivanthi Fernando(Department of Food Science and Technology , Faculty of Agriculture , University of Ruhuna , Matara 81000 , Sri Lanka)、Ranahansi Rangadharee Bandara(Coconut Processing Research Division , Coconut Research Institute , Bandirippuwa Estate , Lunuwila 61150 , Sri Lanka)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):S. A. M. Mahsoom, Harshaka Maduwantha Jans, P. A. B. N. Perumpuli, et al. Comparison of hand-squeezing and blending extraction methods on the physicochemical, nutritional, and functional properties of coconut milk. Ceylon Journal of Science 2026-09-17. DOI: 10.4038/cjs.v55i4.9813. 原著ライセンス:CC BY.