掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: DataCite

研究の目的:家族農業を支える政策の共通点を探る

世界の農場の多くは、個人や家族が営み、主に家族の労働力に頼る「家族農業」です。論文が引用する国連食糧農業機関(FAO)の資料によると、世界の農場の90%以上がこうした家族経営にあたります。家族農業は食料生産だけでなく、農村の雇用、地域の知識の継承、農村景観の維持など、経済・社会・環境にまたがる役割を担っていると著者は位置づけています。

一方で、家族農業は多くの課題を抱えています。手頃な融資を受けにくいこと、担保が不足しがちなこと、農地が細分化されていること、新しい技術を取り入れにくいこと、市場での交渉力が弱いこと、気候リスク、そして次の世代への経営の引き継ぎの難しさなどです。そのため多くの国が家族農業向けの政策を設けていますが、その手法は国の制度や経済発展の段階によって大きく異なります。

この論文は、農業における家族経営の起業(家族を単位とした農業経営を事業として発展させること)について、各国の主な支援策を比較し、家族による農業生産を強化したい国々に役立つ一般的な教訓を引き出すことを目的としています。

何を調べたか:異なるタイプの5つの国・地域を比較

著者は、FAO、欧州委員会、米国農務省、日本の農林水産省、韓国の農林畜産食品部などが公表する政策資料や公式統計をもとに、各国の制度を比較しました。各国の取り組みの共通点と相違点を比べる比較分析に加え、政府が資金・技術・組織・市場の面でどのような仕組みを通じて農家を支えているかを調べる制度分析を行い、それらを総合して共通の政策原則を整理しています。

対象には、それぞれ異なる型を代表するものとして、欧州連合(EU)、米国、日本、韓国、ブラジルが選ばれました。EUは国家を超えた共通農業政策の枠組み、米国は信用保証を広く活用する市場志向の仕組み、日本は農村地域の持続性と環境機能を重視する仕組み、韓国は技術による農業の近代化、ブラジルは家族農業専用の政策を持つ主要な途上国の例とされています。なお著者は、ある国の仕組みをそのまま他国へ移せるとは考えず、国ごとの条件の違いを踏まえたうえで応用可能な原則を見いだすことに重点を置いたと説明しています。

前提として論文は、家族農業が自給的な小規模農業と同じ意味ではないことを強調しています。家族農業には、地元消費向けの小さな世帯農場もあれば、高度な機械やデジタル技術を使う商業的な経営もあります。そのため、すべての家族農場に一律の支援を当てはめるのではなく、農場の性格に応じて支援を分けることが適切だと述べています。

主な結果:各国の支援策にみられる特徴

EUでは、所得を下支えする直接支払いに、環境に関する施策、農村開発、若手農業者への支援、小規模農家への配慮が組み合わされています。論文によると、2023〜2027年の共通農業政策のもとで、加盟国は直接支払い予算の少なくとも3%を若手農業者のための所得支援、投資支援、起業支援に充てる必要があります。また、EUの農業経営体の4分の3以上が10ヘクタール未満であることから、小規模農家の事務負担を軽くするため、加盟国は手続きを簡素化した小規模農家向けの支払い制度(支払い額の上限は1,250ユーロ)を導入できるとされています。著者は、EUの経験を、生産量に応じた単純な補助金から、所得の安定、環境の持続性、世代交代を支える幅広い仕組みへの転換と捉えています。

米国では、2022年の農業センサスで農場の95%が家族所有で、農地の約84%を運営していると論文は紹介しています。米国の農業サービス庁は、農家への直接融資に加え、民間の金融機関が貸し出す際に、起こりうる損失の相当部分を政府が保証する「保証付き融資」を提供しています。農業経営の経験が10年以下の「新規就農者」向けの融資手段もあります。著者は、政府の支援が必ずしも補助金の形をとる必要はなく、信用保証によって民間の資金を呼び込みつつ金融機関のリスクを減らせることを示す例だとしています。

日本については、小規模な農場が多く、過疎化や農業者の高齢化、山がちな地形といった課題を抱えるなかで、中山間地域(山間部や丘陵地)への直接支払いが2000年から実施されていることが紹介されています。その狙いは生産量の増加だけでなく、景観の保全、耕作放棄の防止、農村共同体の維持にあります。気候変動の緩和や生物多様性の保全に役立つ環境にやさしい農業への支払いもあります。著者は、家族農業が市場価格には十分に反映されない環境的・社会的な便益を生み出しており、公的な支払いはその対価としても正当化できると論じています。

韓国では、人手不足や気候変動への対応として、デジタル化とスマート農業(情報技術や自動化を活用した農業)に力が入れられています。2025年に発表された初の5か年計画(2025〜2029年)では、国内5万5000ヘクタールの温室のうち35%を2029年までにスマート農場へ転換することなどが目標に掲げられています。著者は、支援が農家への補助にとどまらず、研究開発、技術の実証、産業集積、人材育成、資金調達の仕組みにまで及んでいる点に注目しています。

ブラジルについては、家族農業強化国家計画(PRONAF)が、家族農家の農業金融へのアクセスを改善する代表的な仕組みとして紹介されています。ブラジルの取り組みは融資に加えて技術支援や市場へのつながりなどを組み合わせており、その背景には「融資だけでは家族農家の構造的な問題は解決できない」という考え方があると著者は説明しています。

比較から見えた共通点と研究の意味

制度設計は国によって大きく異なるものの、論文はいくつかの共通点を挙げています。資金へのアクセスがほぼすべての支援制度の中心にあること、知識と技術の重要性が増していること、協同組合や共同販売などを通じた市場での立場の強化が欠かせないこと、若い世代の参入が戦略的な課題とされていること、環境の持続性が支援政策に組み込まれていること、そして農場の性格に応じて支援を分ける必要があることです。

結論として著者は、家族農業の支援に万能のモデルはないとしつつ、単独の資金援助よりも、資金、知識、技術、協同、市場へのアクセスを組み合わせた多面的な政策のほうが持続的だとまとめています。そして、効果的な政策の柱として、金融へのアクセス、技術の近代化、人材の育成、協同を通じた市場への統合、環境の持続性という互いに結びついた5つの要素を挙げています。

この研究が伝えているのは、家族農業を「農産物をつくる世帯」としてだけでなく、労働、資本、知識、技術、自然資源、市場とのつながりを組み合わせる事業の担い手として捉え直す視点です。著者は、特定の国の制度をそのまま模倣するのではなく、その根底にある原則を各国の条件に合わせて取り入れることが大切だと結んでいます。

原著論文の著者・所属:Sharofova Saida Alimurod qizi

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sharofova Saida Alimurod qizi. INTERNATIONAL EXPERIENCE IN DEVELOPING FAMILY ENTREPRENEURSHIP IN AGRICULTURE. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-09-25. DOI: 10.5281/zenodo.22950126. 原著ライセンス:CC BY.