この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:急増する研究分野を俯瞰する
超加工食品とは、食品から抽出した成分や工業的に合成した物質を主な原料とし、乳化剤や人工甘味料、香料、着色料などの添加物を加えて工業的に作られた製品を指します。おいしさや手軽さを高めるよう設計されており、加工度に応じて食品を4つのグループに分ける「NOVA分類」という枠組みの中で定義された概念です。論文によると、こうした食品は一般にエネルギー密度が高く、飽和脂肪や添加糖、ナトリウムが多い一方、食物繊維やビタミンが少ない傾向があり、世界的に消費が増えています。
これと並行して、超加工食品の摂取と、肥満や2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドローム、心血管疾患などをまとめた「心代謝疾患」との関係を調べる研究が急速に増えてきました。しかし著者らは、既存のレビューが特定の仕組みや個別の病気に焦点を当てたものが中心で、分野全体の知識の構造や関心の移り変わりを体系的に描いた研究は少ないと指摘しています。そこで研究チームは、2015年から2025年までの論文を対象に、この分野の発展の経緯、研究の中心テーマ、新たに注目されている方向を明らかにすることを目指しました。
何を調べたか:論文そのものをデータとして分析
研究チームが用いたのは「計量書誌学」と呼ばれる手法です。これは個々の実験や調査を行うのではなく、ある分野で発表された論文の数、発表した国や機関、掲載された学術誌、引用のされ方、使われているキーワードなどを数量的に分析し、分野の全体像を地図のように可視化するものです。
著者らは、学術文献データベースのWeb of Science Core CollectionとScopusから、英語で書かれた原著論文とレビュー論文を検索しました。2人の研究者が独立して無関係な文献を除外し、意見が分かれた場合は3人目を交えて判断しています。2つのデータベースの記録を統合すると引用情報が失われるおそれがあるため、両者は別々に分析され、主な分析はWeb of Scienceのデータで、補足的な分析はScopusのデータで行われました。キーワード分析では、検索語そのものや「健康」のような一般的すぎる語を除き、同じ意味の語をまとめるといった下処理も施されています。
主な結果:ブラジルが主導し、関心は肥満から糖代謝へ
選別の結果、Web of Scienceからは480件、Scopusからは549件の論文が分析対象となりました。発表数は期間を通じて増え続け、とくに2020年から2021年にかけて急増し、2025年には108件と10年間で最多に達しました。Scopusでも同様の増加傾向が見られ、2022年から2023年にかけての伸びも確認されています。
国別では、責任著者の所属国としてブラジルが147件で最も多く、米国(82件)、中国(32件)が続きました。機関別ではサンパウロ大学が89件で首位となり、2位のハーバード大学公衆衛生大学院の2倍以上でした。著者らは、ブラジルが首位に立つ背景として、超加工食品の概念とNOVA分類がサンパウロ大学の研究チームによって提唱されたことを挙げています。また、オーストラリアやスペイン、英国では国際共同研究の割合が高いことも示されました。
論文は172の学術誌に分散しており、掲載数ではNutrients、被引用数ではPublic Health Nutritionが最多でした。上位を占めたのは栄養学や公衆衛生学の雑誌で、著者らは、循環器の臨床系雑誌の関与が比較的少ないことから、疫学的な知見を臨床研究に結びつける取り組みがまだ十分でない可能性があると考察しています。
キーワードは1,594語が抽出され、最も多く登場したのは「肥満」(240回)でした。研究テーマの時間的な変化をたどると、2016〜2019年は超加工食品の摂取実態を把握する探索的な段階、2020〜2021年は栄養面の質や健康への負担、評価方法へと関心が移り、2022〜2023年には肥満や心血管疾患との関連を体系的に評価する研究が中心となりました。2024〜2025年には「糖尿病」「インスリン抵抗性」「予防」などが目立つようになり、糖代謝の異常や予防策へと焦点が絞られつつあることが示されました。
こうした分析を総合し、研究チームは現在の研究の焦点を3つにまとめています。1つ目は超加工食品の摂取と心代謝疾患との関連、2つ目は子どもや思春期の若者における早い段階からの心臓・代謝への影響、3つ目は食品本来の構造(食品マトリックス)が損なわれることや食品添加物が、炎症や腸内細菌のバランスの乱れ、血管の働きの低下などを通じて代謝の乱れに関わる仕組みです。なお、これらは関連や考えられる経路として整理されたものであり、この研究自体が因果関係を検証したわけではありません。
この研究が示すもの
この研究は、超加工食品と心臓・代謝の健康をめぐる研究が過去10年で大きく拡大し、その関心が摂取実態の把握から肥満や心血管疾患との関連の評価へ、さらに近年は糖代謝の異常や予防へと移ってきたことを、論文データに基づいて描き出しました。あわせて、心代謝疾患との関連、子どもや若者への影響、そして影響の仕組みという3つの焦点が現在の研究を形づくっていることも示しています。どの国や機関がこの分野を牽引し、どのテーマが中心になっているのかを一望できる見取り図として、研究の現在地を理解する手がかりを与えてくれます。
著者:Tianao Chen(Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Ping Ni(Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Minxin Li(Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Haijun Ma(Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Dai Jin(Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、You Yu(Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)、Rui Yu(Liaoning University of Traditional Chinese Medicine)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tianao Chen, Ping Ni, Minxin Li, et al. Global research landscape and emerging frontiers of ultra-processed food intake and cardiometabolic health: a bibliometric and knowledge-mapping analysis (2015–2025). Frontiers in Nutrition 2026-10-07. DOI: 10.3389/fnut.2026.1916253. 原著ライセンス:CC BY.