肥満は世界各地で健康課題となっていますが、なかでも太平洋の島嶼国では深刻な状況が指摘されています。パラオ共和国もその一つです。一方で、都市部で家庭菜園を営む「アーバンガーデニング」が食生活や健康によい影響をもたらす可能性は、これまで欧米などの研究で報告されてきました。しかし、肥満危機に直面する太平洋島嶼国でこのテーマを扱った研究はごくわずかしかありません。今回紹介する研究は、パラオを舞台に、都市部で家庭菜園を行っている人とそうでない人を比較し、食事の多様性や体格、健康状態にどのような違いがあるのかを調べたものです。
パラオで家庭菜園をしている人としていない人を比較
この研究では、パラオの都市部に暮らす住民を対象に、家庭菜園(アーバンガーデニング)を実践している人と実践していない人とを比べています。調べられたのは主に三つの指標です。一つ目は食事の多様性を表す「食事多様性スコア」、二つ目は体格指数であるBMI(体格指数)、三つ目は本人が自分の健康状態を「良好」と感じているかどうかという主観的な健康評価です。
結果として、家庭菜園を行っている人は行っていない人に比べて、食事多様性スコアが0.86ポイント高いことが示されました(統計的に意味のある差とされています)。また、BMIについても、家庭菜園を行っている人のほうが2.92 kg/m²低いという差が見られました。さらに、自分の健康状態を「良好」と回答する割合についても、家庭菜園を行っている人は行っていない人と比べて3.49倍高いという結果が示されています。これらの差はいずれも統計的に有意なものとして報告されています。
この研究をどう読むか
この研究は、家庭菜園と食事の多様性、BMI、主観的な健康感との間に統計的な関連があることを示したものであり、家庭菜園をすれば健康が改善する、あるいは肥満が予防できると直接証明したものではない点に注意が必要です。菜園を持つ人ともともとの生活習慣や健康志向との間に別の関係がある可能性も考えられ、要旨からは因果関係そのものを断定する記述は読み取れません。あくまで一つの研究として、パラオという特定の地域・時点における実態を捉えたものと理解するのが妥当です。
なお、この研究には日本の研究機関に所属する著者も加わっています。具体的には、立教大学、神戸大学、東京大学の研究者が名を連ねており、パラオ現地の機関であるパラオ・コミュニティ・カレッジやコロール州の担当部署の研究者・実務者と共同で行われた研究であることがうかがえます。
まとめ
今回の研究では、肥満危機に直面するパラオにおいて、都市部での家庭菜園の実践が、より多様な食事や低めのBMI、良好な健康感の自己評価と関連していることが示されました。著者らは、こうした知見が公衆衛生や都市計画の戦略に家庭菜園を組み込むことの重要性を示唆していると述べています。ただし、これは一つの研究から得られた関連性であり、菜園と健康との関係の全体像を確定づけるものではありません。今後、他の地域や条件のもとでも同様の関連が見られるかどうか、さらなる研究の積み重ねが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Akiko Iida, Chihiro Tsuchiya, Yin Yin Nwe, et al. Urban gardening and its associations with diet and health in Palau facing an obesity crisis. npj アーバン・サステナビリティ (2026). DOI: 10.1038/s42949-026-00472-4. 原著ライセンス: cc-by.