学校給食は、家庭の経済状況にかかわらずすべての子どもが日々口にする数少ない栄養バランスの取れた食事だと考えられています。だからこそ、給食に何が出されているかは、子どもたちの食の公平性に直接関わる問題です。しかし、都市部と農村部で給食の中身に違いがあるのか、あるとすればどのような違いなのかは、大規模なデータで検証されてきませんでした。台湾国立大学と台湾師範大学の研究者らによる今回の研究は、台湾全土の学校給食の記録を使って、この都市・農村格差を数量的に明らかにしようとしたものです。

1270万件の給食データを22県で比較

研究チームは、台湾の教育部(日本の文部科学省に相当)が運営する「学校給食登録プラットフォーム」から、2024年5月から2026年4月までの24か月間に、台湾全22県の3894校で提供された給食の献立記録、合計1268万8008件を収集しました。これらのデータから、一皿ごとの献立について「植物性食品中心の割合」「有機食品の割合」「加工食品の割合」「全粒穀物の割合」という4つの指標を算出し、県ごと・月ごとにまとめた418件のパネルデータを作成しました。分析には階層回帰分析(重み付き最小二乗法および不均一分散に頑健な標準誤差を用いる手法)が使われ、単に都市と農村を比べるだけでなく、各県の所得水準や人口密度といった社会経済的な要因を考慮したうえでも都市・農村の差が残るかどうかが検証されました。

4つの指標で異なるパターンが見えた

結果は、4つの指標それぞれで異なる傾向を示したと報告されています。まず植物性食品中心の献立の割合は、都市部から農村部にかけて一貫して低下する傾向が見られ、所得や人口密度を考慮しても、この都市優位・農村不利のパターンは安定していたとされています。一方、有機食品と全粒穀物の割合については、単純な比較では農村部が不利に見えたものの、県の所得水準を統計的に調整すると、その不利は消失し、むしろ逆転する結果になったといいます。研究チームはこれを、所得の格差によって隠されていた農村部の潜在的な供給力が、所得を考慮に入れることで見えてくる「抑制構造」だと説明しています。加工食品の使用についても、所得と人口密度を考慮すると、農村部で多いというよりも、所得が低く人口密度が高い県に集中している傾向が示され、これは農村部の課題というより都市部の集中的な問題として捉えるべきだとされています。さらに、2017年に導入された、産地などが追跡可能な食品を対象とした試験的な政策が、全国展開から7年が経過した現在も有機食品の調達に影響を及ぼし続けている「レガシー効果」が見られたことも報告されています。

この研究を読むうえでの注意点

この研究は台湾という特定の国・制度のもとでの給食データを対象にしたものであり、得られた傾向がそのまま他国の給食制度に当てはまるとは限りません。また、県単位・月単位で集計されたデータに基づく分析であるため、個々の学校や子ども一人ひとりの食事内容のばらつきまでは捉えられていない点にも留意が必要です。研究チームは、学校給食改革を評価する際には、全国平均を底上げすることよりも、こうした地域間の格差を縮めることを中心的な基準とすべきであり、対策は食の指標ごとに異なるアプローチで考える必要があると結論づけています。あくまで一つの研究であり、今回明らかになった傾向が今後も同様に観察されるかどうかは、さらなる検証が必要な段階だと言えるでしょう。

まとめ

台湾の全国規模の給食記録という大規模データを用いた今回の研究は、学校給食が地域によって異なる「食の環境」を子どもたちに提供している可能性を示しました。植物性食品、有機食品、加工食品、全粒穀物という指標ごとに都市・農村の関係性が異なっていたという結果は、給食の質を単純に都市か農村かで語れないことを示唆しています。給食を通じた食の公平性を考えるうえで、地域差そのものに目を向ける視点の重要性を投げかける研究だといえます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Hui-Min Wang, Jiun‐Hao Wang, Kuo-Chen Wu. Urban–Rural Disparities in School Lunch Food Composition: Evidence from 12.7 Million Dish Records in Taiwan’s National School Food Registry. ニュートリエンツ (2026). DOI: 10.3390/nu18172871. 原著ライセンス: cc-by.