著者の所属・活動拠点の国は、エチオピアです。

掲載誌:BIORISK – Biodiversity and Ecosystem Risk Assessment

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

エチオピア南部、ガモ高地と呼ばれる地域には、Arisaema schimperianum(アリサエマ・シンペリアヌム)というサトイモ科テンナンショウ属の植物があります。現地では「コルツォ(Qolxo)」と呼ばれ、地下にできる球茎(コーム)を食用にする作物です。世界的にはほとんど知られていない「低利用作物」ですが、地域の食料事情や暮らしを支えてきました。この植物をどう育て、どう見分け、どう食べているのか——長年蓄積されてきた住民の知識を体系的に記録したのが今回の研究です。研究は、エチオピアのアルバミンチ大学に所属する研究者らによって行われました。

誰に、どうやって聞いたのか

調査はガモ高地のチェンチャ郡とディタ郡で行われ、事前の下見でこの作物の栽培が盛んな地区(ケベレ)を選んだうえで、6つのケベレから世帯を無作為に抽出しました。最終的に357人から回答を集め、内訳は半構造化インタビューが318人、グループ討議(フォーカスグループ)が30人、詳しい知識を持つ古老などへの個別インタビューが9人でした。回答者は男性67.8%、女性32.2%、年齢は18歳から91歳まで幅広く、正規の教育を受けていない人が58%を占めていました。世帯の暮らしの88.2%は農業に依存しているとのことです。

球茎の色や形で見分ける「民俗分類」

調査では、住民が複数のA. schimperianumの在来品種(ランドレース)を区別し、それぞれに固有の呼び名をつけていることが分かりました。回答者が挙げた呼び名は1人あたり1〜13種類にのぼり、よく挙がったのは「バンガヨ」「ダシャロ」「マラオ」などでした。区別の手がかりは、苗の鞘の色、葉柄の色、果実の色、球茎の色、小葉の形や巻き方、花茎(花序を支える柄)の長さなど、生育段階ごとの見た目の特徴です。たとえばバンガヨは鞘が明るい緑色で葉が広く下向きに巻き、ダシャロは紫地に白い斑点があり花茎を持たない、といった具合です。ただし品種を見分ける力には個人差が大きく、回答者の3分の1超はどの品種も区別できなかった一方、3つとも正しく識別できたのは約4分の1にとどまりました。聞き取りではさらに、この作物が「男(アデ・コルツォ)」と「女(マッカ・コルツォ)」という2グループに分類されていることも語られました。「男」は毒性が強く食味が劣り加工しにくいもの、「女」はでんぷんが多く食味がよく毒性が低いものを指し、農家は日常食用に「女」を、食料が乏しい時期の備えとして「男」も残しているとのことです。

誰の知識が豊富だったか——年齢・教育・性別との関係

統計解析(重回帰分析)の結果、回答者の社会的背景がこの作物に関する知識の量に有意に関係していることが示されました(F=78.507、p<0.001、モデルは分散の57.4%を説明)。年齢が高いほど品種識別の知識は豊富になる一方(p<0.001)、正規教育を受けた年数が長いほど知識は少なくなる傾向が見られました(p=0.008)。性別(p<0.001)、家族の人数(p=0.042)、婚姻状況(p=0.035)、職業(p=0.013)も知識量に有意に関わっており、特に女性の方が男性より多くの品種名を挙げる傾向があったとされています。一方、居住する郡やケベレの違いは知識量に有意な影響を与えていませんでした。

栽培から食卓まで——毒抜きの知恵

球茎は6〜7月ごろ、地上部の葉が黄色くなり枯れ始めた頃に収穫されます。収穫した球茎はおよそ7.5対2.5の比率で切り分けられ、大きい方(約75%)を食用に、成長点を含む小さい方(約25%)を次の作付け用の種イモとして土中30〜40cmの深さに植え直します。植えたイモは9月から翌2月頃まで4〜5か月ほど休眠したのち発芽し、個々の株が収穫できるほどに育つまでには3〜5年を要するといいます。畑には異なる生育段階の株が混在しているため、毎年一部の成熟株だけを選んで収穫することで、長い成熟期間があっても安定した収穫を続けられる仕組みになっています。また休眠期間中も畑では穀物を同時に育てる混作が行われており、著者らはこれを環境に配慮した農法だと評価しています。食用にする球茎はそのままでは扱いにくいため、繰り返し水に浸してロウ質やアクを取り除き、伝統的な石臼(現地語でウォツァ)ですり潰したうえで、地下の貯蔵穴で3〜5日間発酵させます。この浸水・粉砕・発酵の一連の工程が、皮膚を刺激する成分を取り除き、安全に食べられる状態にするための要となっているとされています。発酵させたもの(ザンツァ)は、若者や旅人向けの「インチラ」や、家長・客人・年配者向けのお粥「シェンデラ」など、地域の伝統的な料理に姿を変えます。

誰が担っているのか、そして何が脅かしているのか

この作物の栽培・加工・調理は女性が中心的な役割を担っていることも分かりました。種イモの選定や畑の施肥、収穫、洗浄、粉砕・発酵、料理づくり、販売まで、多くの工程に女性が関わっているとされます。食用の球茎は主食(80%が「食料」として利用と回答)として使われるほか、一部の回答者(13%)は食料・民間療法・家畜の治療の三つの用途を、また一部(5%)は食料と家畜治療の用途を挙げており、葉柄からにじむ汁を人や家畜の傷の手当てに使うといった伝統も語られています。一方で、この作物の存続を脅かす要因についてペアワイズ順位づけ(要因同士を一つずつ比較して重要度を決める手法)で調べたところ、社会的な偏見(この作物を食べることに対する周囲の目)が最も深刻とされ、次いで手間のかかる加工工程、土地利用の変化、研究・普及活動の不足、成熟までの期間の長さの順に挙げられました。

この研究を読むうえでの注意点

この研究は特定の2つの郡・6つのケベレを対象にした聞き取り調査であり、品種名の表記には地域ごとの揺れ(同じ植物が地区によって違う名前で呼ばれる、逆に別の品種が似た名前で呼ばれるなど)があることも著者らは指摘しています。また、教育年数と知識量が逆相関していたという結果は、あくまで今回の調査対象におけるデータ上の関連であり、教育そのものが知識を失わせる原因だと断定されているわけではありません。栽培や加工の効果・安全性についても、住民の経験に基づく報告としてまとめられたものであり、成分分析などによる裏付けが示されているわけではない点に留意が必要です。

まとめ

この研究は、エチオピア・ガモ高地で栽培されてきたArisaema schimperianumという低利用作物について、住民がどのように品種を見分け、育て、毒抜きをして食べてきたかという知識を、357人への聞き取りを通じて記録したものです。年齢や性別、教育歴によって知識の伝わり方に偏りがあることや、社会的な偏見や手間のかかる加工がこの食文化の存続を脅かしていることも示されました。一つの地域を対象にした調査結果であり、ここで紹介した内容が他の地域や作物にそのまま当てはまるとは限りません。

原著論文の著者・所属:Fantaye Fekede(Biodiversity Research and Conservation Center, Arba Minch University, Arba Minch, Ethiopia)、Degife Asefa(Department of Plant Science, Arba Minch University, Arba Minch, Ethiopia)、Abera Uncha(Department of Geography and Environmental Sciences, Arba Minch University, Arba Minch, Ethiopia)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Fantaye Fekede, Degife Asefa, Abera Uncha. Ethnobotanical knowledge and utilization of Arisaema schimperianum (Schott) in the Gamo highlands of South Ethiopia. バイオリスク:生物多様性と生態系リスク評価誌 (2026). DOI: 10.3897/biorisk.24.206801. 原著ライセンス: cc-by.