大腸がんは世界的にみても患者数の多いがんのひとつで、2020年時点で世界で3番目に多く診断されたがんとされています。治療の中心となるのは手術ですが、大腸がんの患者は栄養不良やサルコペニア(筋肉量や筋力の低下)、さらには進行するとがん悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態に陥りやすいことが知られています。これらの状態を抱えたまま手術に臨むと、術後の経過にどのような影響があるのか。今回紹介するのは、この点について既存の研究をまとめたミニレビュー(narrative mini review)です。フロンティアーズ・イン・ニュートリション誌に2026年08月に掲載予定の論文で、メキシコ国立医学栄養科学研究所(Instituto Nacional de Ciencias Médicas y Nutrición Salvador Zubirán)などに所属する研究者らによってまとめられました。

大腸がん患者の栄養状態はどうなっているのか

この論文によれば、がん患者全体の栄養不良の頻度は20〜70%と報告されており、そのうち大腸がん手術を受ける患者に限ると、約24〜65%が栄養不良の状態にあるとされています。栄養不良になると、感染症や合併症、入院期間の延長、医療費の増加、さらには死亡リスクの上昇につながるとされます。がんに伴う栄養不良では、筋肉のたんぱく質が失われやすくなるほか、分岐鎖アミノ酸(BCAA)のような必須アミノ酸の酸化(体内での分解・消費)が進みやすいことも述べられています。BCAAの血中濃度は、リンパ球の増殖やマクロファージの活性化、炎症性サイトカインの産生といった免疫反応にも関わるとされ、BCAAが減ることで炎症反応が強まり、免疫が弱まる可能性があるとされています。

また、通常は必須アミノ酸とされないグルタミンについても、手術のような大きな身体的ストレス(トラウマ反応)の際には筋肉中の濃度が最大で50%程度低下することがあるとされ、この状態では本来グルタミンに依存する生理的なはたらきが損なわれる可能性があるとされています。

サルコペニア(低い筋力・低い筋肉量・低い身体機能で定義される状態)は、がん患者に最も多くみられる栄養上の問題であり、生活の質の低下や手術合併症、生存率の低下を予測する独立した要因とされています。新たにがんと診断された患者では、筋肉量の低下がみられる割合が50%を超えるとされ、これは同年代の健康な人における約15%と比べて大きく高いとされています。

大腸がんが進行すると、栄養状態の悪化はがん悪液質として現れることがあります。これは筋肉量が進行性に失われる(脂肪量の減少を伴う場合と伴わない場合がある)、炎症を伴うことが多い多因子性の症候群で、通常の栄養サポートだけでは完全には元に戻せないとされています。悪液質は、体重減少が5%以下で代謝の変化が始まる「前悪液質」、体重減少が5%を超える、あるいはBMIが20kg/m²未満でさらに体重減少が続く、またはサルコペニアがみられる「悪液質」、そして治療に抵抗性のある代謝状態で余命が3か月未満とされる「治療抵抗性悪液質」の3段階に分けられるとされ、その頻度は50〜80%と報告されています。現時点で悪液質を完全に元に戻す薬物療法は確立されていないとされています。

栄養状態が悪いまま手術を受けるとどうなるのか

この論文がまとめた既存研究のデータによれば、栄養状態の悪化は術後の様々な指標と関連づけられています。例えば、栄養不良のある患者では全体の死亡リスクがハザード比2.04(95%信頼区間1.56〜2.67)、院内死亡のオッズ比が1.96(1.73〜2.23)と報告されています。また、感染症のオッズ比は2.38(2.07〜2.73)、手術創(傷)の合併症のオッズ比は3.32(2.76〜3.99)、入院日数は栄養不良のある患者で平均15.4日、それ以外で9.61日と報告されています。入院費用についても、栄養不良のある患者では平均163,962米ドル、そうでない患者では102,709米ドルという報告が紹介されています。

サルコペニアについても同様の傾向が報告されており、術後死亡のオッズ比が3.21(2.01〜5.11)、術後合併症全体のオッズ比が1.84(1.35〜2.48)などが挙げられています。特に大腸がん手術においては、筋肉量や筋力の低下が、術後30日から1年の間の早期死亡リスクの上昇や、感染症、縫合不全(腸をつなぎ合わせた部分がうまくつながらない状態)などの合併症の増加と関連することが、複数のメタ解析で確認されているとされています。栄養不良やサルコペニアのある患者では入院期間が長引く傾向もあり、これによって1人あたりの入院費用が約50%増加するという報告も紹介されています。

こうした背景から、論文ではがん患者に対して1日あたり25〜30kcal/kgのエネルギーと1〜1.5g/kgのたんぱく質摂取が推奨されるとしていますが、進行期の患者の80%以上がこの必要量を満たせていないという課題も指摘されています。

術前の栄養管理として検討されている方法

論文では、栄養リスクのある患者を早期に見つけるスクリーニングと、個別化された栄養ケアプランの重要性が強調されています。具体的な介入としては、食事内容の調整、経口栄養補助食品(ONS)、必要に応じた経腸・経静脈栄養が挙げられ、ONSは1日あたり約500kcalを補うことができ、術後合併症の減少や入院期間の短縮につながるとする報告が紹介されています。予定手術を受ける患者については、手術の10〜14日前から術前の栄養介入を始めることが望ましいとする栄養ケアのアルゴリズムが紹介されています。

そのほかの方法として「免疫栄養(immunonutrition)」も取り上げられています。これは、n-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)、BCAA、アルギニン、グルタミン、ヌクレオチドといった栄養素を通常より多い量で組み合わせて摂取し、免疫反応を調整しようとするアプローチです。ある メタ解析では、経腸的な免疫栄養によって開腹での大腸手術を受けた患者の手術創感染のリスクが相対リスク0.48(p=0.0005)に低下し、入院期間が平均2.37日短縮した(p<0.0001)と報告されていますが、腹腔鏡下手術ではこうした効果はみられなかったとされています。免疫栄養は遅くとも手術の7日前、理想的には10〜14日前から経腸的に開始することが推奨されるともされていますが、こうした研究の多くは複数の栄養素を組み合わせた市販の栄養剤を使っているため、どの栄養素が具体的にどの効果に寄与しているかを切り分けるのが難しいという限界も述べられています。

個別の栄養素についても言及があります。PUFAは、体重減少のあるがん患者で食欲や筋肉量、体重の安定に役立つ可能性があり、1日2gのエイコサペンタエン酸(EPA)の摂取が全身の炎症の軽減や術後感染リスクの低下と関連するという報告が紹介されていますが、大腸がん手術患者を対象にPUFA単独の効果を調べたランダム化比較試験はまだ少ないとされています。BCAA、特にロイシンは筋肉のたんぱく質合成を促し、手術ストレスによる異化(体の組織が分解される反応)を抑えるはたらきがあるとされますが、こちらも臨床試験の裏付けが不足しているとされています。グルタミンは腸の粘膜を保つはたらきや免疫細胞のエネルギー源としての役割があるとされる一方、臨床研究の結果は一貫していないと述べられています。アルギニンは創傷治癒に関わるコラーゲン合成に必要とされ、免疫グロブリンやCD4陽性Tリンパ球の増加、手術創感染や縫合不全の減少、入院期間短縮との関連が報告されていますが、多くの研究で他の栄養素と組み合わせて投与されているため、アルギニン単独の効果を確認するのは難しいとされています。

微量栄養素としては、ビタミンCと亜鉛が取り上げられています。ビタミンCはコラーゲン合成や抗酸化作用、組織の治癒に関わるとされ、術後の痛みの軽減やモルヒネ使用量の減少との関連、また1日500mgの静脈内投与で大腸手術後の酸化ストレスの指標が有意に減少したという報告が紹介されています。臨床試験で多く使われている用量は1日500〜1,500mg(経口)とされています。亜鉛は多くの酵素や転写因子の補因子として、DNA合成や免疫応答、創傷治癒に関わるとされ、頭頸部がんの放射線治療に伴う口内炎や皮膚炎の頻度・重症度を軽減したとする報告や、化学療法・放射線療法による口内炎の予防に1日150mg以上の経口亜鉛が有効とするメタ解析が紹介されています。大腸がんに関しては、化学療法中に1日70mgの亜鉛を投与したランダム化比較試験で、抗酸化酵素であるスーパーオキシドディスムターゼの活性が高まり、ビタミンEの濃度が維持されたという報告が紹介されており、臨床試験でよく使われる用量として、亜鉛は手術前後や化学療法・放射線療法中に1日70mg(経口)が挙げられています。ただし、これらの微量栄養素の補給を大腸がん患者にルーティンで行うことを推奨するだけの質の高いエビデンスは、現時点では十分ではないとされています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この論文は、系統的な検索手順(システマティックレビューのような厳密なプロトコル)に基づくものではなく、ナラティブ(叙述的)なミニレビューであるため、取り上げられた研究の選び方に偏りが生じている可能性があると著者らは述べています。また、免疫栄養や微量栄養素補給に関するエビデンスの多くは、大腸がん患者に限らずさまざまながん患者を対象にした研究や、限られた臨床試験、あるいはメカニズムを調べた基礎研究に由来するものであり、大腸がん患者への当てはめには限界があるとしています。研究デザインの多様さや結果のばらつき、大腸がん手術に特化したエビデンス不足のため、これらの介入を大腸がん手術患者に一律に推奨できる段階にはないと結論づけられています。著者らは、腫瘍の種類や進行度、部位、手術方法(開腹か腹腔鏡か)、術前の栄養・代謝・炎症の状態など、研究を難しくする要因を挙げたうえで、より大規模な研究の必要性を指摘しています。

まとめ

この論文は、大腸がん手術を受ける患者において栄養不良やサルコペニア、悪液質がどの程度みられ、それが術後の合併症や死亡リスク、入院期間、医療費とどう関連するかを、既存の研究をもとに整理したミニレビューです。エネルギーとたんぱく質を適切に確保する個別化された栄養ケアプランに加え、免疫栄養や微量栄養素(ビタミンC・亜鉛など)の補給が術後の経過改善に役立つ可能性が一部の研究で示唆されている一方、エビデンスには限界があり、これらを日常的な診療で一律に取り入れることは現時点では推奨できないと著者らは述べています。今後のさらなる研究の蓄積が期待される分野といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:大腸がん手術における術前栄養:ミニレビュー(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)