顎が痛む、口が開けにくい、あごを動かすとカクカク音がする——こうした症状は「顎関節症(TMD)」と呼ばれ、多くの人が一度は経験する身近な不調です。ストレスや噛み合わせとの関連が語られることが多い一方で、近年は生活習慣、特に「食事」との関係にも関心が寄せられています。今回紹介する研究は、食事や栄養状態が顎関節症、特に痛みを伴うタイプにどう関わるのかを、これまでに発表された研究を集めて整理したシステマティックレビューです。
どのように調べたのか
研究チームは、MEDLINEやEMBASE、Web of Scienceといった複数の医学データベースを使い、各データベースの開始時点から2025年11月までに発表された臨床研究・観察研究を幅広く検索しました。最終的に7,760件もの文献が見つかりましたが、そこから研究の質やバイアス(偏り)のリスクを評価する専門的な基準(NHLBIの評価ツール)を用いて厳しく絞り込み、「バイアスのリスクが低い」と判断された7件の研究のみを分析対象としています。
研究でわかったこと
結論から言うと、食事と顎関節症の関係は、現時点では「まだはっきりしない」というのが全体的な結果でした。妊娠中や思春期の食事の質を長期間追跡した前向きコホート研究では、食事の質だけが独立して将来の顎関節症を予測するという結果は見られなかったとされています。
一方で、ある時点の食生活と症状を同時に調べた横断研究では、特定の食事パターンが顎関節症に関連する症状と関係している可能性が示唆されています。また、筋肉に由来するタイプの顎関節症(筋原性TMD)を持つ女性は、そうでない女性と比べていくつかの栄養素の摂取量が少ない傾向が見られたと報告されています。
実験的な研究では興味深い結果も紹介されています。うま味成分として知られるグルタミン酸ナトリウムを摂取すると、筋膜性の顎関節症における痛みの強さが増したという結果があったとのことです。また、唯一のランダム化比較試験では、ビタミンDのサプリメント摂取と、消炎鎮痛薬であるジクロフェナクとの間で、痛みの改善に統計的に明確な差は見られなかったと報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この論文はあくまで、既存の研究を集めて整理した「システマティックレビュー」であり、著者ら自身が新たに実験や調査を行ったものではありません。また、対象となった7件の研究は、前向きコホート研究、横断研究、実験研究、ランダム化比較試験など研究デザインが多様で、結果にもばらつき(異質性)があると述べられています。そのため、「この食品を食べれば顎関節症が改善する」あるいは「特定の栄養不足が顎関節症を引き起こす」といった、因果関係や治療効果を裏付けるには証拠が不十分であると著者らは結論づけています。
まとめ
今回のシステマティックレビューは、食事・栄養と顎関節症の関連について、現時点で得られている質の高い研究を整理したものです。特定の食事パターンや栄養素が症状と関連している可能性を示す研究がある一方で、全体として証拠はまだ限定的であり、はっきりした結論には至っていません。今後さらに研究が積み重ねられることで、食生活と顎関節症の関係がより明確になっていくことが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:不十分な栄養と食事は顎関節症に影響を与えるか?システマティックレビュー(BMCオーラル・ヘルス・2026年06月)