この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International journal of food science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

麺類はアジアをはじめ世界各地で広く食べられていますが、その主原料である小麦粉は、熱帯地域の多くの国では生産が限られ、輸入に頼っているのが現状です。著者らは、この輸入依存が食料システムの脆弱さや生産コストの上昇につながると指摘し、地域で得られる原料を活かした麺の開発が食の多様化と自給力の強化につながると述べています。

そこで研究チームが着目したのが、キャッサバを発酵させて作る改質キャッサバ粉(モカフ、mocaf)と、カボチャ(Cucurbita moschata)を粉にしたカボチャ粉です。論文によれば、モカフは発酵によってでんぷん粒の構造や吸水のふるまいが変わり、カボチャ粉にはβ-カロテンやフェノール化合物、食物繊維が比較的多く含まれるとされています。一方で、どちらにも小麦のグルテンが含まれないため、麺の生地構造や食感への影響が課題になります。

この研究の目的は、小麦粉の一部をモカフとカボチャ粉に置き換えたときに、生麺の物性・成分、機能性成分、でんぷんの消化されやすさ、構造、そして食べたときの好ましさがどう変わるかを、まとめて評価することでした。著者らは、従来の研究が物性や官能評価、栄養組成のいずれかに偏りがちだったのに対し、本研究はこれらを一体的に調べた点に特徴があるとしています。

何をどう調べたか

研究チームは、小麦粉:モカフ:カボチャ粉の重量比を100:0:0(対照)、80:10:10、70:20:10、60:20:20、50:25:25の5通りに変えた生麺を作りました。塩(1.5%)とポリリン酸ナトリウム(0.3%)はすべての配合で同じ量とし、こねた生地を30分休ませてから約1.5mm厚に伸ばし、幅約2mmの麺に切り、熱湯で3分ゆでています。

分析項目は多岐にわたります。水分・灰分・脂質・タンパク質・炭水化物といった一般成分、色(明るさを表すL*、赤みのa*、黄みのb*)、テクスチャー(かたさと変形)、ゆでたときに湯へ溶け出す固形分の割合(クッキングロス)を測定しました。機能性の面ではβ-カロテン量、総フェノール量、DPPH法による抗酸化活性を調べています。

でんぷんの消化性については、試験管内で消化酵素(α-アミラーゼとグルコアミラーゼ)を使う方法を用いました。20分以内に分解される「速消化性でんぷん(RDS)」、20〜120分にかけてゆっくり分解される「緩消化性でんぷん(SDS)」、120分後も残る「難消化性でんぷん(RS)」に分け、白パンを基準とした分解の進み方から推定グリセミック指数(eGI)を算出しています。eGIは食後の血糖の上がりやすさを推定する指標です。さらに、分子レベルの構造をFTIR(赤外分光)で、微細構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、30名の半訓練パネルによる5段階の嗜好評価も行いました。すべての配合は3回ずつ独立に製造し、測定も3回繰り返して統計解析にかけています。

報告された主な結果

置き換えの割合を増やすほど、成分組成は一定の方向に変化しました。水分は31.35%から36.30%へ、灰分は1.09%から3.20%へ増加した一方、タンパク質は対照の12.78%から50:25:25配合の6.85%へと低下しました。著者らは、タンパク質の低下はグルテンを含まない粉への置き換えによるものと説明しています。

見た目も大きく変わりました。明るさを示すL*値は81.35から72.78へ下がり、赤みのa*値は2.08から6.75へ、黄みのb*値は11.98から33.59へと上昇しています。論文では、この淡黄色から濃い橙黄色への変化はカボチャ由来のカロテノイド色素によるもので、合成着色料を使わずに独特の外観を与える点が利点だと述べられています。

食感については、かたさが7.79Nから5.35Nへ、変形が11.35%から6.03%へ低下し、クッキングロスは8.24%から12.75%へ増えました。著者らはこれをグルテン網目構造の弱まりによるものとし、ただし60:20:20の配合ではクッキングロスが生麺として許容できる範囲にとどまり、構造の一体性が比較的保たれたと報告しています。

機能性成分は大幅に増加しました。β-カロテンは対照の2.29μg/gから50:25:25配合の124.46μg/gへ、総フェノール量は0.14から4.94mg GAE/gへ、抗酸化活性(DPPHラジカル消去率)は2.69%から49.75%へと上昇しています。

でんぷんの消化性にも変化が見られました。速く消化されるRDSは64.69%から49.08%へ減り、ゆっくり消化されるSDSは20.73%から28.94%へ、難消化性のRSは5.76%から12.62%へ増加しました。これに対応して推定グリセミック指数は73.87から58.06へ低下しています。著者らは、カボチャ粉由来の食物繊維やペクチンがでんぷん粒を取り囲む物理的な壁として働き、酵素が届きにくい緻密な構造ができたことが関係している可能性を挙げています。なお、このグリセミック指数はあくまで試験管内の消化モデルによる推定値であり、実際に人が食べたときの血糖応答とは異なりうると、論文自身が明記しています。

構造観察では、FTIRスペクトルの全体的なパターンは配合によらず似ており、主成分が炭水化物とタンパク質であることを示しました。置き換え割合が高い配合では一部の吸収帯の強度が変わり、でんぷん・タンパク質と非でんぷん成分との相互作用がうかがえたとしています。SEMでは、対照の麺がグルテン網目にでんぷん粒を抱え込んだ緻密で連続的な構造を示したのに対し、置き換え割合が高まるほど孔や隙間のある不均一な構造になり、60:20:20の配合は比較的均質さを保っていたと報告されています。官能評価では、色・香り・味の好ましさは中程度の置き換えまで上がり、60:20:20が最も高い評価を得ましたが、最も置き換えの多い50:25:25では甘い香りが強すぎるなどの理由で評価が下がりました。

この研究が示すこと

この研究は、地域で手に入る改質キャッサバ粉とカボチャ粉で小麦粉の一部を置き換えると、麺の色や食感、機能性成分、でんぷんの消化されやすさが同時に、しかも一貫した方向に変わることを一つのデータセットで示しました。置き換えを増やすほどβ-カロテンや抗酸化活性は高まり推定グリセミック指数は下がる一方で、麺はやわらかくなり、ゆで汁への溶出も増えるという、利点と課題が同居する関係が見えてきます。

著者らの報告した範囲では、60:20:20という中程度の配合が、構造の安定性と官能評価の両面で釣り合いのとれた点にあたりました。輸入小麦への依存を減らしながら、地域の農産物に新しい価値を見いだす——そうした食の多様化の道筋を、具体的な配合と測定値で描き出した研究だといえます。

著者:Slamet A(Department of Agricultural Product Technology, Faculty of Agroindustry, Universitas Mercu Buana Yogyakarta, Yogyakarta, Indonesia, mercubuana-yogya.ac.id.)、Dinarto W(Department of Agrotechnology, Faculty of Agroindustry, Universitas Mercu Buana Yogyakarta, Yogyakarta, Indonesia, mercubuana-yogya.ac.id.)、Sundari S(Department of Animal Husbandry, Faculty of Agroindustry, Universitas Mercu Buana Yogyakarta, Yogyakarta, Indonesia, mercubuana-yogya.ac.id.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Slamet A, Dinarto W, Sundari S. Functional Wet Noodles Based on Modified Cassava Flour and Pumpkin Flour: Physicochemical, Bioactive, Structural, and Starch Digestibility Characteristics. International journal of food science 2026-08-21. DOI: 10.1155/ijfo/7244914. 原著ライセンス:CC BY.