この研究は、タイ、アメリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Emerging Science Journal
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
マンゴスチンは東南アジア原産の果物で、「果物の女王」とも呼ばれます。著者らによると、タイは世界の取引量の9割以上を占める主要な輸出国です。一方で、土壌の水分が大きく変わることで起きる果実の障害が、輸出の伸びを妨げる課題になっています。代表的な障害は二つあります。一つは果肉が半透明のゼリー状になる「果肉透明化」、もう一つは果実内部の管が傷ついて黄色い樹液が漏れ出す「ガミング」です。乾燥の後に大雨が続くモンスーン気候では、こうした障害が起きやすいとされています。
マンゴスチンの水管理には、もう一つ難しい点があります。花を咲かせるには一定期間の軽い水不足が必要とされる一方、果実が育つ時期に水分が大きく変動すると障害が起きやすくなります。研究チームは、センサーとインターネット通信を使う「IoT」で灌水を細かく制御する精密灌漑と、農家の能力を高める研修を組み合わせました。そのうえで、実際の商業果樹園の規模で、収量や果実の品質がどう変わるかを調べました。
何をどのように調べたか
調査はタイ南部ナコーンシータンマラート県チャウアット郡で行われました。対象は隣り合う五つの地区にある60の果樹園です。IoTによる自動点滴灌漑を導入した「スマートファーム」50園と、雨水だけに頼る従来型の果樹園10園を比較し、果実はそれぞれ500個と100個を評価しました。樹齢20〜40年の成木が対象です。
スマートファームでは、深さ15cmから120cmまでの4つの深さに土壌水分センサーを設置しました。データは15分ごとに、低消費電力で広い範囲をカバーできる通信方式「NB-IoT」を通じてクラウドへ送られます。土壌水分は「マトリックポテンシャル」で測りました。これは土が水を引きつけて離さない強さを示す値で、単位はセンチバール(cb)です。数値が大きいほど土が乾いていることを意味します。灌水は、生産者がそれぞれ自分の観察と計測値を照らし合わせて決めた基準に達すると、自動で行われる仕組みです。論文によれば、根の周りの水分はおよそ480cbに保たれ、238日間のデータの欠けのない取得率は97.90%でした。また、五つの地区の気温のばらつきは小さいことが確かめられ、中央の気象観測所1か所のデータを全体で使うことの裏付けとされました。
あわせて、50人の農家を対象に「スマートファーマー」研修を実施しました。研修の前と後で、三つの能力を4段階で評価しています。三つの能力とは、関係機関や仲間との協力、IoT機器を扱いながら地域で受け継がれてきた栽培の知恵を活かす技術力、そして地域で知識をまとめて広める力です。
主な結果
スマートファームでは、気温と地温が0.6〜1.1℃低く、湿度は約2.5%高く、土壌の水分も多い状態でした。果実の平均重量はスマートファームが96.76g、従来型が83.00gで、果実の周囲長や糖度(スマートファーム15.82、従来型15.18)、1ヘクタールあたりの収量もスマートファームの方が統計的に有意に高くなりました。樹高や樹冠の幅、新梢の密度も上回っています。一方、着果率はスマートファームの方が数値上は高かったものの、統計的に意味のある差には至りませんでした。
差が特に目立ったのは果実の障害です。果肉透明化がまったくない果実の割合は、スマートファームで80.4%、従来型で40.0%でした。果肉の半分以上が透明化した重い症状は、従来型の28.0%に対し、スマートファームでは4%にとどまりました。ガミングのない果実は75.6%と45%、表面に傷のない果実は39.8%と28.0%で、いずれもスマートファームの方が多い結果です。
研修については、受講前は参加者の68%が最も基礎的な段階1、20%が段階2にいました。受講後は72%が、自分でIoT機器のトラブルに対処し、土壌水分のデータに合わせて灌水計画を調整できる段階3に達し、残る28%は最上位の段階4に到達しました。総合評価の中央値は1.33から3.33へ上がっています。
この研究が示すこと
著者らは、センサーで土壌水分を安定させることで、果実の重さや収量が増え、商品価値を大きく損なう障害が減ったと報告しています。考察では、IoTを使えば開花に必要な乾燥期間を意図的につくりつつ、行き過ぎた乾燥は避けられるため、花を咲かせるための水不足と果実を守るための安定した水分という、相反する要求を両立しやすくなると論じています。
さらにこの研究は、機器を導入するだけでなく、農家がデータを読み取って自ら判断できるよう育てることも重視しています。実際の果樹園という規模で技術と人の両面を組み合わせた点に、研究チームは本研究の特色を見いだしています。
著者:Krisanadej Jaroensutasinee(Center of Excellence for Ecoinformatics, School of Science, Walailak University, Nakhon Si Thammarat 80161)、Mullica Jaroensutasinee(Center of Excellence for Ecoinformatics, School of Science, Walailak University, Nakhon Si Thammarat 80161)、Chacha Sattharat(Center of Excellence for Ecoinformatics, School of Science, Walailak University, Nakhon Si Thammarat 80161)、E. B. Sparrow(Department of Natural Resources and Environment, University of Alaska Fairbanks, AK)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Krisanadej Jaroensutasinee, Mullica Jaroensutasinee, Chacha Sattharat, et al. Synergizing IoT Precision Irrigation and Community Capacity Building for Enhanced Mangosteen Quality. Emerging Science Journal 2026-10-01. DOI: 10.28991/esj-2026-010-05-022. 原著ライセンス:CC BY.