思春期から青年期にかけては、体だけでなく心の発達にとっても敏感な時期とされています。世界的に不安や抑うつなど青年期のメンタルヘルスの問題が増えている一方で、朝食の欠食や糖分の多い飲料の摂り過ぎといった不健康な食習慣もこの年代でよく見られます。こうした背景のもと、『栄養に関する情報を入手し、理解し、評価し、活用する力(栄養健康リテラシー)』が、食行動とメンタルヘルスをつなぐ、変えることが可能な上流の要因になりうるのではないか、という考え方が提案されています。ただし、栄養健康リテラシーそのものとメンタルヘルスの結果を直接結びつけた研究はまだ少ないのが実情です。今回紹介するのは、こうした青年期のメンタルヘルスに関わる行動面・心理社会面の経路について、これまでの研究をまとめて整理したミニレビュー(系統的レビューではなくナラティブ形式の総説)です。
研究でわかったこと
著者らはPubMed、Web of Science、Scopusで、青年(adolescents)と栄養・健康リテラシー・食行動・身体活動・睡眠・メンタルヘルス(抑うつ、不安、摂食障害、心理的苦痛)などの語を組み合わせて英語論文を検索しました。2023年以降にこの分野の研究が急増したことを踏まえ、食行動・心理社会的要因・介入を示す個々の研究は主に2024〜2026年のものを重視した一方、栄養リテラシーや食リテラシーの概念・測定に関する基礎的な研究や、縦断的コホート研究、既存の系統的レビューは年代を問わず対象に含めています。形式上、正式な質の評価は行っておらず、レビューで扱った主要な研究の概要は表としてまとめられています。
レビューではまず、栄養健康リテラシーを「機能的」「相互作用的」「批判的」という3つのレベルからなる多面的な概念として整理しています。食品ラベルや食事ガイドラインなどの基本情報を得て理解する段階、それを対人関係の中で活用する段階、そして情報源や社会文化的な影響、食環境を分析・省察する段階です。似た概念である「食リテラシー(実際に食品を計画・選択・調理する技能)」や「メンタルヘルスリテラシー(心の不調に気づき、対処し、助けを求める力)」とは概念上区別されるものの、学校の教育現場や調査では両者があいまいに扱われがちであることも指摘されています。また、青年を対象にした栄養健康リテラシーの測定方法にはまだ統一された基準がなく、多くの尺度は「批判的思考」よりも単純な知識の有無を測ることに偏っている点も課題として挙げられています。
次に、栄養健康リテラシーがメンタルヘルスに影響しうる経路として、食事・身体活動・睡眠という3つの行動経路が検討されています。食事については、朝食欠食や糖分の多い飲料の多量摂取といった不健康な食習慣が、横断研究では不安や抑うつのリスクの高さと一貫して関連づけられています。例えばフィリピンの全国調査では、青年の68.1%が過去1か月に少なくとも1回は食事を抜いており、これは野菜・果物摂取の少なさや心理的苦痛、自殺念慮とも関連していましたが、同時に89.1%の生徒が健康的な食事についての教育を受けたと回答しており、知識を伝えるだけでは行動変容に十分でない可能性が示唆されています。一方、縦断研究(追跡調査)の結果は一貫していません。オーストラリアで3,040人の青年を2年間追跡した研究では、食事の質の改善がその後の心理的機能の改善を予測し、悪化はその逆を予測しましたが、英国のROOTSコホート研究では、社会経済的地位やBMIなど他の要因で調整すると、食事の質と抑うつ症状との関連は横断的にも縦断的にも見られませんでした。うつ症状自体が食欲や食選択を変える可能性(逆の因果関係)もあるため、著者らは「食事の質とメンタルヘルスは頑健に相関するが、食事から気分への一方向の経路が確実に証明されたわけではない」と慎重にまとめています。
身体活動については、定期的な運動がエンドルフィン分泌や神経伝達物質のバランス、社会的交流の機会を通じてメンタルヘルスに良い影響を与えうるとされる一方、抑うつ気分がそもそも活動量を減らす可能性も指摘されています。英国の大規模出生コホートの加速度計データでは、12〜16歳の間の座位行動の多さが18歳時点の抑うつ症状の強さを予測し、軽い活動は逆に症状の軽さと関連していました。イランで行われたランダム化比較試験(347人の中学生を対象、6か月間の介入)では、情報・動機づけ・行動スキルの理論に基づく教育により身体活動が増え、不健康な食事が減り、抑うつ得点が6か月後に1.9点低下したことが報告されています。
睡眠については、青年期は生理的・心理的な変化により睡眠不足の影響を受けやすい時期とされ、睡眠は食事とも双方向に関連するとされています。あるスコーピングレビューでは、糖分の多い飲料の摂取量の多さが睡眠障害やメンタルヘルスの問題と同時に見られ、互いに強め合う三角関係になっている可能性が指摘されています。睡眠不足は食欲を調節するホルモン(レプチンやグレリン)に影響し、感情調整を弱めて衝動的・感情的な食行動を増やす可能性があるとされます。ある地域住民の青年サンプルを対象にした研究では、睡眠の質の悪さがその後の不安や抑うつを予測する一方、もともとの症状もその後の睡眠問題を予測しており、一方向ではなく相互的な関係であることが示されています。
さらにレビューは、家庭・仲間・学校・社会文化という4つのレベルの心理社会的要因も検討しています。例えば、オーストラリアの研究では、青年が感じる「親の見守り(モニタリング)」の強さは果物・野菜の摂取の多さだけでなく、糖分の多い飲料の摂取の多さとも関連しており、単純に「見守りが強いほど良い」とは言えないことが示されました。スペインの青年を対象にした研究では、食料が十分に手に入らない家庭状況(食料不安)にある青年は、そうでない青年に比べて抑うつ・不安・ストレス症状のリスクが2〜3倍高いことが報告されています。仲間関係については、ヨルダンの青年を対象にした研究で、いじめが体重状況と生活の質の関連を媒介する一方、仲間からのサポートは保護的に働くことが示されました。またチュニジアの青年を対象にした研究では、自尊心・身体活動・BMIが摂食障害症状の最も強い予測因子とされ、著者らはこれを「摂食障害に近い要因は情報の多さよりも心理・社会的な要因である」ことを示す一つの根拠として挙げています。学校環境については、中国での学校スポーツ施設や食事提供の改善が肥満対策として進められている一方、学校間の健康資源の格差が介入効果のばらつきを生みうることも指摘されています。
学校・地域を基盤とした予防プログラムについては、75件の短期学校介入をまとめたメタ分析で、メンタルヘルスへの効果は小さいながらも統計的に有意であり、1年後の追跡調査でも持続していたことが報告されています。摂食障害予防に関する系統的レビューでは、17件の学校プログラムのうち10件(59%)でメンタルヘルスの改善が見られ、特に不協和理論に基づくアプローチや身体受容を重視するアプローチの効果が高かったとされています。一方、7件の仲間主導型の生活習慣介入をまとめたメタ分析では、心理的苦痛・自己効力感・ウェルビーイングのいずれにも有意な効果は見られませんでした。オーストラリアで71校を対象に行われたHealth4Lifeというクラスターランダム化比較試験では、都市部に比べて遠隔地の青年で食事改善の効果が弱いことが示され、対象集団に応じた設計の必要性が指摘されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
著者らは、栄養健康リテラシーとメンタルヘルスを直接結びつけた研究がまだ乏しいことを繰り返し強調しています。今回レビューで取り上げた主な研究の多くは、食行動や食料不安、自尊心、body image(体型への認識)とメンタルヘルスの関連を調べたものであり、栄養健康リテラシーそのものを測定したわけではありません。著者らが提示した「栄養健康リテラシー→食事・運動・睡眠→メンタルヘルス」という枠組みは、あくまで既存の文献を整理するための概念的な提案であり、著者らの知る限り、この枠組みを正面から検証した研究はまだ存在しないとされています。また、この分野の研究の多くは横断研究であり、時間的な前後関係を示せる縦断研究は数が少なく結果も一貫していません。さらに、質の高い研究の多くは高所得国からのものに偏っており、低・中所得国からのデータは限られています(例としてケニアのスラム地域に住む青年女性を対象にした縦断研究が挙げられていますが、こうした研究自体が希少だとされています)。学校介入の是非についても意見が分かれており、画一的な社会性・感情学習プログラムが正常な発達上の経験を「病理化」したり、文化的なミスマッチを生んだりする可能性を懸念する立場と、効果のばらつきをプログラム改良の機会と捉える立場の両方が紹介されています。著者らは、こうした限界を踏まえたうえで、標準化された測定ツールの開発、縦断研究・因果推論デザインの強化、文化的な適応と公平性を重視した介入研究、デジタル学習手法の検証という4つの今後の研究の方向性を提案しています。
まとめ
このミニレビューは、青年期の不健康な食習慣(朝食欠食や糖分の多い飲料の摂取など)が不安や抑うつのリスクの高さと関連することや、食事・身体活動・睡眠が互いに関わり合いながらメンタルヘルスに結びつきうることを、既存の研究に基づいて整理したものです。栄養に関する情報を理解し活用する力(栄養健康リテラシー)は、こうした行動を左右する「上流」の要因になりうると考えられていますが、著者ら自身が述べているとおり、これはまだ検証されていない仮説であり、直接の証拠は乏しい段階です。一つのレビューとして今後の研究の方向性を示すものであり、栄養健康リテラシーを高めることでメンタルヘルスが改善するかどうかは、今後の研究によって確かめられるべき課題として位置づけられています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:青年期メンタルヘルスの行動経路と心理社会的決定要因:栄養健康リテラシーを上流の標的候補として位置づける(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)