料理のレシピは、単なる調理手順ではなく、地域の歴史や暮らしを伝える文化遺産としての側面を持っています。欧州連合(EU)が資金提供する研究プロジェクト「RELISH(Reframing European gastronomy Legacy through Innovation, Sustainability and Heritage)」は、伝統的な欧州のレシピをデジタル技術やAIを活用して読み解き、若い世代とのつながりを築くことを目指す3年間のHorizon Europe助成プロジェクトです。今回紹介するのは、その研究成果ではなく、プロジェクトの活動や成果をどのように社会に伝え、広め、活用していくかをまとめた「広報・普及・活用(DEC)計画」の改訂版報告書です。英国ダラム大学(University of Durham)を中心とする作業部会(WP11)が、コンソーシアム参加機関の助言を受けてまとめました。

報告書の位置づけと目的

この報告書(成果物番号D11.1)は、プロジェクト開始から6か月目に作成された最初のDEC計画(D10.2)を土台に、20か月目(2026年8月)時点までの実施状況を記録し、今後のあり方を見直したものです。報告書では、コミュニケーション(プロジェクトや成果の周知・発信)、普及(研究成果を論文や公開データなどの形で利用可能にすること)、活用(成果を社会実装や政策提言などにつなげること)という3つの活動を区別して整理しています。これら3つの活動は、欧州委員会の定義に沿って捉えられており、普及活動については必ずEUの資金提供を明記することとされています。今後36か月目に提出予定の活用ロードマップ(D11.3)の準備段階としても位置づけられています。

広報活動の段階的な戦略

報告書では、プロジェクトの広報活動を4つの段階に分けて計画しています。1〜9か月目は「人を中心とした導入期」として、研究者の紹介や参加機関の背景を伝えることに重点が置かれ、この段階は完了したとされています。10〜19か月目は「利害関係者と課題の巻き込み期」で、多様な立場の関係者から意見を募る活動が行われ、これも完了しています。20〜29か月目は「相互学習と関与の深化期」として、関係者が研究チームの視点を理解し、プロジェクトへの関与を深める段階にあり、現在進行中です。30〜36か月目は「関係者コミュニティの支援・構築期」で、ワークショップや試作品・ベータ版のテストなどを通じて実際の利用者コミュニティを育てる段階が計画されており、まだ初期の企画段階にあります。

具体的な広報の実施状況として、ウェブサイト(relisheu.org)は月平均361人のアクティブユーザー、346人の新規ユーザーを記録し、累計7,800件の閲覧があったと報告されています。Instagramでは投稿数85件、週平均61件のやり取り、フォロワー423人に達し、順調(ON TRACK)と評価されています。LinkedInは投稿・再投稿182件、エンゲージメント率8.2%、フォロワー247人で、こちらも順調とされています。一方、Blueskyは他のプラットフォームと重複しない読者層への到達が難しく、関与も不安定だったため、運用が縮小・終了されたと記載されています。ポッドカストについても、当初予定していた3シーズン・各6話構成から、他の成果物を補完する短い形式(10話程度)へと大きく見直されたことが報告されています。プレスリリースは1〜18か月目の間に2件発行され、プロジェクト後半にかけて発行頻度を上げる方針です。

成果の発信・活用と主な活動例

研究成果の公開については、査読付き学術誌への掲載や公開データの提供などが挙げられています。すでに公開された論文として、食品廃棄の識別・測定に関する哲学的アプローチを扱った論文(Nature Food誌掲載、667件のアクセス、2件の引用)や、料理レシピのデジタルツインに関する短編論文(245件のアクセス)が紹介されています。ほかにも、AIと料理・著作権をテーマにした書籍章(刊行予定)や、レシピを文化遺産として扱う編著(査読中)が進行中です。また、ワークショップ向けの手法マニュアル「Food Memories as Living Heritage」の読みやすい版を制作し、2026年1月からレビューとテストのために公開したことも記載されています。

高い注目度が見込まれるイベントとして、2026年9月にイタリア・トリノで開催される国際的な食のイベント「Terra Madre Salone del Gusto」(隔年開催で来場者数25万〜30万人規模とされる、Slow Food運動と関連する催し)への参加が挙げられています。ここでは、レシピの試食ワークショップや、SNSが食の伝え方に与える影響を扱う対話イベント、食の記憶をテーマにしたワークショップなど、複数のプログラムが予定されています。

報告書では、プロジェクトに関わる関係者(ステークホルダー)として、大学生や若い欧州市民(ワークショップやアンケートの参加者)、料理研究に取り組む研究者、シェフや料理専門家、食文化関連の団体、教育者やコミュニティ団体などが具体例として挙げられており、今後は各作業部会がそれぞれ関係する担当分野に応じて、20〜36か月目にかけて政策提言や報告書の共有、意見交換の場づくりなどを進めていく計画が示されています。

この報告書を読むうえでの注意点

この報告書は、研究の科学的な発見をまとめたものではなく、プロジェクトの広報・普及・活用活動の進捗管理と今後の方針をまとめた運営文書です。示されている数値(閲覧数やフォロワー数、エンゲージメント率など)は各SNSプラットフォームの分析ツールによる測定値であり、研究成果の効果や信頼性を示すものではありません。また、活動の一部(3段階目・4段階目の内容や活用ロードマップの詳細など)はまだ進行中または初期の企画段階にあり、今後変更される可能性がある点にも留意が必要です。

まとめ

RELISHプロジェクトは、欧州の伝統的な料理レシピをデジタル技術やAIを通じて捉え直し、文化遺産の継承と若い世代とのつながりを目指す取り組みです。今回の報告書は、その活動をどのように社会に伝え、成果をどう広め、活用につなげていくかについての計画と、これまでの実施状況をまとめたものです。今後、プロジェクトが進むにつれて、政策提言や教育・研修向けのワークショップ、成果の社会実装に向けた動きが本格化していく見通しが示されています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:RELISH 更新・改訂版 DEC計画(ゼノド(欧州原子核研究機構)・2026年08月)