シードル(りんご酒)は世界各地で親しまれている果実発酵飲料ですが、原料となるりんご果汁はアミノ酸やポリフェノール(フェノール化合物)が少なく、これが発酵のスピードや香りの形成、抗酸化的な働きに影響することがあると考えられています。一方で、りんごを搾ったあとに残る「搾りかす(アップルポマース)」や、発酵後にタンクの底に沈む酵母の澱(おり)は、通常は廃棄されがちな副産物です。今回紹介する研究は、これらの“余りもの”を発酵に活かすことで、シードルの品質を高められないかを調べたものです。資源を無駄にせず再利用するという「循環経済」の考え方にも沿った試みとして、栄養や発酵食品に関心のある方には興味深い内容です。

研究でわかったこと

研究チームは、ガラ種のりんご果汁に対して、(1)窒素を豊富に含む酵母澱抽出物(80 mg/L)、(2)乾燥させたりんご搾りかす(47.3 g/L)、(3)その両方、をそれぞれ添加し、酵母(サッカロミセス・セレビシエ)で発酵させて比較しました。発酵の進み方(速度)、酸度やエタノール濃度などの基本的な性質、個々のフェノール化合物の種類と量(HPLCという分析手法で測定)、抗酸化活性(DPPH、ABTS、FRAP、CUPRACという複数の測定法)、色合い(CIELABという表色系)、そして官能評価(人が実際に味や香りを評価する試験)が調べられています。

その結果、窒素抽出物を加えると発酵が速まる傾向が見られ、特に搾りかすと組み合わせた場合には、二酸化炭素の最大発生速度が1日あたり9グラムから16グラムへと増加したと報告されています。一方で、窒素抽出物だけを加えた場合はフェノール化合物の量がかえって減少したものの、搾りかすと組み合わせることでフェノールのバランスが取れたプロファイルになり、より果実的な香りが得られたとされています。また、搾りかすの添加によって滴定酸度が約1.6倍に増え、エタノール含量も1%(体積比)以上増加し、総フェノール量は最大で約20%、抗酸化活性(FRAC法による測定)は最大で約46%高まったことが示されています。官能評価では、窒素抽出物と搾りかすを組み合わせた条件が最も高い総合的な評価を得たと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、りんご搾りかすと酵母澱抽出物という副産物を活用することで、シードルの発酵速度、フェノール化合物や抗酸化活性、香りや味の評価が変化しうることを示したものです。ただし、これは特定の品種(ガラ種)の果汁と特定の菌株を用いた一つの実験結果であり、他の品種や製造条件でも同様の効果が得られるかどうかは、この要旨だけからは断定できません。また、抗酸化活性の測定はあくまで試験管内での化学的な指標であり、これが飲用した際の健康効果を直接意味するものではない点にも注意が必要です。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。

まとめ

今回の研究では、シードル醸造で生じる搾りかすや酵母澱といった副産物を発酵の材料として活用することで、発酵速度が高まり、フェノール化合物や抗酸化活性のバランスが改善し、官能評価でも良好な結果が得られたことが報告されました。廃棄されがちな副産物を上手に活かす手法として、食品産業における資源の有効活用という観点からも注目される研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:シードル副産物を用いた共発酵による飲料品質向上:発酵速度、機能性、官能特性への影響(ビバレッジズ・2026年07月)