スマートフォンやテレビ、インターネットは、いまや世界中の教育現場で情報を届ける手段として期待されています。栄養に関する知識を伝える場面でも、ICT(情報通信技術)を使えば、これまで届きにくかった地域にも効果的に情報を届けられるのではないか――そんな期待が広がっています。しかし、実際に現場でICTがどれだけ活用され、どのような壁にぶつかっているのかは、地域によって事情が異なります。今回紹介するのは、ナイジェリア南部・デルタ州のイカ・サウス地方自治体という農村地域で、思春期の女子生徒を対象にした食と栄養教育におけるICT活用の実態を調べた研究です。

思春期の女子は、成長期であることに加え、将来の妊娠・出産にも関わる栄養状態が重要とされる時期です。農村部ではこうした層への栄養教育が行き届きにくいことが課題とされており、この研究はICTがその橋渡し役になり得るかを検証しようとしたものです。

研究でわかったこと

この研究は、イカ・サウス地方自治体にある5つの中等学校から集めた、女子生徒と食・栄養教育を担当する女性教員あわせて100名を対象に行われました。妥当性が確認された15項目のリッカート尺度(賛否の程度を段階的に答える形式)の質問票を用いてデータを収集し、3つの研究課題と2つの仮説について、有意水準0.05のt検定で分析しています。

まず、ラジオ、テレビ、スマートフォン、インターネットサービス、マルチメディアプロジェクターといったICT機器は、食と栄養教育のために「十分に利用可能である」と回答者が捉えていることが示されました。平均スコアは3.47で、判断基準となる中央値2.50を上回っています。つまり、機器そのものは学校や地域にある程度普及していると受け止められているようです。

一方で、ICTの活用を妨げる要因も明らかになりました。政府からの資金不足、電力供給の不安定さ、教員研修の不足、ICTインフラの不足、そして文化的な障壁などが、大きな制約として挙げられています。これらの制約についての平均スコアは3.54で、こちらも基準値の2.50を上回りました。つまり、機器はあっても、それを十分に活かせない状況があることがうかがえます。

さらに、ICTの利用可能性や制約についての受け止め方を、女子生徒と女性教員の間で比較したところ、両者の間に統計的に有意な差は見られなかったと報告されています。生徒と教員が、ほぼ同じようにICT環境の現状と課題を認識していたことになります。

これらの結果を踏まえ、研究では、食と栄養教育にICTを効果的に統合することが、思春期女子の栄養不良への対応や、持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓をゼロに」の達成に貢献しうると結論づけられています。そのうえで、ICTインフラへの政府投資の拡大、地域の実情に合わせた栄養関連のデジタルコンテンツの提供、教員への継続的な研修、そして農村地域の思春期女子への支援強化が提言されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、ナイジェリアの特定の地域にある5つの学校、100名の回答者を対象にしたアンケート調査に基づくものです。得られた知見はこの調査対象の範囲で示されたものであり、他の地域や国、より広い集団にそのまま当てはまるとは限りません。また、ICTの活用が栄養不良の実際の改善につながるかどうかを直接検証したものではなく、あくまでICT機器の利用可能性や活用上の制約についての認識調査である点にも留意が必要です。一つの研究であり、結論が確定したわけではないことを念頭に置いて読むとよいでしょう。

まとめ

今回の調査では、ナイジェリア農村部の学校において、ラジオやスマートフォンなどのICT機器自体はある程度利用可能とされる一方、資金不足や電力供給の不安定さ、教員研修の不足といった要因がICTの効果的な活用を妨げている実態が示されました。生徒と教員の間で認識に大きな差はなく、共通の課題として捉えられているようです。ICTを栄養教育にどう活かしていくかは、農村地域の栄養課題に取り組むうえで注目される視点の一つといえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ナイジェリア農村部の思春期女子を対象とした食と栄養教育におけるICT活用:デルタ州イカ・サウス地方自治体における持続可能な発展のための栄養不良対策(ナイジェリア・ジャーナル・オブ・ホーム・エコノミクス・2026年08月)