紅茶の味や香りは、製造工程で葉自身が持つ酵素が働くことで大きく作り出されると考えられています。カテキンを酸化させる酵素などがテアフラビンやテアルビジンといった成分を生み出し、紅茶特有の赤い水色やコクにつながるとされています。一方で、葉の表面や内部に棲みついている微生物が、こうした風味の変化にどう関わっているのかは、まだよく分かっていません。中国江西省の井岡山大学などの研究グループは、江西省で作られている紅茶「鉤鉤脑(Gougunao)」を題材に、品種の違いと発酵(加工)段階の違いが、葉に付着した微生物の顔ぶれと、香りや味に関わる化学成分にどう表れるのかを調べました。

対象になったのは、伝統的な小葉種の品種「G1(鉤鉤脑在来種)」と、改良品種「G2(鉤鉤脑2号)」の2品種です。いずれも江西省遂川県(北緯26.32度、東経114.52度、標高300〜500メートル)で2025年4〜5月の春の茶摘み時期に、同じ一芽二葉の基準で同日に採取されました。各品種につき独立した3つの繰り返し区を用意し、それぞれを萎凋・揉捻・発酵・乾燥という同一の標準的な紅茶製造工程(江西省の地方標準規格に準拠)で加工しています。生葉の状態(G1X・G2X)と、加工後の発酵葉の状態(G1F・G2F)の両方からサンプルを採取した点がこの研究の特徴で、加工前後を通して品種差が残るかどうかを追えるようになっています。なお解析にあたっては、葉の表面をエタノールと次亜塩素酸ナトリウムで殺菌処理したうえで微生物のDNAを取り出しており、論文ではこれを「表面殺菌葉付着微生物叢」と呼んでいます。最終のすすぎ水を培養検査したところ、その条件下では菌の生育は確認されなかったとのことですが、著者らは、これは表面にしっかり付着したままのDNAが残っている可能性を完全には否定できない、と注意を添えています。

細菌はSphingomonas、カビの仲間はSetophomaやCladosporiumが目立つ

研究チームは16S rRNAとITSという遺伝子領域を使ったアンプリコンシーケンシングで細菌と真菌(カビ・酵母の仲間)の群集を調べ、あわせてLC-MS(液体クロマトグラフィー質量分析)による非標的の代謝物解析、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)による香気成分の広域ターゲット分析、さらに専門パネルによる官能評価も実施しました。細菌については約98万本、真菌については約101万本の高品質な配列が得られ、細菌は3,525種類、真菌は913種類のASV(近縁な配列のまとまり)に分類されています。全体を通じて細菌ではSphingomonas(スフィンゴモナス属)が優占し、真菌ではDothideomycetes(座嚢菌綱)に属するSetophoma属やCladosporium属が目立って検出されました。統計解析(PERMANOVA)では、細菌・真菌のいずれについても、G1とG2という品種間で群集組成に有意な差があることが示されました。一方、生葉と発酵葉という加工段階による差は、真菌では有意だったのに対し、細菌では有意な差として検出されませんでした。生葉ではG2XでCladosporium・Setophoma・未分類のDidymellaceae科・Epicoleosporiumなどが比較的バランスよく検出され、G1XはSetophomaと未分類Didymellaceae科が優勢でした。加工後はSetophomaが両品種で主要な属として残る一方、G2FではPenicillium属やAspergillus属が増え、G1FではCladosporium属やElsinoe属が増えるなど、品種ごとに異なる変化も見られたということです。

化学成分にも品種差、ただし機能予測は大きくは変わらず

LC-MSによる代謝物解析とGC-MSによる香気成分解析では、生葉の段階ですでにG1とG2の間に成分の違いがあり、その違いは同じ製造工程を経た発酵葉でも検出できる状態で残っていたと報告されています。生葉では、G2でアミノ酸系・有機酸系の成分が比較的多く検出された一方、G1ではガロイル化カテキンなどポリフェノール関連の成分のシグナルが強かったとのことです。発酵後は、G2でモノテルペン類や短鎖脂肪酸関連の成分が、G1ではポリフェノールの酸化に関わる成分などが、それぞれ比較的目立っていたと説明されています。また、PICRUSt2という手法を用いて細菌群集から機能をおおまかに予測したところ、4つの群(G1X・G2X・G1F・G2F)の間で予測される機能の大まかな分布は似通っていたということです。これはあくまで16S rRNA遺伝子の構成から間接的に推測した結果であり、実際に測定した酵素活性や代謝の直接的な証拠ではない点に著者らは注意を促しています。

さらに、微生物の属と化学成分との関係を、品種や加工段階の影響を統計的に調整したうえで解析したところ、細菌・真菌の両方、LC-MS・GC-MSの両プラットフォームを通じて、限られた数の関連(相関)が見つかりました。興味深い点として、同じ分類グループ(綱)に属する真菌の属どうしでも、ある成分とは逆方向の関連を示す例があり、著者らはこれを「大きな分類群単位でまとめて説明できる単純な関係ではなく、属ごとに個別性のあるパターンだ」と解釈しています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、あくまで2つの鉤鉤脑品種を対象に、同一の標準化された製造条件のもとで比較したものです。著者ら自身が述べているように、ここで見つかった微生物と化学成分の関連は、品種と化学的な特徴が同時に変化する「共変動」を記述したものであり、特定の微生物が香りや味の成分を作り出しているという直接的な因果関係を示すものではありません。また、これらの結果を「品種によって微生物パターンが決まる」という一般的な法則として広げて解釈すべきではない、とも明記されています。表面殺菌の手続きについても、培養検査で菌の生育が見られなかったことは確認されたものの、殺菌処理がすべての表面付着微生物のDNAを取り除けたかどうかまでは確認できていない、という限界も示されています。官能評価は6名の訓練を受けた評価員によって行われましたが、これも一つの研究による知見であり、結論が確定したものではありません。

紅茶づくりというと発酵という言葉から微生物の働きを連想しがちですが、この研究が扱っているのは、葉自体が本来持っている酵素反応を主軸としながら、そこに付随する微生物の存在をどう捉えるか、という問いです。品種ごとの個性がどのように紅茶の香りや味に表れてくるのか、その手がかりの一つとして、微生物と化学成分のデータを重ね合わせて見る、という研究の進め方自体に意義があるといえそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Jiahao Ai, Jiahao Ai, Jiahao Ai, et al. Comparative profiling of surface-sterilized leaf-associated microbiota and flavor-associated metabolites in two Gougunao tea cultivars across fresh and fermented leaf stages. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1859865.