ハードサイダー(リンゴを発酵させて作るお酒)は近年人気が高まっていますが、その製造工程ではリンゴを搾ったあとに大量の「搾りかす(ポマース)」が廃棄物として発生します。この廃棄物を有効活用しつつ、サイダーの風味やフェノール化合物(ポリフェノール類など植物由来の成分)を高める方法はないか——そうした関心から行われたのが今回の研究です。研究では、果汁を加熱してから発酵させる「発酵前温浸漬処理」と、搾りかすを果汁に戻し入れる方法の2つに着目し、それぞれがサイダーの成分にどう影響するかを調べました。

研究の方法

研究チームはJonagold(ジョナゴールド)種のリンゴを使用しました。リンゴを粉砕して得た果汁を、次の4つのグループに分けて発酵させています。(1)コントロール:搾りかすの添加も温浸漬処理も行わない、(2)コントロールTM:温浸漬処理のみ行う、(3)CiderAP:搾りかすの添加のみ行う、(4)CiderAPTM:搾りかすの添加と温浸漬処理の両方を行う、という組み合わせです。搾りかすは、粉砕時に生じる平均的な搾りかす重量の50%の量を果汁に加えました。温浸漬処理は、発酵前の果汁を60℃で1時間加熱するという方法です。いずれのグループも20±1℃で14日間発酵させ、できあがったサイダーの総フェノール含量(TPC)、抗酸化活性、そして揮発性成分(香りに関わる成分)のプロファイルを比較しました。

研究でわかったこと

結果として、搾りかすを添加したCiderAPおよびCiderAPTMは、搾りかすを添加しなかったグループに比べて総フェノール含量と抗酸化活性が高くなったと報告されています。また、揮発性成分のプロファイルにも変化が見られ、温浸漬処理と搾りかす添加の両方を行ったCiderAPTMでは、フェニルエチルアルコールという香気成分の濃度が最も高くなり、エステル類(香りに関わる別の成分群)については成分ごとに異なる反応を示したとされています。

統計的な解析では、総フェノール含量と抗酸化活性を有意に高めたのは搾りかすの添加のみであり、温浸漬処理単独ではこれらを高める効果は認められなかったとのことです。一方で、揮発性プロファイルについては、搾りかすの添加と温浸漬処理の両方が影響を与えていたと報告されています。つまり、今回検討した条件では、温浸漬処理を加えても搾りかす添加以上にフェノール含量や抗酸化活性を高める効果は見られなかったものの、サイダーの香りの成分構成には変化をもたらしたということです。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、特定の条件(Jonagold種のリンゴ、60℃で1時間の温浸漬処理、20℃で14日間の発酵など)のもとで行われた一つの研究であり、結果がすべてのリンゴ品種やサイダー製造条件に当てはまるとは限りません。研究チーム自身も、今後は温浸漬処理の温度や処理時間を変えて検討する必要があると述べています。また、この研究はフェノール含量や抗酸化活性、香気成分の変化を調べたものであり、健康への効果を検証したものではない点にも注意が必要です。

まとめ

今回の研究では、リンゴサイダーの製造において搾りかすを果汁に戻し入れることで、総フェノール含量と抗酸化活性が高まる可能性が示唆されました。一方、発酵前に果汁を加熱する温浸漬処理は、それ単独ではフェノール含量や抗酸化活性を高める効果は見られなかったものの、サイダーの香りに関わる揮発性成分の構成には変化を与えることが示されました。研究チームは、これらの知見がサイダー製造者にとって、搾りかすの有効活用や温浸漬処理の応用を検討するうえで参考になるとしています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:発酵前温浸漬処理とリンゴ搾りかす添加がハードサイダーのフェノール含量と揮発性プロファイルに与える影響(ファーメンテーション・2026年08月)