この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of microbiology and biotechnology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

加齢に伴って骨格筋の量と機能が徐々に失われる状態はサルコペニアと呼ばれ、転倒や骨折、入院、死亡のリスクを高めるとされています。高齢化が世界的に進むなか、対策として確立しているのは主に運動と食事のバランスであり、栄養面からの有効な手立ては限られていると著者らは述べています。

近年注目されているのが「腸–筋軸」という考え方です。腸内に住む細菌の構成や、細菌がつくり出す代謝産物が、消化管の外にある骨格筋の状態にも影響しうるという見方で、無菌マウスでは通常のマウスに比べて著しい筋萎縮がみられることなどが根拠として挙げられています。

この研究で取り上げられた難消化性マルトデキストリン(RMD)は、デンプンを分解してつくられる水溶性の食物繊維で、腸内の有益な菌の増殖を助けるプレバイオティクスとして食品に広く使われています。研究チームは、このRMDを食事に加えることが、腸内細菌叢の変化とともに高齢マウスの骨格筋の健康と関係するかどうかを調べました。

何をどのように調べたか

対象は18か月齢の雄マウスです。通常の飼料(標準食)を与える群と、脂肪からのエネルギーが60%を占める高脂肪食を与える群に分け、さらにそれぞれでRMDを与える群と与えない群を設定した計4群(各6匹)を、12週間にわたって比較しました。RMDの量は、体重60kgの成人が1日10gを摂取する場合を基準にマウスの体重へ換算し、1日あたり5.83mgとしています。標準食の群も同じ日齢でそろえることで、RMDに伴う変化を高脂肪食そのものに伴う変化と区別できるようにした、と説明されています。

測定した項目は多岐にわたります。筋力は、金網につかまらせて逆さにし、ぶら下がっていられた時間を測る四肢懸垂試験で、持久力はトレッドミル(走行装置)で速度と傾斜を段階的に上げながら走った総距離で評価しました。体組成はDEXA(二重エネルギーX線吸収測定法)という体脂肪と除脂肪量を測る画像検査で調べ、解剖後にはふくらはぎの腓腹筋とヒラメ筋の重さを量っています。このほか、筋肉や脂肪組織の顕微鏡観察、筋肉の合成に関わる遺伝子の発現量(mRNAレベル)の測定、血液中の脂質の測定、糞便を用いた腸内細菌の16S rRNA遺伝子解析、そして細菌が食物繊維を発酵してつくる短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)の測定が行われました。

報告された主な結果

筋肉に関しては、標準食・高脂肪食のどちらの条件でも、RMDを与えた群で懸垂時間とトレッドミル走行距離が有意に長くなり、腓腹筋とヒラメ筋の重さも対応する対照群より大きかったと報告されています。顕微鏡で測った筋線維の断面積も、両方の食事条件でRMD群のほうが大きくなりました。高脂肪食どうしの比較では、RMDを加えた群は懸垂時間が約2.25倍、腓腹筋の重さが約21%、ヒラメ筋の重さが約50%大きく、筋線維断面積は約54%大きかったとされています。

分子レベルでは、筋肉の合成に関わるPI3K・Akt・mTOR・S6K1という一連の因子や、筋の形成に関わる転写因子(Myf5、MyoDなど)のmRNA発現が、RMDを与えた群で高くなっていました。ただし著者らは、測定したのはmRNAの量であって、タンパク質の働きそのものを確かめたわけではないため、この結果は「特定の経路が活性化された証拠」ではなく「合成・筋形成に関わる遺伝子発現の変化」として解釈すべきだと注意を促しています。筋の分解に関わる遺伝子には一貫した差はみられませんでした。

体脂肪に関する効果は食事条件によって異なりました。高脂肪食の条件ではRMDにより全身の脂肪量や脂肪組織の重さが少なく、脂肪細胞のサイズも小さく、血清の総コレステロールと中性脂肪が低くHDLコレステロールが高いという結果でしたが、標準食の条件では全身脂肪量に有意差はありませんでした。それでも標準食下で筋力・持久力・筋重量の改善がみられたことから、著者らは体脂肪の減少だけではRMDに伴う筋肉面の変化を説明しきれないと述べています。

腸内細菌叢では、菌の種類の豊富さ(アルファ多様性)に群間の有意差はなかった一方、全体の構成には違いがみられました。高脂肪食+RMD群は、高脂肪食のみの群よりも標準食群に近い位置に配置され、増えた菌の種類も食事条件で異なりました。標準食下ではLactobacillus関連の菌やAlloprevotella、高脂肪食下ではAkkermansia muciniphilaやAllobaculumなどが多くなっています。糞便中の短鎖脂肪酸は高脂肪食で低下していましたが、RMDを加えると増加し、高脂肪食どうしの比較でプロピオン酸が約95%、酪酸が約31%高い値でした。菌の量と筋関連指標との間には相関も報告されていますが、著者らはこれらを「同時に起こった関連」であり、腸内細菌や代謝産物が筋肉の変化を引き起こしたことを示す因果の証拠ではないと明確に区別しています。

この報告が意味すること

この研究は、食物繊維の一種であるRMDを高齢マウスに与えると、標準食・高脂肪食のいずれの条件でも筋力・持久力・筋量の低下が抑えられ、それが筋合成に関わる遺伝子発現の上昇や腸内細菌叢・短鎖脂肪酸の変化と同時に観察されたことを報告しています。

注目されるのは、体脂肪が有意に減らなかった標準食の条件でも筋肉の指標が改善した点で、著者らはここから、脂肪の減少だけがRMDと筋肉の関係を説明するわけではないと考えています。同時に、腸内細菌やその代謝産物が実際に筋肉の状態を左右しているのかは、この研究の設計では確かめられていないことも著者ら自身が繰り返し述べています。腸と筋肉のつながりを栄養の側から探るうえでの、一つの観察結果として位置づけられる報告といえます。

著者:Nam Y(Department of Microbiology, Chung-Ang University College of Medicine, Seoul 06974, Republic of Korea.; LuxBiome Co. Ltd., Seoul 06974, Republic of Korea.)、Hwang H(Food R&D Center, Samyang Corp., Seongnam 13488, Republic of Korea.)、Lim D(Department of Microbiology, Chung-Ang University College of Medicine, Seoul 06974, Republic of Korea.)、Cho E(Department of Microbiology, Chung-Ang University College of Medicine, Seoul 06974, Republic of Korea.)、Kim K(LuxBiome Co. Ltd., Seoul 06974, Republic of Korea.)、Sa S(Food R&D Center, Samyang Corp., Seongnam 13488, Republic of Korea.)、Han JS(Food R&D Center, Samyang Corp., Seongnam 13488, Republic of Korea.)、Kim W(Department of Microbiology, Chung-Ang University College of Medicine, Seoul 06974, Republic of Korea.; LuxBiome Co. Ltd., Seoul 06974, Republic of Korea.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nam Y, Hwang H, Lim D, et al. Dietary Resistant Maltodextrin Attenuates Skeletal Muscle Atrophy in Association with Modulation of the Microbiota-Gut-Muscle Axis in Aged Mice. Journal of microbiology and biotechnology 2026-09-02. DOI: 10.4014/jmb.2606.06037. 原著ライセンス:CC BY.