この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

血糖と脂質のバランスが崩れた状態は「糖脂質代謝異常」と呼ばれ、研究チームによれば、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなること)や慢性的な炎症、腸内細菌のバランスの乱れなどが関わるとされています。既存の薬としてオルリスタットやメトホルミンがあり効果ははっきりしているものの、著者らは長期使用時の忍容性(体が使い続けに耐えられるか)が課題だと述べています。

そこで著者らは、次世代プロバイオティクス候補としてヒトの腸に住む細菌Phocaeicola dorei(ホカエイコラ・ドレイ)の菌株YGMCC0564に着目しました。この菌株は以前の研究で胆汁酸を分解する酵素の活性が高く、コレステロールを変換する能力を持つことが報告されていたといいます。本研究の目的は、この菌株が高脂肪食で生じる糖と脂質の乱れをやわらげるかどうかを調べ、その働きが胆汁酸の代謝の変化と結びついているかを検討することでした。

どのように調べたか

論文によると、オスのマウスを高脂肪食で飼育して代謝が乱れたモデルをつくり、高脂肪食を始めるのと同時にYGMCC0564を毎日与える「予防」の設計で8週間観察しました。比較のために、古くから使われてきた代表的なプロバイオティクスであるLactobacillus rhamnosus GG(LGG)と、薬であるオルリスタットを対照として置いています。

評価は、体重や脂肪組織の重さ、肝臓などの組織を顕微鏡で見る病理検査、血液の生化学検査、遺伝子の発現量を測る定量PCRに加え、糞便を使った腸内細菌の16S rRNA遺伝子解析、網羅的な代謝物解析、短鎖脂肪酸の定量、さらに培養細胞を用いた機能試験を組み合わせて行われました。安全性については、免疫不全マウスと通常のマウスを用いた急性試験と4週間の亜慢性試験で確かめたと報告されています。

主な報告結果

著者らの報告では、YGMCC0564を与えたマウスは高脂肪食による体重増加が抑えられ、血清の総コレステロールと中性脂肪、空腹時血糖、インスリン抵抗性の指標がいずれも下がりました。肝臓では脂肪のたまり具合(脂肪変性)と炎症細胞の浸潤が軽くなり、糖を新しくつくる働き(糖新生)に関わる遺伝子の発現も抑えられたとされています。本研究の条件では、オルリスタットとLGGは中性脂肪と空腹時血糖をわずかに下げたものの、総コレステロールやインスリン抵抗性の改善は明確ではなかったと報告されています。

多角的な解析では、YGMCC0564が腸内細菌の構成を作り変え、高脂肪食で減っていた糞便中の短鎖脂肪酸の濃度を回復させました。胆汁酸のプロファイルも変化し、リトコール酸(LCA)などが増える一方で、ケノデオキシコール酸などいくつかの胆汁酸が減ったと報告されています。腸では胆汁酸を感知する受容体に関わるFxr、Fgf15、Gpbar1/Tgr5、Glp-1の発現が上がっており、著者らはこれを胆汁酸受容体のシグナルが強まった状態と整合的だと述べています。

さらに培養細胞を使った実験では、体内で増えていた2種類の胆汁酸を1対1で混ぜたものが、ヒト腸細胞でFXR-FGF19のシグナルを活性化し、ヒト肝細胞では糖新生に関わる遺伝子の発現とブドウ糖の放出を抑えました。安全性試験では、経口投与による明らかな有害作用は認められなかったとされています。

この研究が示すこと

この研究は、特定の腸内細菌が腸内環境を通じて胆汁酸の組成を変え、そこから胆汁酸受容体のシグナルへとつながる道筋を、動物実験と細胞実験を重ねて描き出したものです。著者らは、YGMCC0564が腸内環境を介してFXR-FGF15/19とGPBAR1/TGR5のシグナルを調整し、それが血糖と脂質を下げる働きに関与している可能性があると結論づけています。

腸に住む細菌と、胆汁酸という体の物質、そして糖や脂質の調節がひと続きにつながりうることを具体的に示した点に、この報告の意味があります。

著者:Zhili He(Beijing YuGen Pharmaceutical Co., Ltd)、Ping Chen(Dongguan Songshan Lake Donghua Hospital)、Minlei Zhao(Beijing YuGen Pharmaceutical Co., Ltd)、Wenfang Song(Beijing YuGen Pharmaceutical Co., Ltd)、Shichang Zhang(Beijing YuGen Pharmaceutical Co., Ltd)、雷秋香(People’s Hospital of Xingtai)、Xiaochi Jie(Beijing YuGen Pharmaceutical Co., Ltd)、Jianguo Chen(Beijing YuGen Pharmaceutical Co., Ltd)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhili He, Ping Chen, Minlei Zhao, et al. Phocaeicola dorei YGMCC0564 attenuates HFD-induced glycolipid metabolic disorders in association with remodeling of the gut microbiota and bile acid profiles. Frontiers in Microbiology 2026-09-21. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1911556. 原著ライセンス:CC BY.