お腹の脂肪だけでなく、肝臓に脂肪がたまる「肝脂肪症」は、近年「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD、以前は非アルコール性脂肪性肝疾患と呼ばれていた)」の初期段階として注目されています。自覚症状がないまま進行し、放置すると肝炎や線維化、さらには肝硬変へとつながるおそれがあるとされ、早い段階で脂肪の蓄積を抑える安全な方法が求められています。今回紹介する研究は、2種類の乳酸菌・ビフィズス菌の組み合わせが、この肝臓の脂肪蓄積を抑えられるかどうかを、培養細胞とマウスの両方で調べたものです。

研究チームは韓国のCell Biotech社の研究開発部門に所属しており、共著者の一人は光州にある世界キムチ研究所(World Institute of Kimchi)に所属しています。この論文では日本の研究機関や日本の食品・食習慣への言及は見当たりませんでした。

ビフィズス菌と乳酸菌の組み合わせ「BR3LP3」とは

今回検証されたのは、ビフィズス菌の一種であるBifidobacterium breve BR3株と、乳酸菌の一種であるLactiplantibacillus plantarum LP3株を組み合わせた「BR3LP3」という製剤です。この組み合わせは以前の動物実験でも、高脂肪食を与えたマウスの体重や脂肪量、肝臓の脂肪蓄積を減らす方向に働いたと報告されていましたが、その研究では肝臓への影響は全身の肥満改善の一部として調べられたにとどまり、肝臓の細胞そのものや脂肪合成に関わる分子への効果は十分に掘り下げられていませんでした。そこで今回の研究では、肝臓の細胞モデルと肝臓特有の脂肪合成マーカーに焦点を絞って検証が行われました。

培養した肝臓細胞での実験でわかったこと

まず、ヒトの肝臓がん由来細胞であるHepG2細胞にオレイン酸を加えて脂肪をため込ませ、疑似的な脂肪肝の状態を作りました。ここにBR3株、LP3株、またはその両方(BR3LP3)の培養上清(菌体そのものではなく、菌が培養液中に放出した成分)を500または1000μg/mLの濃度で加えたところ、いずれの処理でも細胞に毒性は見られず、オイルレッド染色による観察では脂肪の蓄積が抑えられる傾向が確認されました。あわせて、脂肪合成に関わるタンパク質であるSREBP-1、PPARγ、C/EBPα、FASの発現量も、これらの処理によって低下したことが報告されています。これらの結果を踏まえ、研究チームは組み合わせであるBR3LP3を、続くマウスを使った実験の対象として選びました。

高脂肪食を与えたマウスでの実験でわかったこと

次に、生後6週の雄のC57BL/6マウスを、通常食を与える群、脂肪カロリー比60%の高脂肪食を与える群、そして高脂肪食に加えてBR3LP3を低用量(1日あたり1.75×10の8乗コロニー形成単位)または高用量(同1.75×10の9乗コロニー形成単位)で経口投与する群、計4群(各群7匹)に分けて5週間の肥満誘導後、6週間にわたり検証しました。その結果、BR3LP3を投与した群では、餌の摂取量に差がないにもかかわらず、体重、体脂肪量、肝臓の重さ、精巣上体脂肪の重さが高脂肪食のみの群と比べて減少したと報告されています。肝臓の組織を観察したところ、高脂肪食のみの群でみられた脂肪滴の蓄積が、BR3LP3投与群では少ない様子が確認されました。

血液検査では、高脂肪食によって上昇していた肝機能の指標(AST、ALT)や、LDLコレステロール・総コレステロール・中性脂肪の値が、BR3LP3投与によって改善する方向に変化したことが示されています。また、脂肪組織から分泌されるホルモンであるレプチンの値と、レプチンとアディポネクチンの比率も低用量・高用量の両方で低下し、インスリンの値は低用量群でのみ有意な低下がみられたとされています。さらに肝臓の遺伝子発現を調べたところ、脂肪合成に関わるSrebp1c、Pparγ、Cebpα、Acc、Fasという5つの遺伝子の発現が、高脂肪食群で上昇していたのに対し、BR3LP3投与群では抑えられていたことが報告されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

興味深いことに、今回の実験では低用量と高用量で効果に明確な差が見られませんでした。著者らは、プロビオティクスの効果は投与量に単純に比例するとは限らないという一般的な傾向を踏まえつつ、腸内での定着や代謝物の産生などは今回測定していないため、なぜこのような頭打ちが起きたのかは明らかにできていないと述べています。

また著者ら自身が、いくつかの重要な限界を挙げています。第一に、この実験デザインでは、肝臓への効果が肝臓に直接作用した結果なのか、体重や体脂肪の減少という全身の代謝改善に伴って二次的に起きたものなのかを区別できないとしています。第二に、遺伝子の発現量は調べられたものの、実際のタンパク質量や酵素の働き、脂質の流れそのものまでは確認されていません。第三に、肝臓の炎症や線維化、脂肪肝炎としての重症度スコアといった、より進行した肝疾患に関わる評価は行われていません。最後に、腸と肝臓の関係(腸内細菌の変化や腸のバリア機能への影響など)についても、今回は直接調べられていない点が今後の課題として挙げられています。これらの点から、この研究はBR3LP3の可能性を示す一つの基礎研究段階の成果であり、ヒトでの効果を確定づけるものではない点に注意が必要です。

今回の結果は、特定の乳酸菌・ビフィズス菌の組み合わせが、細胞実験とマウス実験の両方で肝臓の脂肪蓄積や関連する代謝指標に良い方向の変化をもたらす可能性を示唆するものですが、著者ら自身が述べる通り、メカニズムの解明やヒトを対象とした介入研究など、さらなる検証が必要な段階にあります。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yeongju Yeo, Jong Won Kim, Yusook Chung, et al. Bifidobacterium breve CBT BR3 and Lactiplantibacillus plantarum CBT LP3 Alleviate Hepatic Steatosis by Suppressing Hepatic Lipogenesis and Improving Metabolic Hormone Profiles In Vitro and In Vivo. ジャーナル・オブ・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー (2026). DOI: 10.4014/jmb.2604.04074. 原著ライセンス: cc-by.