著者の所属・活動拠点の国は、バングラデシュです。

掲載誌:Bulletin of the National Research Centre/Bulletin of the National Research Center

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

研究チームは、2024年にバングラデシュのボグラ県とマイメンシン県で発生した牛の口蹄疫について、感染の広がりや発症した牛の死亡状況、原因ウイルスの遺伝的特徴を調べました。口蹄疫は感染力の強いウイルス性の病気で、口やひづめの間に水疱などができます。通常は成牛の死亡が少ない一方、現地の獣医師から成牛でも死亡が目立つとの報告があり、その実態を把握することが研究の背景にありました。

何を、どのように調べたか

対象は、ボグラ県アダムディギ郡で2024年6月に、マイメンシン県ムクタガチャ郡で同年9~10月に起きた流行です。研究チームは24農場の農家に対面で聞き取りを行い、飼養頭数、発症時期、症状と経過、牛の移動、ワクチン接種歴などを集めました。発症や死亡の集計対象は計73頭で、年齢、性別、品種ごとの違いも調べました。

口蹄疫が疑われ、症状が出ている牛から、各地域6頭ずつ計12頭の舌の組織を採取し、ウイルスの遺伝物質を検出する検査で血清型を調べました。さらに各地域から1株ずつ、計2株のウイルスの全ゲノム配列を解析しました。ウイルス表面のタンパク質VP1の配列などを既知の株と比較し、遺伝的な系統と、比較に用いたワクチン株との違いを調べました。

主な報告結果

検査した12検体はすべて、口蹄疫ウイルスのO型に陽性でした。遺伝子配列を詳しく調べたところ、ボグラ県の1株は国内で既に流行しているME-SAグループのInd2001e系統に属していました。一方、マイメンシン県の1株は、東南アジアに分布するSEAグループのMya-98系統に分類されました。こうした遺伝的・地理的なまとまりは「トポタイプ」と呼ばれ、著者らはSEA/Mya-98の国内での流行を初めて確認したと報告しています。

両地域とも、最初に発症した牛は地元の家畜市場で購入され、発症の3~4日前に農場へ導入されていました。新しく入れた牛を隔離する期間は設けられておらず、その後1週間以内に別の牛でも発症が報告されました。著者らは、これらの導入牛が感染源となった可能性を挙げています。

調査対象73頭のうち48頭が発症し、発症割合は65.8%でした。地域別では、ボグラ県が57頭中37頭の64.9%、マイメンシン県が16頭中11頭の68.8%でした。発症した48頭のうち16頭が死亡し、発症した牛に占める死亡の割合である致死割合は33.3%でした。成牛でも、発症した牛の20%が死亡したと報告されています。

比較に用いたワクチン株O/IND/R2/75に対し、VP1のアミノ酸配列には、ボグラ県の株で9か所、マイメンシン県の株で22か所の違いがありました。配列の一致率はそれぞれ95.7%と89.5%でした。違いには、抗体がウイルスを認識する部分や、その近くに位置するものも含まれていました。

この報告が示すこと

著者らは、従来の系統に加えて国内で未報告だった系統が確認されたことを、国境を越えたウイルス流入への脆弱性を示す結果と捉えています。ただし、今回の調査で具体的な越境経路を確定したわけではありません。農場への牛の導入とその後の発症経過からは、新しく入れる牛の隔離や農場内の感染対策の重要性を指摘しています。

系統の解析は各流行につき1株に限られるため、ほかの陽性検体が同じ系統だったか、SEA/Mya-98がどの範囲に広がっていたかは判断できません。また、調査地域で実際に使われたワクチン株を特定できず、比較には既存文献に記載された株を用いています。著者らは配列の違いから抗体によるウイルスの抑制が弱まる可能性を指摘していますが、今回の結果そのものがワクチンの防御効果の低下を実証したわけではありません。

原著論文の著者・所属:Ataur Rahman(Population Medicine and AMR Laboratory, Department of Medicine, Faculty of Veterinary Science, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh, 2202, Bangladesh)、Mehedi Hasan(Population Medicine and AMR Laboratory, Department of Medicine, Faculty of Veterinary Science, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh, 2202, Bangladesh)、Zakeya Khatun(Department of Livestock Services, Dhaka, Bangladesh)、Mohammad Mahibullah(Department of Livestock Services, Dhaka, Bangladesh)、Sabrina Afrin Lira(Population Medicine and AMR Laboratory, Department of Medicine, Faculty of Veterinary Science, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh, 2202, Bangladesh)、Sajedul Hayat(Department of Livestock Services, Dhaka, Bangladesh)、Shukes Chandra Badhy(Central Disease Investigation Laboratory, Department of Livestock Services, Dhaka, Bangladesh)、Md. Golam Azam Chowdhury(Central Disease Investigation Laboratory, Department of Livestock Services, Dhaka, Bangladesh)、Kazi Tahmina Karim(Epidemiology Cell, Department of Livestock Services, Dhaka, Bangladesh)、Mst. Kamrunnaher Akter(Department of Livestock Services, Dhaka, Bangladesh)、Mohammad Mansorol Haq(Department of Livestock Services, Dhaka, Bangladesh)、Sukanta Kumar Sen(Department of Livestock Services, Dhaka, Bangladesh)、Sayra Tasnin Sharmy(Population Medicine and AMR Laboratory, Department of Medicine, Faculty of Veterinary Science, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh, 2202, Bangladesh)、Mst. Sonia Parvin(Population Medicine and AMR Laboratory, Department of Medicine, Faculty of Veterinary Science, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh, 2202, Bangladesh)、Md. Amimul Ehsan(Population Medicine and AMR Laboratory, Department of Medicine, Faculty of Veterinary Science, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh, 2202, Bangladesh)、Md. Taohidul Islam(Population Medicine and AMR Laboratory, Department of Medicine, Faculty of Veterinary Science, Bangladesh Agricultural University, Mymensingh, 2202, Bangladesh)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ataur Rahman, Mehedi Hasan, Zakeya Khatun, et al. Epidemiology of recent outbreaks of Foot-and-mouth-disease in cattle and emergence of SEA/Mya-98 topotype in Bangladesh. Bulletin of the National Research Centre/Bulletin of the National Research Center 2026-11-03. DOI: 10.1186/s42269-026-01516-6. 原著ライセンス:CC BY.