著者の所属・活動拠点の国は、アイルランド、スペインです。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:新しい食品素材のアレルギー面の安全性を確かめる
オリーブの種(核)は、オリーブオイルを搾る工程で大量に出る副産物です。これまでは主に燃料として燃やすなど、価値の低い用途に回されてきました。一方で、種には植物の細胞壁成分が多く含まれており、キシロオリゴ糖を多く含む素材の原料になります。キシロオリゴ糖は、キシロースという糖がつながった、人の消化酵素では分解されにくい糖の一種です。
欧州連合(EU)では、1997年5月15日より前に域内で広く食べられていなかった食品は「ノベルフード(新規食品)」とされ、販売前に厳しい安全性評価を受ける必要があります。オリーブはEUで表示が義務づけられた14の主要アレルゲンには含まれませんが、オリーブに関連するアレルギー反応の報告はあります。また、あるアレルゲンに反応する抗体(IgE抗体)が、構造の似た別の食品のたんぱく質にも反応してしまう「交差反応」が起こることも知られています。
そこで研究チームは、オリーブの種から作ったキシロオリゴ糖を多く含む抽出物について、アレルギーを引き起こす可能性を、試験管内での免疫学的検査と、コンピューターによる予測の二つの方法で調べました。
何をどのように調べたか
研究には、スペインの企業が別々に製造した3つのロット(製造単位)の抽出物が使われました。これらは種から自己加水分解という処理で成分を取り出し、濃縮・噴霧乾燥した粉末で、たんぱく質の含有量は0.55〜0.64%でした。アレルギーの原因となるのは主にたんぱく質であるため、このわずかなたんぱく質が調査の焦点になります。
一つ目の方法は、ELISAと呼ばれる抗体を使った検査です。市販の検査キット8種類を用いて、アーモンド、ピーナッツ、ヘーゼルナッツ、ルピナス、大豆、グルテン(小麦)、ピスタチオ、牛乳という、EUで表示が義務づけられたアレルゲン向けの抗体が抽出物に反応するかを調べました。
二つ目は、抽出物に含まれるたんぱく質の特定とコンピューター予測です。著者らは質量分析という手法でたんぱく質の断片(ペプチド)を読み取り、オリーブのたんぱく質データベースと照合して、元のたんぱく質を特定しました。そのうえで、最も多くのたんぱく質が見つかったロットの83種類の配列を、既知のアレルゲン5000種類以上と比較するウェブツール「AllerCatPro 2.0」にかけ、アミノ酸の並びや立体構造上の似かよいを評価しました。
主な結果
ELISA検査では、検査対象によって反応の程度が異なりました。最も高い値が出たのはヘーゼルナッツで、ロットによって0〜2.81 ppmでした。続いてグルテン(0〜2.10 ppm)、アーモンド(0〜1.17 ppm)、ピスタチオ(0.210〜0.80 ppm)の順でした。牛乳は反応が最も小さく、大豆とルピナスは検出限界未満、ピーナッツも1つのロットを除いて検出限界未満でした。論文は、オリーブにはナッツ類や小麦のアレルゲンと似た種類のたんぱく質が含まれることが知られている点に触れ、これらの結果を交差反応の可能性を示すものとして位置づけています。
たんぱく質の分析では、3つのロットからそれぞれ39、83、30種類の配列が見つかり、15種類は全ロットに共通していました。遺伝子の働きを調節するたんぱく質、細胞の骨格をつくるたんぱく質、代謝にかかわる酵素、ストレス応答に関係するたんぱく質など、多様な種類が含まれていました。一方で、オリーブではまだ働きが明らかになっていないたんぱく質も少なくありませんでした。
コンピューター予測では、83種類のうち16種類(約19%)が他の生物の既知アレルゲンと似ていると判定されました。似ていた相手は、魚(パンガシウス)、小麦や米、カビの仲間、ゴムの木(ラテックス)、ブタクサ、ダニなどのアレルゲンです。このうち小麦のアレルゲンや魚のアレルゲンとの類似は「アレルギー性の強い証拠あり」と判定され、小麦との類似はELISAで小麦(グルテン)に反応が出た結果とも一致していました。16種類のうち5種類は、立体構造の類似度が基準に届かず「弱い証拠」とされました。また、グルテンに似た配列は見つかりませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、試験管内の検査、たんぱく質分析、コンピューター予測を組み合わせた結果から、オリーブの種由来のキシロオリゴ糖抽出物のアレルギーを起こす可能性は低いと結論づけています。ただし、ナッツ類や小麦などとの交差反応の可能性が一部で示されたことも報告しています。
同時に著者らは、試験管内で見られた反応がすべて実際の症状につながるわけではないこと、コンピューター予測は既存のデータベースに頼るため新しいたんぱく質を見落とす可能性があること、ロットごとのばらつきにも注意が必要であることを指摘し、この研究を臨床試験に先立つ初期段階のふるい分けと位置づけています。農業副産物から生まれる新しい食品素材について、安全性を段階的に確かめていく手順の一例を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Maame Ekua Manful(School of Food Science and Environmental Health Technological University Dublin Dublin Ireland; Sustainability and Health Research Hub Technological University Dublin Dublin Ireland)、Joseph O'Shea(Food Safety Department Teagasc Food Research Centre Dublin Ireland; School of Food Science and Environmental Health Technological University Dublin Dublin Ireland)、Antía Torres(Nutrition and Bromatology Group, Analytical Chemistry and Food Science Department, Faculty of Science Universidade de Vigo Ourense Spain)、Paz Otero(Nutrition and Bromatology Group, Analytical Chemistry and Food Science Department, Faculty of Science Universidade de Vigo Ourense Spain)、Catherine Barry‐Ryan(School of Food Science and Environmental Health Technological University Dublin Dublin Ireland; Sustainability and Health Research Hub Technological University Dublin Dublin Ireland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maame Ekua Manful, Joseph O'Shea, Antía Torres, et al. Assessment of Allergenic Potential for Cross‐Reactivity of Olive ( Olea europaea ) Pit Xylo‐Oligosaccharide‐Rich Extract With Legislated Allergens in the European Union. Food Science & Nutrition 2026-08-01. DOI: 10.1002/fsn3.72207. 原著ライセンス:CC BY.