この研究は、ギリシャの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Food Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目指した研究か

バターなどに使われる乳脂肪は、飽和脂肪酸を多く含む一方で、乳製品らしい風味や口どけをもたらす素材です。近年は世界保健機関(WHO)が脂肪全体の摂取を総エネルギーの30%未満、飽和脂肪酸は10%未満に抑えるよう勧めており、パーム油やヤシ油のような固形脂肪に代わる仕組みづくりが課題になっています。

そこで注目されているのが「オレオゲル」と呼ばれる技術です。液状の油に構造をつくる成分を加え、三次元の網目を形成させて半固形状にするもので、飽和脂肪酸を減らしながら食品の食感を保つ手段として研究が進んでいます。

著者らは、無水乳脂肪(AMF、乳脂肪を99.5%以上含み水分などをほとんど含まないもの)を溶剤を使わない「乾式分別」で段階的に分け、得られた各画分がオリーブオイルをどれだけ固められるかを評価することを目的としました。乾式分別は簡便で消費エネルギーが少なく、溶剤を使わないため工業的に最も広く使われている方法だと論文は説明しています。

どのように調べたか

研究チームはまず無水乳脂肪を60℃で溶かし、それまでの結晶の履歴を消したうえで30℃で24時間置き、部分的に結晶化させて遠心分離しました。取り出した液体部分について、25℃、20℃、15℃、10℃、5℃と温度を下げながら同じ操作を繰り返し、融け方の異なる画分を順に取り分けています。

得られた各画分については、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸組成の分析、赤外分光(ATR-FTIR)とラマン分光による分子構造の観察、示差走査熱量測定による結晶化・融解温度の測定、レオメーターによる硬さや変形への抵抗の測定、そして偏光顕微鏡・共焦点レーザー走査顕微鏡による結晶の見え方の観察が行われました。

予備的な検討の結果、30℃で得られた固体画分(S30)と液体画分(O30)が最も対照的な性質を示したため、この二つと未分別の無水乳脂肪がオレオゲル作製に選ばれました。オリーブオイルに対して10〜50%(重量比)の割合で混ぜ、ゆっくり冷やす条件と氷浴で急速に冷やす条件を比べています。

報告された主な結果

分別の収率をみると、無水乳脂肪のおよそ39%が20℃より高い温度で、約40%が10〜20℃の中間の温度域で結晶化したと報告されています。10℃以下で結晶化した低融点の画分は全体の約21%でした。

脂肪酸組成では、S30画分がすべての画分の中で最も飽和脂肪酸の割合が高く、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸が主成分でした。それでも不飽和脂肪酸を一定量(全体で20.1%)保っており、乳脂肪特有の香りに関わる酪酸は高温側の固体画分に多く含まれていたとされています。一方、各温度の液体画分は対応する固体画分より不飽和脂肪酸に富んでいました。著者らは、乾式分別はトリアシルグリセロール(脂肪の主成分)を化学的に変えずに選り分ける操作であるため、物理的性質には大きな差が出る一方、全体の脂肪酸組成の変化は小さいと説明しています。

熱測定では、S30が無水乳脂肪やO30より高い温度で結晶化を始め、融け終わる温度も無水乳脂肪より有意に高いことが示されました。S30とO30の融解温度には約20℃の差があり、飽和度の違いによるものと論文は述べています。レオロジー測定では、S30の弾性率が線形粘弾性領域でおよそ10⁵Paに達し、無水乳脂肪やO30を大きく上回りました。顕微鏡では、未分別の無水乳脂肪が大きな結晶の塊を示したのに対し、S30は細かく均一に分布した結晶が高密度に並ぶ様子が観察されています。

オリーブオイルを固める能力では差がはっきり現れました。未分別の無水乳脂肪とO30画分は50%という高い割合を加えないと自立するゲルにならなかったのに対し、S30は25%で安定した自立ゲルを形成し、10%でも粘りのあるまとまった状態になったと報告されています。熱測定でもこの違いが裏づけられ、25%の無水乳脂肪を用いたオレオゲルの結晶化開始温度が6.2℃だったのに対し、25%S30では15.6℃と高く、0℃に達する前に十分な結晶が育っていたことが示されました。なお、どの試料も安定した網目をつくったのは急速冷却の条件のみで、ゆっくり冷やした場合や冷却が不十分な場合には相分離が起きたとされています。

この研究が示すこと

著者らの報告は、乳脂肪をそのまま使うのではなく、融け方の違いに応じて分けることで、油を固める力が大きく変わることを示しています。とくに30℃で得られた固体画分は、半分の量でも未分別の乳脂肪と同等以上に構造をつくり、より高い温度から結晶化を始めて細かく均一な網目を形成しました。

同時に論文は、そのS30画分の回収率が6%にとどまる点を、大規模な利用を考えるうえでの制約として挙げ、分別工程の最適化が必要だと述べています。乳脂肪という身近な素材を物理的な操作だけで作り分けるという着想が、油の構造化をめぐる選択肢を広げる一つの道筋を示した研究といえます。

著者:Konstantina Zampouni(Department of Food Science and Technology, School of Agriculture, Faculty of Agriculture, Forestry and Natural Environment Aristotle University of Thessaloniki Thessaloniki Greece)、Prodromos Prodromidis(Department of Food Science and Technology, School of Agriculture, Faculty of Agriculture, Forestry and Natural Environment Aristotle University of Thessaloniki Thessaloniki Greece)、Elefterios G. Andriotis(Faculty of Creative Design and Clothing, School of Design Sciences International Hellenic University Kilkis Greece)、Eugenios Katsanidis(Department of Food Science and Technology, School of Agriculture, Faculty of Agriculture, Forestry and Natural Environment Aristotle University of Thessaloniki Thessaloniki Greece)、Thomas Moschakis(Department of Food Science and Technology, School of Agriculture, Faculty of Agriculture, Forestry and Natural Environment Aristotle University of Thessaloniki Thessaloniki Greece)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Konstantina Zampouni, Prodromos Prodromidis, Elefterios G. Andriotis, et al. Physicochemical Insights Into Structuring Olive Oil With Dry‐Fractionated Anhydrous Milk Fat. Journal of Food Science 2026-09-01. DOI: 10.1111/1750-3841.71493. 原著ライセンス:CC BY.