発酵乳やヨーグルトのようなお乳を発酵させた食品は、世界各地で古くから親しまれてきました。乳酸菌のはたらきで酸味が生まれ、保存性が高まると考えられがちですが、実際にどの程度食中毒菌のリスクを抑えられているのかは、生産環境や衛生管理のあり方によって大きく変わります。とくに屋台や露天商といったインフォーマルな市場を通じて流通する乳製品は、冷蔵設備や検査体制が十分でない場合もあり、安全性を科学的に検証することには意味があります。今回紹介する研究は、ジンバブエのハラレとグウェルという二つの都市の中心部にある露天市場で売られている自然発酵乳を対象に、食中毒の原因となりうる細菌の汚染状況と、発酵の過程でそれらの菌がどう生き残るのかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、ハラレとグウェルの中心業務地区にある乳製品販売業者から、自然に発酵させた乳製品のサンプルを30点集めました。あわせて、両都市周辺の5つの酪農場から採取した生乳15点も分析対象としています。すべてのサンプルについてpH(酸性度の指標)を測定したほか、自然発酵乳のサンプルについては採取直後(0時間目)の時点で、総細菌数、大腸菌群数、乳酸菌数、そしてサルモネラ属菌・大腸菌・黄色ブドウ球菌の有無や量を調べました。生乳サンプルについては、同じ項目を0時間目に加えて、自然発酵が進む12時間後、24時間後にも測定しています。
さらに、市販のUHT牛乳(超高温殺菌乳)4点を用いた実験も行われました。このうち2点にはスターター菌(発酵を始めるための乳酸菌)と大腸菌または黄色ブドウ球菌を同時に加え、残り2点にはまずスターター菌だけを加えて発酵させ、乳が固まった段階で大腸菌または黄色ブドウ球菌を後から加えるという方法がとられました。これらのサンプルは、発酵開始から0、6、12、18、24時間の各時点でpHと菌の量が調べられています。
その結果、露天商から集めた発酵乳サンプルの総細菌数は、1ミリリットルあたり10の6.55乗から9.00乗個程度(対数表記でCFU/mLとして表現)という幅で検出され、大腸菌群数は同様に10の2.06乗から6.70乗個程度の範囲でした。大腸菌については調べた全てのサンプルから検出され、その量は10の1.33乗から5.83乗個程度でした。黄色ブドウ球菌は調べた10サンプル中5サンプルから検出され、検出されたものでは10の5.00乗から6.07乗個程度という、比較的高い量であったと報告されています。そして、発酵によって酸性度が高まる条件下でも、黄色ブドウ球菌と大腸菌の両方が生き残ることが確認されたとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ジンバブエの特定の2都市における露天市場の自然発酵乳と、限られた数の農場から得た生乳、そして実験室内で条件を設定したUHT乳を対象に行われたものであり、あくまで一つの研究として位置づけられるものです。この結果がすべての地域や販売形態の発酵乳に当てはまるかどうかは、この論文の要旨だけからは判断できません。研究チームは、これらの食中毒原因菌の存在と発酵過程での生存が、ジンバブエの食品安全に関する法規制への適合という観点から懸念材料になると述べています。そのうえで、自然発酵乳を製造・販売する事業者が衛生管理を徹底すること、また既存の食品関連法規の運用を強化し、特にインフォーマルな小規模乳製品事業者に対する国の食品管理体制の能力を高めることが重要な課題であると提言しており、これは発展途上国全般で広く認識されている課題であるとも述べられています。
まとめ
今回紹介した研究では、ジンバブエの露天市場で販売されている自然発酵乳から、大腸菌や黄色ブドウ球菌といった食中毒の原因となりうる細菌が検出され、発酵によって酸性度が高まった後もこれらの菌が生き残ることが示されたと報告されています。発酵という工程そのものが必ずしも食中毒リスクをなくすわけではないことを示す一例といえ、衛生管理や流通・販売の体制づくりの重要性を考えるうえで参考になる研究だといえるでしょう。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ジンバブエのインフォーマル市場における自然発酵乳中の食中毒原因菌の検出とその生存動態(応用食品技術ジャーナル・2026年06月)