この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Global Health
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
近視が進んで度数が強くなった状態を「強度近視」と呼びます。この研究では、眼鏡やコンタクトレンズを使わないときの視力が基準を下回り、かつ屈折度(球面度数相当値)がマイナス6ディオプター以下になった状態を強度近視と定義しています。著者らは、強度近視は将来にわたって視機能を脅かす合併症の危険を高め、社会的な負担にもつながる問題だと説明しています。
これまで、近視が「どう始まるか」については多くの研究がありました。しかし研究チームは、すでに近視のある学童が「強度近視へ進むかどうか」を長期間追いかけ、地域の社会経済状況や身のまわりの緑の量、屋外で過ごす時間、食事の傾向といった要素とあわせて調べた大規模な研究は乏しいと指摘します。そこで中国・天津市で行われている小中学生の視力調査の仕組み(TCARE)を使い、2021年から2024年までの4年間を追跡しました。
20万人超を4年間、8回の検査で追跡
対象は、調査開始時点で近視があり、まだ強度近視には至っていない小学1年〜中学3年の児童生徒です。角膜矯正用コンタクトレンズの使用者、眼の手術歴のある人、ほかの眼疾患がある人などを除いた20万4238人(開始時の平均年齢は約10.8歳)が分析されました。追跡期間中、半年ごとまたは年ごとに視力検査が繰り返されています。
調べた要素は大きく四つです。第一に地域の社会経済状況で、天津市の16の行政区について、1人あたりGDP、教育予算や医療予算の割合、医師・看護師の人口あたりの数、人口あたりの病床数などの公的統計をまとめ、主成分分析という統計手法で一つの指標にして「高・中・低」の3段階に分けました。第二に学校周辺の緑の量で、人工衛星が観測した植生指数(NDVI。近赤外線と赤色光の反射の差から植物の量を推定する値)を、学校から半径1kmなどの範囲について算出しています。第三に1日の屋外活動時間で、2時間を超えるか否かで分けました。第四に食事で、アンケートをもとに「高エネルギー型」「植物性中心型」「伝統的な栄養豊富型」の三つの傾向に分類しています。なお屋外活動と食事の情報は保護者や子どもの回答に基づくため、思い出しの誤差などの影響を受けうると著者らは述べています。
報告された主な結果
追跡期間中に2万6879人(13.2%)が新たに強度近視になりました。開始時に強度近視へ進んだ群は、そうでない群より年齢がやや高く、もともとの近視の度数も強く、家族に近視の人がいる割合が高い(54.0%対41.4%)といった違いがみられています。
統計モデルによる分析では、社会経済状況が低い地域に住む子どもは、高い地域の子どもに比べて強度近視になる危険が54%高い(ハザード比1.54、95%信頼区間1.49〜1.59)と報告されました。中程度の地域でも17%高いという結果です。一方、1日2時間を超える屋外活動(ハザード比0.92)と植物性中心の食事(同0.97)は、危険の低さと結びついていました。学校周辺の緑が多いほど危険が低い傾向もみられています。
さらに著者らは、要素の組み合わせによって関連の強さが変わることを示しました。緑の多い地域の子どもは屋外活動の長短にかかわらず全体として危険が低く、緑の少ない地域では屋外時間の長さによる差がより目立ちました。逆に社会経済状況が低い地域では、屋外活動の保護的な関連が弱まっていました(低い地域でハザード比0.96、高い地域で0.89)。年齢別では6〜12歳で屋外活動の関連がもっとも強く(同0.88)、13〜18歳では弱まっていました。
これらはいずれも観察された関連であり、研究の限界として、社会経済状況や緑の量が個人ではなく地域単位で割り当てられていること、行動の変化を時間とともに追ってはいないこと、天津市という地域に限られるため他地域へそのまま当てはめられるとは限らないことが挙げられています。
この報告が示すこと
著者らは、子どもの強度近視への進行には個人の習慣だけでなく、住む地域の社会経済的な条件や周囲の環境といった背景が重なって関わっていると結論づけています。とくに、同じ「屋外で過ごす」という行動でも、地域の条件によって結びつきの強さが異なったという点が、この研究が新しく示した部分です。
つまり、子どもの目を守る話を「本人がどれだけ外で遊ぶか」だけに還元してしまうと、地域ごとの差という大きな部分を見落とすことになる、というのがこの報告から読み取れる含意です。
著者:Zixun Wang(Tianjin Key Laboratory of Retinal Functions and Diseases, Tianjin Branch of National Clinical Research Center for Ocular Disease, Eye Institute and School of Optometry, Tianjin Medical University Eye Hospital, Tianjin, China)、Jingtao Yu(Tianjin Key Laboratory of Retinal Functions and Diseases, Tianjin Branch of National Clinical Research Center for Ocular Disease, Eye Institute and School of Optometry, Tianjin Medical University Eye Hospital, Tianjin, China)、Desheng Song(TMUE Optometric Technology Co., Ltd., Tianjin, China)、Jinghui Wang(Tianjin Key Laboratory of Retinal Functions and Diseases, Tianjin Branch of National Clinical Research Center for Ocular Disease, Eye Institute and School of Optometry, Tianjin Medical University Eye Hospital, Tianjin, China)、Hua Yan(Department of Ophthalmology, Tianjin Medical University General Hospital, Laboratory of Molecular Ophthalmology, Tianjin Medical University, Tianjin, China)、杜蓓(Tianjin Key Laboratory of Retinal Functions and Diseases, Tianjin Branch of National Clinical Research Center for Ocular Disease, Eye Institute and School of Optometry, Tianjin Medical University Eye Hospital, Tianjin, China)、Ruihua Wei(Tianjin Key Laboratory of Retinal Functions and Diseases, Tianjin Branch of National Clinical Research Center for Ocular Disease, Eye Institute and School of Optometry, Tianjin Medical University Eye Hospital, Tianjin, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zixun Wang, Jingtao Yu, Desheng Song, et al. Influence of environmental, economic, dietary, and behavioural factors on high myopia onset in children: a 4-year large-scale cohort study. Journal of Global Health 2026-10-02. DOI: 10.7189/jogh.16.04298. 原著ライセンス:CC BY.