サプリメントとして広く使われているCoQ10(ユビデカレノン)やビタミンE(酢酸トコフェロール)は、含有量や純度を確かめるために液体クロマトグラフィーという分析装置で調べられています。ただし、これらの成分は水になじみにくく分子が大きいため、従来の分析法ではアルコールに加えてテトラヒドロフランやヘキサンといった、より環境負荷の大きい有機溶媒を混ぜた移動相(分析中に成分を運ぶ液体)が必要になることが多いとされています。今回の研究では、こうした溶媒の代わりに炭酸ジメチル(DMC)という溶媒を使うことで、分析にかかる環境負荷を抑えつつ性能を保てるかどうかが調べられました。
研究でわかったこと
研究チームはこれまでに、多環芳香族炭化水素という物質群の分析でDMCが有効な移動相になることを確認していました。今回はこの知見をCoQ10とビタミンEに応用しています。具体的には、標準的なC18カラム(分析用の充填剤を詰めた筒)を使い、85%DMC・10%エタノール・5%水を移動相としたところ、酢酸トコフェロールの保持時間(成分がカラムにとどまる度合いを示す指標)は、95%メタノール・5%水を使った場合に比べて12分の1程度にまで短縮されたことが報告されています。また、CoQ10とその還元型であるCOQH2を分離する実験では、50%DMC・50%エタノールの移動相を使うと2分未満でベースライン分離(成分同士が完全に分かれた状態)が得られ、50%アセトニトリル・50%エタノールを使った場合の8分と比べて大幅に時間が短縮されたとされています。さらに、粒子径1.8マイクロメートルのUHPLC用カラムを用いた実験では、91%DMC・6%エタノール・3%水の移動相で分析時間が1分未満まで短縮されたことが示されています。
研究ではさらに、トコフェロール、酢酸トコフェロール、COQH2、CoQ10という、サプリメント製剤でよく見られる4成分の混合物についても検討されました。統計ソフト(Minitab 17.1.0)を用いた実験計画法により条件を最適化した結果、76%DMC・16%エタノール・8%水の移動相を毎分0.58mLで流し、カラム温度を40℃に保つ条件で、4成分すべてを1.75分未満でベースライン分離できたと報告されています。この方法の定量下限は0.6~3mg/L、直線性は5~150mg/Lの範囲で確認され、添加回収率はほぼ100%に近く、測定のばらつきを示す相対標準偏差は0.2~2%だったとされています。実際に市販サプリメントを分析したところ、多くはラベル表示に近い値を示した一方、ある1つのサンプルの酢酸トコフェロールについては表示値との差が見られたことも記されています。加えて、分析法の環境配慮度を評価する指標(MoGAPI)によるスコアは、今回の方法で78点となり、米国薬局方(USP)で定められた既存法の62点を上回ったとされています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この論文は、Miami University(オハイオ州)の化学・生化学科に所属する研究者らによって行われたもので、分析化学の観点からサプリメント成分の測定手法を検討した基礎研究です。CoQ10やビタミンEそのものの健康への効果を検証した研究ではなく、あくまで「これらの成分をどう正確かつ環境負荷を抑えて測定するか」という分析技術に焦点を当てている点に注意が必要です。また、今回報告されている数値や条件は今回の実験系で得られたものであり、対象サンプルの数や種類、装置の違いによって結果が変わる可能性もあります。一つの研究であり、この手法があらゆる現場で従来法に取って代わるかどうかは、今後のさらなる検証を待つ必要があります。
まとめ
この研究では、CoQ10やビタミンEといった脂溶性の高いサプリメント成分を分析する際に、炭酸ジメチルを移動相の成分として使うことで、分析時間の短縮と環境配慮度スコアの向上が両立できる可能性が示唆されました。分析化学の分野におけるグリーン化の一つの試みとして位置づけられる研究といえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Mohamed A. Abdelaziz, Neil D. Danielson. Green reversed-phase liquid chromatography of CoQ10 and vitamin E using dimethyl carbonate as the mobile phase modifier. グリーン・アナリティカル・ケミストリー (2026). DOI: 10.1016/j.greeac.2026.100380. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.