スーパーで売られているカット済みのリンゴは、切ってから時間が経つと切り口が茶色くなったり、風味が落ちたりします。これは酸素に触れることで酵素が働き、リンゴに含まれるポリフェノールが変化してしまうためです。一方で、包装材料には食品を守る役割だけでなく、廃棄後の環境負荷という側面もあります。イタリア・サピエンツァ大学ローマの研究グループらは、カット済みの「ゴールデンデリシャス」種のリンゴを対象に、包装材料の違いがポリフェノールの残存量と環境への影響の両方にどう影響するかを調べました。
研究チームは、Consorzio Melinda社(イタリア)から入手したゴールデンデリシャス種のリンゴを芯や傷んだ部分を除いてカットし、約150gずつに分けて3種類の袋で包装しました。従来型のポリエチレン(PE)フィルム(Pack 1)、トウモロコシデンプン・キャッサバ・ユーカリを原料とするバイオベースフィルム(Pack 2)、トウモロコシデンプン由来のポリ乳酸(PLA)フィルム(Pack 3)です。5℃で保存し、包装前(0日目)、14日目、21日目の3つの時点でサンプルを分析しました。
包装によってポリフェノールの残り方が大きく違った
総ポリフェノール量(TPC)はフォーリン・チオカルト法という発色反応を使う方法で、総フラボノイド量やABTS・DPPHという2種類の抗酸化能測定法とあわせて調べられました。さらにHPLC(高速液体クロマトグラフィー)という分析装置で、カテキン、カフェ酸、エピカテキン、p-クマル酸、ルチン、ケルセチンという6種類の個別のポリフェノール成分も定量されています。
その結果、21日間保存した後の総ポリフェノール量は、Pack 2では0日目と比べて17.4%増加した一方、Pack 1では31.0%、Pack 3では37.6%それぞれ減少したと報告されています(本文中では割合の算出方法によりPack 1が46.8%減という記載もあり、いずれにせよ大きく減少したとされています)。個別の成分を見ると、ルチンとケルセチンはPack 3でPack 1より明らかによく保たれており、21日後の値はPack 3でルチン17.65mg/100g・ケルセチン1.93mg/100gだったのに対し、Pack 1ではそれぞれ0.67mg/100g・0.19mg/100gにとどまったとされています。カテキンとエピカテキンは0日目の時点でそれぞれ34.97mg/100g、31.05mg/100gと最も多く含まれる成分でしたが、保存期間中の変動が特に大きかったとも記されています。統計解析(二元配置分散分析)では、保存時間・包装材料・その組み合わせのいずれもがTPCやTFC、ABTS抗酸化能、個々のポリフェノール成分に有意な影響を与えていた一方、DPPH法による抗酸化能には有意な影響が見られなかったとされています。また、TPCとABTS抗酸化能の相関係数は0.6885であり、総ポリフェノール量だけでなく、どの成分がどれだけ含まれるかという「質的な組成」も抗酸化能に関わっている可能性が示唆されています。
「環境に優しい」包装が万能とは限らない
研究チームは、SimaPro v.9.5.5というソフトウェアを用いたライフサイクルアセスメント(LCA、原料調達から製品化までの環境負荷を評価する手法)も行いました。その結果、石油由来のPack 1は地球温暖化への影響や化石資源の消費という点では最も負荷が大きかったものの、リサイクルの仕組みが確立している点は利点として挙げられています。植物由来のPack 3は化石資源への依存や温室効果ガス排出を大きく減らせる一方、農地利用や陸域生態毒性への影響が大きく、堆肥化施設が限られているなど廃棄段階の課題も指摘されました。バイオベースフィルムのPack 2は資源消費の面では最も良好でしたが、土地利用の影響ではPack 3と同程度かそれ以上、人の健康への影響という指標では3種類の中で最も大きい値を示したとされています。研究チームは、どの包装材料もすべての評価項目で優れているわけではなく、「品質保持」と「環境負荷の低さ」を同時に満たす包装は見つからなかったと結論づけています。
この研究の位置づけと留意点
著者らは、このLCA評価が原料生産から製品化まで(クレードル・トゥ・ゲート)の範囲にとどまり、廃棄後の過程(コンポスト化など)を含んでいない点を限界として挙げています。そのため、生分解性素材が本来持つ廃棄段階での環境上の利点は、この評価には反映されていません。またケルセチンやカフェ酸などの一部の成分は、抽出方法の影響(酸性条件での加水分解など)を受けて実際の含有量より低く測定されている可能性があるとも述べられています。今回の実験はゴールデンデリシャス種という1品種を対象にしたものであり、包装材料と保存条件の組み合わせも限られています。あくまで一つの研究であり、他の品種や保存条件でも同様の傾向が見られるかどうかは、今後の研究で確認される必要があります。
カット果物の鮮度や栄養価を保つ工夫は、食品ロスの削減や消費者の健康志向とも関わる身近なテーマです。今回の研究は、包装選びが「見た目の鮮度」だけでなく「ポリフェノールという栄養成分の残存量」や「環境負荷」にも関わることを示した点で、今後の包装設計を考えるうえでの手がかりの一つになりそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Lucia Maddaloni, Giuliana Vinci, Paola Russo, et al. Impact of Packaging Material on Polyphenol Preservation and Environmental Sustainability in Fresh-Cut Apples. モレキュールズ (2026). DOI: 10.3390/molecules31162845. 原著ライセンス: cc-by.