著者の所属・活動拠点の国は、ブラジル、スペインです。
掲載誌:Biomass Conversion and Biorefinery
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ブリチ(Mauritia flexuosa L.)は南米の熱帯地域、とくにアマゾンに広く分布するヤシの一種です。木材以外の森林資源として地域経済を支えています。果実には、β-カロテンを中心とするカロテノイド(橙色の色素成分)、ポリフェノールなどのフェノール化合物、オレイン酸を多く含む油脂が含まれることが知られています。
研究チームは、こうした成分を毒性のある有機溶媒に頼らずに順番に取り出す「バイオリファイナリー」の工程を組み立てることを目指しました。バイオリファイナリーとは、一つの生物資源から複数の有用成分を段階的に回収し、資源を余さず活用する考え方です。論文は、三つの環境配慮型の抽出技術について、効率、選択性、環境面の性能を評価・比較することを目的として掲げています。先行研究には超臨界抽出と従来の溶媒抽出を組み合わせたものがありましたが、本研究は環境配慮型の溶媒と技術だけで工程を構成した点を特徴としています。
どのように調べたか
研究チームは、ブラジル・パラ州の市場で購入したブリチの果実を果肉と果皮ごと凍結乾燥し、粉砕しました。水分、炭水化物、脂質、たんぱく質、灰分を測定したところ、乾燥重量あたりの脂質は15.83%でした。脂質が多いと、微量成分の回収やその後の分析が妨げられるおそれがあります。そこで工程の最初に脂質を取り除く「脱脂」を行うことにしました。
脱脂には超臨界二酸化炭素抽出を用いました。これは、高い圧力と温度で液体と気体の中間的な性質をもつ状態にした二酸化炭素を溶媒として使う方法です。研究チームは60℃、25.0 MPaの条件で、抽出の進み方を時間を追って記録しました。
脂質を除いた残りの果実原料には、二つの経路を適用しました。一つは加圧液体抽出で、高温・高圧で溶媒を液体のまま原料に作用させます。溶媒には、エタノールと水の混合液、または酢酸で酸性にしたエタノールを使いました。もう一つは、天然深共晶溶媒(NADES)と超音波を組み合わせる抽出です。NADESは、塩化コリン、ベタイン、グリセロール、メントール、脂肪酸などの天然由来の成分を混ぜ合わせ、分子同士を水素結合で結びつけて液体にした溶媒で、毒性や環境負荷が低いとされています。
主な報告結果
超臨界二酸化炭素による抽出では、約240分で油の累積収率が18.98%に達しました。これは、従来の基準的な方法であるソックスレー抽出で得られた15.83%を上回る値です。著者らは、ソックスレー抽出では一般に12〜15時間かかることと比べ、より短い時間で脂質をより完全に回収できたと述べています。得られた油の脂肪酸は、オレイン酸が67.5%で最も多く、次いでパルミチン酸が26.8%でした。
加圧液体抽出の収率は、酸性エタノールで37.14%、エタノールと水の混合液で21.19%でした。ただし論文は、これらの値は回収された乾燥抽出物の総量であり、もともと果実に含まれていた有用成分の回収量を直接示すものではないと注意しています。著者らによると、酸性・高温の条件では原料の結合が切れたり成分が変化したりする可能性があります。そのため、抽出物の質は収率だけでなく、カロテノイドやフェノール化合物の組成、抗酸化性とあわせて判断したとしています。
準備したNADESは、いずれも最長150日間、結晶の生成や分離のない均一で透明な状態を保ちました。これらの溶媒のpHや密度は種類によって大きく異なりました。著者らは、こうした幅広い性質の違いから、目的とする成分に合わせて溶媒を選べる柔軟性があると論じています。超音波とNADESで抽出した液は黄色から橙色を示し、脱脂後の原料にもカロテノイドが残っていることがうかがえました。グリセロールを含む溶媒では濁りや沈殿が生じました。一方、メントールを基にした溶媒では色が濃く透明度が高く、その後の分析で扱いやすかったと報告されています。
研究が示すこと
この研究は、ブリチの果実から、まず超臨界二酸化炭素で油を取り出し、その残りから環境配慮型の溶媒で色素やフェノール化合物を含む抽出物を得るという、段階的な工程を示しました。同時に著者らは、抽出量が多いことが必ずしも有用成分を多く得たことを意味しないと強調しています。抽出法を比べるときに、量と質を分けて見る必要があることを示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Cecília Roratto Köhn(Bioactive Compounds Laboratory, Food Science and Technology Institute, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenue Bento Gonçalves n°, P. O. Box 15059, Porto Alegre, 9500, 91501-970, Rio Grande do Sul, Brazil; Foodomics Laboratory, Bioactivity and Food Analysis Department, Institute of Food Science Research CIAL (UAM-CSIC), Nicolás Cabrera 9, Madrid, 28049, Spain)、Paola de Souza(Bioactive Compounds Laboratory, Food Science and Technology Institute, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenue Bento Gonçalves n°, P. O. Box 15059, Porto Alegre, 9500, 91501-970, Rio Grande do Sul, Brazil)、Luana Cristina dos Santos(Departamento de Tecnología Química y Ambiental, E.S.C.E.T, Universidad Rey Juan Carlos, C/ Tulipán s/n, 28933, Móstoles (Madrid), Spain; Foodomics Laboratory, Bioactivity and Food Analysis Department, Institute of Food Science Research CIAL (UAM-CSIC), Nicolás Cabrera 9, Madrid, 28049, Spain)、Simone Hickmann Flôres(Bioactive Compounds Laboratory, Food Science and Technology Institute, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenue Bento Gonçalves n°, P. O. Box 15059, Porto Alegre, 9500, 91501-970, Rio Grande do Sul, Brazil)、Alessandro de Oliveira Rios(Bioactive Compounds Laboratory, Food Science and Technology Institute, Federal University of Rio Grande do Sul, Avenue Bento Gonçalves n°, P. O. Box 15059, Porto Alegre, 9500, 91501-970, Rio Grande do Sul, Brazil)、Lidia Montero(Foodomics Laboratory, Bioactivity and Food Analysis Department, Institute of Food Science Research CIAL (UAM-CSIC), Nicolás Cabrera 9, Madrid, 28049, Spain)、Jose Antonio Mendiola(Foodomics Laboratory, Bioactivity and Food Analysis Department, Institute of Food Science Research CIAL (UAM-CSIC), Nicolás Cabrera 9, Madrid, 28049, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Cecília Roratto Köhn, Paola de Souza, Luana Cristina dos Santos, et al. Integrated green processing and biorefinery valorization of Amazonian Buriti (Mauritia flexuosa L.) fruit biomass. Biomass Conversion and Biorefinery 2026-10-01. DOI: 10.1007/s13399-026-07318-0. 原著ライセンス:CC BY.