この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Environmental Pollution

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ブラジル・アマゾンの川沿いで暮らす人々は魚を主な食料としており、魚に含まれるメチル水銀(水銀の有機化合物で、食物連鎖を通じて大型の魚に蓄積しやすい)に慢性的にさらされています。川に入る水銀の由来としては、過去や現在の金採掘、土壌にもともと含まれる水銀の流出などが考えられますが、今回の地域でどの由来がどれだけ寄与しているかは分かっていません。

一方でアマゾンは、体に必要な微量元素であるセレンが比較的豊富な地域でもあります。セレンは抗酸化の働きや甲状腺ホルモンの代謝などに関わるたんぱく質に欠かせません。セレンは水銀と強く結びつく性質があるため、水銀の毒性を和らげる可能性が論じられてきましたが、逆に水銀と結合したセレンが体内で使いにくくなる可能性も指摘されています。そのため、セレンと水銀の量を原子の数で比べた「Se:Hgモル比」を、水銀の害から守られている度合いの目安として使えるかどうかには議論があります。

著者らは、血液中のセレンは水銀の増加に比例しては増えず、季節ごとの食事、特にどんな魚を食べるかとブラジルナッツの摂取がSe:Hgモル比に影響するという仮説を立てました。主な目的は、乾季と雨季のそれぞれで、血中の水銀が高くなるにつれて血中セレンとSe:Hgモル比がどう変わるかを明らかにすることです。

調べた方法

研究チームは、パラー州のタパジョス川流域とアマゾン川流域にある13の川沿いの集落で、2022年10〜11月の乾季と2023年4〜5月の雨季に調査を行いました。参加者は18〜80歳の住民で、乾季は1084人、雨季は1118人です。各季節に別々に参加者を募る「繰り返し横断研究」という形をとっており、同じ人を追跡して個人の変化を見る設計ではありません。両方の調査に参加した人は約110人でした。

参加者の血液から水銀とセレンの濃度を高感度の元素分析装置で測定しました。あわせて、過去1か月の魚の種類ごとの食べた量やブラジルナッツの摂取を聞き取りました。その回答と、文献に報告された魚やナッツの元素濃度を組み合わせて、食事から取り込む水銀とセレンの量、食事のSe:Hgモル比を推定しました。さらに、魚の種類ごとにセレンと水銀の差し引きを示す指標(HBVSe)を計算し、年齢、性別、集落、食習慣などと血中濃度との関連を統計モデルで分析しました。

主な結果

血中水銀の中央値は乾季が21μg/L、雨季が17μg/Lで、乾季のほうが約24%高くなっていました。血中セレンの中央値は乾季166μg/L、雨季160μg/Lで、差は約4%にとどまりました。その結果、血中のSe:Hgモル比の中央値は雨季のほうが高く(26対21)、雨季には水銀の低下の割合がセレンの低下より大きかったことを示しています。乾季に最もよく食べられていた魚は肉食魚のトゥクナレ、雨季は同じく肉食魚のペスカーダでした。ただし、2つの季節の参加者は年齢構成などが異なっていました。これらの違いを統計的に調整すると、季節間の差はいずれも統計的に有意ではなくなったと論文は報告しています。

どちらの季節でも、血中水銀が高い人ほど血中セレンも高いという関連が見られました。しかし水銀の増え方にセレンが追いつかないため、水銀が高くなるほど予測されるSe:Hgモル比は下がっていました。魚の種類別の指標HBVSeは、よく食べられていたトゥクナレとペスカーダでマイナスとなり、水銀の量がセレンを上回る側にあることが示されました。

ブラジルナッツを食べている人は、食べていない人に比べて血中セレンが乾季で約11.0%、雨季で約21.8%高いという関連が見られました。推定した食事のSe:Hgモル比は、魚だけで計算した場合に比べ、ブラジルナッツを含めると乾季で1.5から10.3へ、雨季で1.3から1.9へ上がりました。

研究が示すこと

著者らは、水銀へのばく露が高い状況では、血中のセレンが高くても、セレンと水銀のバランスが良好であるとは限らないと結論づけています。また、HBVSeや食事のSe:Hgモル比は、確立された医学的な基準値ではなく、食事のバランスを探るための参考指標として解釈すべきだとしています。

この研究は、水銀とセレンの血中の値に、食べる魚の種類、季節ごとの食事の変化、ブラジルナッツのような魚以外のセレン源の情報を組み合わせて見ることで、魚を主食とする地域の栄養面のリスク評価をより適切に行える可能性を示しています。

著者:Lucas Cassulatti Dos Santos(University of Sao Paulo, School of Pharmaceutical Sciences of Ribeirao Preto, Department of Clinical Analyses, Toxicology and Food Sciences, Analytical and System Toxicology Laboratory, Av. do Café s/n°, Ribeirão Preto, São Paulo, 14040-903, Brazil)、Fernando Barbosa(University of Sao Paulo, School of Pharmaceutical Sciences of Ribeirao Preto, Department of Clinical Analyses, Toxicology and Food Sciences, Analytical and System Toxicology Laboratory, Av. do Café s/n°, Ribeirão Preto, São Paulo, 14040-903, Brazil. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lucas Cassulatti Dos Santos, Fernando Barbosa. Mercury exposure and selenium status in human populations from Amazonian riverine communities: seasonal patterns and dietary factors associated with the Se:Hg molar balance. Environmental Pollution 2026-09-21. DOI: 10.1016/j.envpol.2026.129210. 原著ライセンス:CC BY.