この研究は、中国、カナダの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとした研究か

ミャンマーは農業を基盤とする経済を持ち、東南アジア大陸部でも重要な農業国のひとつです。農業は国内総生産の2割以上、雇用の約35%を占めると論文は述べています。しかし著者らによれば、これまでの研究は米の作付面積の変化や豆類の拡大など個別の側面に焦点を当てたものが多く、農地面積・作付けの組み合わせ・穀物の自給の状況を、国内14の州・地域という単位でまとめて捉えた研究は限られていました。

研究チームはこの空白を埋めるため、四つの問いを立てています。第一に、ミャンマーの農地面積は時間的・空間的にどう変わってきたのか。第二に、農地の変化に伴って作物の生産のパターンはどう変わったのか。第三に、乾燥した内陸部である中央乾燥地帯(CDZ)で、農地面積と作物生産の違いを説明する要因は何か。第四に、穀物の自給の水準は全国・地域でどの程度か、という点です。

ここでいう「自給」は、国連食糧農業機関(FAO)の定義に従い、国内で生産された食料がどれだけ手に入るかを指します。論文は、食料安全保障がこれに加えて供給の安定性や人々のアクセスまで含む、より広い概念であることを区別して説明しています。

衛星データ・統計・農家への聞き取りを組み合わせる

著者らは2000年から2025年までを対象に、複数の種類のデータを組み合わせました。農地の分布は、世界を30メートル四方の細かさで捉えた土地被覆の年次データセットから「農地」に分類される部分を取り出し、行政区画ごとに面積を集計しています。あわせてミャンマー中央統計機構の統計年鑑から、作物ごとの生産量と作付面積のデータを用いました。

農地や作物生産の変化に何が影響しているのかを調べるため、中央乾燥地帯のヤメティン郡区とオッタラ郡区で農家への聞き取り調査も行っています。各郡から6村、1村あたり50戸を選び、2026年1月から3月にかけて対面での聞き取りを実施し、603戸のうち回答が揃った600戸を分析に用いました。質問票では、気候に関わる要因(気候変動、干ばつ、洪水、不規則な降雨)と、農業資源の制約に関わる要因(十分な水の確保、土壌肥沃度の低下、良質な種子の入手のしにくさ、労働力不足、市場的な誘因の欠如)について、農家がそれぞれを影響要因として挙げるかどうかを尋ねています。

分析には、変化の方向と大きさを測る傾向分析のほか、複数の結果変数を同時に扱う多変量分散分析(MANOVA)が用いられました。この手法は、農地面積と作物生産という関連し合う二つの結果に、各要因がどう効いているかをまとめて調べるために選ばれたと説明されています。穀物の自給率については、生産量を推定消費量で割った値として計算し、1を超えれば余剰、1なら過不足なし、1未満なら不足と分類しました。消費量は都市・農村別の一人当たり消費量の目安に人口を掛けて推計しています。

報告された主な結果

論文によれば、ミャンマーの農地面積は研究期間を通じて統計的に有意な増加傾向を示し(τ = +0.52、p < 0.01)、2000年の1399万ヘクタールから2025年の1730万ヘクタールへ、23.6%拡大しました。ただしこの変化は一直線ではなく、著者らは三つの局面に分けています。2000年から2010年は急速な拡大期(+23.1%)、2010年から2019年は土地の劣化やサイクロンによる農地の喪失、耕作放棄などの影響を受けた減少期(−7.6%)、そして2019年から2025年は回復期(+8.8%)でした。

州・地域別に見ると差が大きく、カイン州が+80.9%と最も大きく増えた一方、チン州は−50.09%、ラカイン州は−19.42%と減少しました。チン州について論文は、山がちな地形と灌漑へのアクセスの不足を背景として挙げています。エーヤワディ地域は一貫して最大の農地面積を保ち、ザガイン地域とバゴー地域とあわせて国の農業の中心地であると著者らは述べています。

作付けのパターンでは、同じ土地で1年に2回作物を育てる「二期作」が引き続き重要な方式であり、その面積は2000年の374万ヘクタールから2025年の583万ヘクタールへ55.9%増えました。同じ畑で複数の作物を同時に育てる「混作」の面積は変動が大きく、2010年に386万ヘクタールまで増えたあと2025年には151万ヘクタールへ減っています。作物別では、米が引き続き最大の作付面積を占める一方、トウモロコシの作付面積が大きく伸び(+188.83%)、小麦は減少しました(−35.86%)。落花生や各種の豆類も作付面積・生産量ともに増えています。

中央乾燥地帯での農家調査の分析では、洪水を挙げた回答者の割合が84.67%と最も高かったものの、農地面積と作物生産の変動との関連は統計的に有意ではありませんでした(p = 0.383)。労働力不足(79.33%)や市場的な誘因の欠如(78.00%)も同様に有意ではありませんでした。有意な効果が確認されたのは干ばつ、不規則な降雨、十分な水の確保、土壌肥沃度の低下で、なかでも十分な水の確保(F = 11.191、p < 0.001)と土壌肥沃度の低下(F = 10.263、p < 0.001)の効果が最も強いという結果でした。

2025年の都市・農村人口の推計に基づくと、国内消費に必要な量は米が約797万トン、小麦が約312万トン、トウモロコシが約42万トンと見積もられています。著者らは、全国レベルではミャンマーが穀物の自給で余剰を保ってきた一方、地域間の差が大きく、デルタ地域は余剰を示すのに対し高地の州では不足が生じていると述べています。

この研究が示すもの

この研究は、ミャンマー全土の農地の動きを2000年から2025年まで追い、衛星に由来する土地被覆データと公式統計、農家への聞き取りを一つの分析にまとめた点に特徴があります。全国で農地が増え、二期作が広がり、穀物全体では国内需要を上回る生産が保たれてきた——その全国像の内側に、農地が半減した州と8割増えた州が同居しているという構図を、著者らは州・地域という単位で描き出しました。

中央乾燥地帯の分析では、農家が最も多く挙げた要因が必ずしも農地や生産の違いを説明するとは限らず、水の確保と土壌肥沃度という資源面の条件がより強く関わっていたと報告されています。著者らは、こうした知見が持続可能な農地利用の計画づくりや食料安全保障に関わる政策判断を支える根拠になりうると位置づけています。

著者:Saw Yan Naing(College of Resources and Environment, University of Chinese Academy of Sciences, Beijing 100049, China)、Lin Zhen(College of Resources and Environment, University of Chinese Academy of Sciences, Beijing 100049, China)、Yu Xiao(College of Resources and Environment, University of Chinese Academy of Sciences, Beijing 100049, China)、Xingtao Liu(College of Resources and Environment, University of Chinese Academy of Sciences, Beijing 100049, China)、Xin Wen(Department of Physical & Environmental Sciences, University of Toronto Scarborough, Toronto, ON M1C1A4, Canada)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Saw Yan Naing, Lin Zhen, Yu Xiao, et al. Farmland and Cropping Pattern Dynamics in Myanmar: Implications for Food Security and Sustainable Agriculture. Foods 2026-08-29. DOI: 10.3390/foods15173066. 原著ライセンス:CC BY.