この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:ACS omega
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
植物由来のタンパク質は、増え続ける食料需要に応えながら、より持続可能な食料生産を支える選択肢として注目されています。著者らは、そうした素材の供給源としてアマゾンの生物多様性、なかでもブラジルナッツの木(Bertholletia excelsa)に着目しました。この木は地域経済で重要な役割を担い、その種実は栄養価の高いタンパク質源として利用されています。
この研究の目的は、ブラジルナッツからpHの違いを利用したタンパク質沈殿法によって「タンパク質分離物」を取り出し、その化学的・物理的・物理化学的な性質を明らかにすることです。タンパク質分離物とは、原料から脂質や糖などを取り除いてタンパク質の割合を高めた粉末状の素材を指します。著者らは、工業的に使いやすく、薬品の使用をできるだけ減らして最終製品の質を保つ製法をめざしたと述べています。
どのように作り、何を調べたか
原料には、ブラジル・アマゾナス州テフェの農産加工所から入手したナッツを用いました。冷蔵したのち70℃で乾燥させ、油圧プレスで油を搾り、残った固形分(脱脂ブラジルナッツケーキ)を出発材料としています。
抽出は二段階です。まず「塩溶(ソルティングイン)」と呼ばれる段階で、脱脂ケーキを水に分散させ、アルカリ性(pH9)の条件で撹拌してタンパク質を水側へ溶け出させます。次に「塩析(ソルティングアウト)」の段階で、液のpHを酸性(pH4)に調整し食塩を加えることで、溶けていたタンパク質を固体として沈殿させます。得られた沈殿はスプレードライ(噴霧乾燥)で粉末にされました。著者らは、pHを8〜12、抽出時間を1〜6時間、温度を3水準で比較し、pH9・4時間・104°Fという条件が最も効率がよかったと報告しています。
得られた粉末については、タンパク質・脂質・水分・炭水化物・灰分といった一般成分のほか、脂肪酸組成(核磁気共鳴とガスクロマトグラフィー質量分析)、ミネラル(誘導結合プラズマ発光分光分析)、アミノ酸(高速液体クロマトグラフィー)、総フェノール量、電気泳動によるタンパク質の大きさの分布が調べられました。さらに、水や油を抱え込む力、泡立ち・泡の安定性、乳化のしやすさと乳化の安定性といった食品加工上の性質(機能特性)、加熱したときの重量変化、粉末の流れやすさや密度、電子顕微鏡による粒子の形状も評価されています。
主な報告結果
著者らによると、得られたタンパク質分離物のタンパク質含量は平均73%で、高い純度を示しました。水分は1.96%と低く、微生物による汚染や品質劣化を抑えるうえで満足できる水準だと述べられています。炭水化物は20%、灰分(ミネラル分の指標)は6.34%、総フェノール化合物は6.32%でした。脂質は0.43%とわずかですが、その内訳はオレイン酸43.26%、リノール酸29.51%と不飽和脂肪酸が中心でした。
ミネラルについては、カルシウム、鉄、マグネシウム、マンガン、亜鉛といった必須ミネラルが含まれており、とくにセレンの濃度は成人の推奨摂取量(1日55マイクログラム)と比べて高いと報告されています。ただし著者らは、セレンが実際に体にどれだけ取り込まれるかは消化・吸収の過程に左右されるため、濃度が高いことがそのまま栄養面での寄与を意味するわけではないと注意を促しています。アミノ酸分析では18種類が検出され、食事に不可欠とされるアミノ酸がすべて含まれ、アルギニン、メチオニン、グルタミンが特に多いという結果でした。
電気泳動では、11kDa未満から35kDa程度までの低分子量のタンパク質が中心でした(kDaはタンパク質の大きさを表す単位)。著者らは、同じ種から別の方法で得られた分離物では75kDaまでのタンパク質が報告されているのと対照的で、今回の製法は低分子量の成分を優先的に取り出していると述べています。同時に、低分子量タンパク質は消化に抵抗しやすい性質をもつ場合があるため、食品や機能性素材として使う際にはアレルギーの観点からさらなる特性評価が必要だとも指摘しています。
機能特性では、泡立ちの能力は8〜24%と低い一方、いったんできた泡を保つ力は87〜96%と高く、pHが上がるほど安定性は下がりました。乳化の能力は49〜60%、乳化を保つ力は60〜80%で、幅広いpH域で使える可能性が示されています。水を抱える力は65%、油を抱える力は145%でした。加熱による分解は4段階で進み、100℃未満での水分の蒸発に続き、150℃手前、約200℃、225℃以降で段階的な重量減少が観察されています。粉末は細かいものの自由には流れにくく、密度の測定からは圧縮しやすく、添加剤を組み込む余地のある性質が示されました。
この研究が示すこと
この研究は、ブラジルナッツの搾油後に残る脱脂ケーキという副産物から、pH調整を中心とした比較的単純な工程で、タンパク質を7割以上含む粉末を作れることを実際に示しました。著者らはあわせて、その粉末が必須アミノ酸とミネラルを備え、油を抱え込む力や乳化を保つ力といった、食品づくりで役立つ性質をもつことを報告しています。
アマゾンの生物多様性に根ざした素材を、廃棄されがちな部分から価値ある食品原料へとつなげる道筋を、組成と性質の両面から具体的に描いた点に、この報告の意義があります。
著者:Rufino JLDS(Faculdade de Ciências Farmacêuticas (FCF), Universidade Federal do Amazonas (UFAM) Av. Gen Rodrigo Otavio, n° 6200, Coroado, CEP 69077-000 Manaus, AM, Brazil.)、de Assunção PVDS(Faculdade de Ciências Farmacêuticas (FCF), Universidade Federal do Amazonas (UFAM) Av. Gen Rodrigo Otavio, n° 6200, Coroado, CEP 69077-000 Manaus, AM, Brazil.)、Souza E Souza LB(Departamento de Ciências da Vida (DCV), Universidade Estadual da Bahia (UNEB), Rua Silveira Martins, n° 2555, Cabula, CEP: 41.150-000 Salvador, BA, Brazil.)、Cezário Brandão JP(Departamento de Ciências da Vida (DCV), Universidade Estadual da Bahia (UNEB), Rua Silveira Martins, n° 2555, Cabula, CEP: 41.150-000 Salvador, BA, Brazil.)、de Oliveira Araújo BR(Instituto de Ciências Biológicas (ICB), Universidade Federal do Amazonas (UFAM), Av. Gen. Rodrigo Otavio, n° 6200, Coroado, CEP 69077-000 Manaus, AM, Brazil.)、de Holanda KER(Faculdade de Ciências Farmacêuticas (FCF), Universidade Federal do Amazonas (UFAM) Av. Gen Rodrigo Otavio, n° 6200, Coroado, CEP 69077-000 Manaus, AM, Brazil.)、de Freitas Santos Junior A(Departamento de Ciências da Vida (DCV), Universidade Estadual da Bahia (UNEB), Rua Silveira Martins, n° 2555, Cabula, CEP: 41.150-000 Salvador, BA, Brazil.)、de Andrade EV(Instituto de Ciências Biológicas (ICB), Universidade Federal do Amazonas (UFAM), Av. Gen. Rodrigo Otavio, n° 6200, Coroado, CEP 69077-000 Manaus, AM, Brazil.)、Lima ES(Faculdade de Ciências Farmacêuticas (FCF), Universidade Federal do Amazonas (UFAM) Av. Gen Rodrigo Otavio, n° 6200, Coroado, CEP 69077-000 Manaus, AM, Brazil.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rufino JLDS, de Assunção PVDS, Souza E Souza LB, et al. Production and Characterization of a Brazil Nut Protein Isolate with Functional Properties for Food Applications. ACS omega 2026-09-01. DOI: 10.1021/acsomega.6c04239. 原著ライセンス:CC BY.