著者の所属・活動拠点の国は、オランダ、アイルランド、ニュージーランドです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ「栄養の似かた」を測るのか
健康、環境への負荷、費用、食文化など、さまざまな理由で「ある食品を別の食品に置き換える」ことが提案されています。ところが著者らによると、置き換えの根拠は、たんぱく質の量やエネルギー量といった一つの栄養素や、料理での使われ方の似かたに頼ることが多く、基準もまちまちでした。食品の栄養的な価値は多くの栄養素の組み合わせで決まるため、一つの指標だけで比べると、実際には栄養の中身が大きく違う食品どうしを交換可能とみなしてしまうおそれがあります。
そこで研究チームは、情報検索や機械学習の分野で使われてきた「コサイン類似度」という指標を、食品の栄養素の構成(栄養プロファイル)の比較に応用することを提案し、その使い方と性質を検討しました。論文によれば、この指標を食品の栄養プロファイルの分析に用いたのは今回が初めてです。
どのように比べたのか
研究チームは、オランダの食品成分データベースから、21種類の必須栄養素すべてのデータがそろった927品目の食品を選びました。アルコール飲料、ハーブ・香辛料、特別用途食品などは、置き換えの検討対象としては範囲外として除いています。また、分析の対象は不足を避けたい必須栄養素に限り、食塩のように摂りすぎに注意すべき栄養素は含めていません。
各栄養素の量は、食品100gあたりの含有量が成人の1日の摂取基準量の何割にあたるかに換算しました。こうすることで、単位や量の桁が大きく異なる栄養素どうしでも、特定の栄養素だけが結果を左右しにくくなります。
コサイン類似度の考え方は次のとおりです。栄養素の一つひとつを座標軸とする多次元の空間を考え、各食品をその空間の中の「矢印」として表します。二つの矢印の向きがそろっているほど値は1に近づき、向きが大きく異なるほど0に近づきます。矢印の向きは栄養素どうしの比率で決まり、長さ(量の多さ)には左右されないため、食べる量の違いに影響されずに「栄養素の構成がどれだけ似ているか」を比べられる、と著者らは説明しています。
研究チームは927品目のあらゆる組み合わせについて類似度を計算し、同じ食品群の中どうし、異なる食品群どうしの両方で値の分布を調べました。さらに、計算に使う栄養素を6種類から21種類まで6通りに変えて、栄養素の選び方が結果にどう影響するかも検討しました。
主な結果
21種類の栄養素で計算すると、多くの食品群で、同じ群の中でも類似度は0に近い値から1に近い値まで幅広く分布しました。卵、チーズ、ナッツ・種子類では似た値に集まる傾向が見られた一方、野菜や、肉・乳製品の代替食品の群では値が大きくばらつきました。著者らは、同じ食品群に分類されているからといって栄養の構成が似ているとは限らないことを示す結果だとしています。
異なる食品群どうしの比較では、全体として類似度は低めでしたが、意外な組み合わせで高い値が見つかりました。たとえば、野菜の芽キャベツと、果物のキウイフルーツやオレンジとの間では、類似度が0.9を超えました。研究チームは、こうした群をまたぐ「栄養の橋渡し」が、料理や素材による従来の分類では見落とされやすいと指摘しています。
計算に含める栄養素を増やすと、全体としては類似度が下がり、値のばらつきが大きくなる傾向がありました。ただし、組み合わせによっては上がるものもありました。どの栄養素の追加で値が大きく変わるかは食品群によって異なり、野菜ではビタミンK、チーズや肉類ではビタミンB12を加えたときの影響が目立ちました。象徴的な例として、牛乳と大豆飲料は、たんぱく質だけで比べると類似度が1になる一方、21種類の栄養素で比べると0.27にとどまりました。
オランダでよく食べられているたんぱく質源10品目を比べた例では、ピーナッツバターと大豆飲料、モッツァレラチーズと卵や低脂肪乳の組み合わせが似た栄養構成を示し、著者らはこれらを置き換えの候補になりうるとしています。反対に、鶏むね肉はほかのどの食品とも類似度が低く、栄養構成が独特であることが示されました。
「どこからが似ている」と言えるかについて、この指標自体に決まった基準はありません。著者らはデータ全体の分布をもとに統計的な検討を行い、今回のデータでは類似度0.78と0.86が、それぞれ全組み合わせの90%と95%がその値を下回る目安になると報告しています。
この研究が示すこと
著者らは、コサイン類似度が多数の栄養素を同時に考慮して食品どうしの栄養構成の似かたを数値で示せる道具になると結論づけています。一方で、この指標は栄養素の比率の似かたを表すもので、含まれる量そのものは示しません。そのため著者らは、食品の栄養の豊富さを一つの点数で表す既存の評価方法と組み合わせて、補い合う形で使うことを想定しています。
また、どの栄養素を計算に含めるかで結果が大きく変わることから、なるべく幅広い必須栄養素を考慮する重要性も強調されています。たんぱく質の量だけ、同じ食品群だから、といった直感的な基準で食品を置き換え可能とみなすことの危うさを、具体的な数値で示した研究だといえます。
原著論文の著者・所属:Renée P. M. Cardinaals(Food Systems Research, 5973 PZ Lottum, The Netherlands)、Benjamin M. Taylor(School of Mathematical Sciences, University College Cork, T12 K8AF Cork, Ireland)、Miriam E. Clegg(School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, T12 K8AF Cork, Ireland)、Andrew J. Fletcher(Fonterra Research and Development Centre, 4472 Palmerston North, New Zealand; Sustainable Nutrition Initiative<sup>®</sup>, Riddet Institute, Massey University, 4410 Palmerston North, New Zealand)、Stephan Peters(Dutch Dairy Association, 2509 AA Den Haag, The Netherlands)、Thom Huppertz(FrieslandCampina, 3818 LE Amersfoort, The Netherlands; School of Food and Nutritional Sciences, University College Cork, T12 K8AF Cork, Ireland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Renée P. M. Cardinaals, Benjamin M. Taylor, Miriam E. Clegg, et al. Quantifying Nutrient Profile Similarity Among Foods Using Cosine Similarity of Multidimensional Nutrient Profiles. Nutrients 2026-10-22. DOI: 10.3390/nu18213473. 原著ライセンス:CC BY.